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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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24/30

24 蛮族


 ……恥ずかしいっ!


 思わず叫んでしまった自分の言葉を思い出し、苦悶の表情を浮かべる。


 『に……にんげんだああああああぁぁぁぁぁぁ!!!』


 それはまるで蛮族か、それとも化け物か、おおよそ文明人が発するような言葉ではなかった。


 ――コホン。


 今のことは忘れてくれ、と念を込め、わざとらしく咳ばらいをひとつ。


 武器を構えていた手を下げ、改めて姿勢を正して、3人の人間たちに向かって歩いていく。


 この世界で、初めての人間との邂逅(かいこう)だ。


 慌てず、焦らず、余裕をもって、敵意がないように……。


 そうゆっくりと距離を縮めていく。


 近づくにつれ、相手の細かいところまでがわかるようになってくる。


 俺、こんなに視力良かったっけ? もしかしたらこの世界にきて強化されたのは筋力だけではないのかもしれない。


 思えばこの世界に転移した日に川を見つけた時も、スコールの影響もあったとはいえ、この耳が川の流れる音を拾ったからだったな。筋力以外、例えば五感なんかもブーストされているのだとしたら、久しぶりにあの老人に感謝をしないといけない。


 目の前の3人は、緊張した様子で俺の動きに注視している。


 そりゃそうだよな。素性の知れない人間との初対面なんて、日本人同士だとしても多少の警戒はある。だからこそ俺は、警戒心を持たれないよう武器を下げ、ゆっくりと近づく。


 ――こいつら、結構いいとこの出か?


 なぜそう思ったかというと、3人とも、頭から足先まで一貫して綺麗な身なりをしているからだ。


 森を抜けてきたからかローブに汚れや傷は当然あるが、フードからちらりと見える髪や髭は整えられているし、ブーツも革とおそらく鉄が使用されていて質が良さそう。全体的に、彼らの装備からはこの世界の皮革(ひかく)技術と冶金技術の高さが窺える。


 とてもじゃないが、野盗や宿無しが流れ着いたようには見えない。


「お」


 恐らく前衛の役割を持っている、前にいる二人がゆっくりと剣に手をかける。


 すらりと抜かれたそれは、スタンダードな西洋風の金属の剣だが、その柄の部分には黒い宝石のようなものが埋め込まれている。シンプルながら洗練された気品のあるそれは、やはり彼らがそれなりの地位にいることの証明に思えた。


 ――すげー! 文明だ! 人間が紡いできた歴史だ!


 なんて、まるで俺が初めて人間社会に触れた蛮族かのように興奮してしまう。いや、ある意味それは間違いではないんだけどな。


 しかしあれだ。その剣は手入れこそきちんとされているようだが、隠せない傷やへこみもあり、相当使い込まれているように見える。


 それはつまり、この二人が形だけの剣士ではないということを物語っていた。


 いや、それはいい。


 そりゃあこの地には魔物はいるし、そうじゃなくても鬱蒼とした森を進むには剣に頼ることもあるだろう。


 そこは問題ではない。


 じゃあなにが問題なのかというと――。


 ……ゆっくりと進めていた足を止める。



 ”その剣が俺に向けられているということだ”



 お互いが一言も話さない、静かな時間が流れる。


 俺と白ローブ3人の間を風が抜けていく。これくらい森に近い場所だと木々のざわめきも聞こえてくる。


 動きやすいようにか、ローブの前をゆったりと開いた前衛の剣士二人は、こちらを見据えるようにまっすぐに剣を構える。


 その後ろでは、やや小柄な人物が、ローブの隙間から逆手に持った黒い短剣をぬるりと出す。


 ――どう見ても歓迎されているような雰囲気じゃないな。


 たしかにこんな辺鄙(へんぴ)なところに見知らぬ人間が一人でいたら不審ではあるけど……。


 俺としてはようやくやってきた人間社会との接触の機会。ここで揉めて心象が悪くなるのは避けたい。


 まずは俺に敵意が無いことを伝えて、どうにか取り入る道を探そう。……あわよくば人間の住む町に連れて行って欲しい。


 顔は相手から離さないように、手に持っていた木剣と木盾をそーっと地面に降ろす。


 危険かもしれないが、まずはこちらから心を開かねば対話もクソもあるまい。


「あ、あのー……すみません。一回、いっっかい武器を下ろしてお話しませんか?」


 両手をもみもみして、久しぶりに出す外向けの声で、ちょっとやりすぎなくらいに精一杯の感情を込めてそう言った。


 合わせてできる限りの笑顔も浮かべる。


 ……おそらくあまり上手くはできていないだろう。


 いいんだ、俺に敵意がないことが伝われば。心で泣いて顔で笑う……それが俺の外交術。


 いずれ領主になるのなら、こういった腹芸めいたことも必要になるだろう。そう、心の隅で膝を抱いている自分を励ます。


 しかし、そんな俺の小賢しい努力も虚しく、前衛二人の顔にはより一層深い皺が刻まれる。


 そんな緊迫した空気の流れる中、前衛のうちの一人、髭の生えている方がようやく口を開いた。



「~~~~~!」



 ――――――は?


 我が耳を疑う。


「~~~~、~~~~~~~~~~~~~~~、~~~~~~~~~~~」「……~~~~~~~?」「~~~~~~~~~~……」「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 思わず崩れ落ちそうになるが、剣を構えた相手の前でそんな隙を晒せるはずもなく、なんとか踏みとどまる。


 あぁ……。


 俺は作り笑いのまま、その表情がぐにゃっと歪んでいくのを感じた。


「~、~~~~~~~~~~~? ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」「~~~~」「~~~~~~~~、~~~~~~~~~~~~~」


 やめろ……もうやめてくれ……!


 そいつらは、俺を無視して3人で”会話”を続ける。


 くそっ、頭が痛くなってきた。気分も悪い。吐きそうだ。


「~~~~~~~~~~、”~~”~~~~~~~~~~~~」


 目の前の3人の体にぐっと力が入る。その目は、もう俺を人として見てはいなかった。


 ――終わった。


「~~、~~~~~~~~~~~~~~」「~~、~~~っ!」「~~~っ!」


「言葉、通じないんかいっ!!!」


 嘘だろ! 絶対意思疎通できるようにしといてくれないとだめだろ! なぁ神様よぉ!


 そう、半ば涙目になる俺目掛けて、前衛の二人がダッシュで向かってきた。


 俺は慌てて武器を拾う。……魔法を使うことも忘れて。


 その隙は、経験豊富であろう二人の剣士の前では致命的な隙となった。


「やば――」


 少し前を行く、髭の生えた剣士がその剣を振り上げる。


 ――終わった。


 今度は本当に。


 そう思った瞬間――ヒュッ、と風を切り、俺の後ろから3色の”弾丸”が放たれた。


「スライム!」


 しかし、その顔面に跳んでくるスライムを、剣士は身を捩るようにして躱す。


 スライムはぴょーんと飛んでいくが、二人の剣士も高速で移動していたところを無理したのか、ズザッと斜めに転がる。


――助かった!


 その猶予のおかげで、俺は武器を持って態勢を立て直し、二人と距離を取ることができた。


 仕切り直しだ。


 その距離僅か数メートル。


 また、俺と3人の間にピリッとした空気が流れる。


 しかしそこで俺は気づいてしまった。


 もうずっと一緒にいたので違和感すらなくなっていた。


 ――そっか、俺スライムと一緒じゃん。


 相手からすれば、俺は魔物を連れた人間ということになる。それもこんな森の奥地で。


 ……怪しすぎる!


 森の奥の開けた大地に住む魔物を連れた男。


 そりゃ襲われるわ。


 しかし言葉が通じないのでは弁解のしようもない。


 そうやって俺が動けないでいると、空中旅行から帰ってきたスライムがまたそれぞれ、剣士二人に向けて体当たりを試みる。


 ――危ない!


 相手は剣を持っている。あれで斬られたらスライムといえども致命傷となるかもしれない。


 ――早く加勢しなければ!


 と、そう思うと同時に、ここでスライムの味方をしていいのか? と、少しだけ、すこーしだけ思ってしまう自分もいた。


 ……あぁ、俺は本当に恥ずかしい奴だ。ゴミだ。カスだ。ゴミカスだ。


 長らく苦楽を共にしたスライムと、今さら手を切るだなんてありえない。もちろんそんな気あるわけがない。俺が今やるべきことはわかってる。わかってる、けど……!


 ここでスライムと一緒になって人間と戦ってしまったら、何か……何か本当に取り返しのつかないことになってしまうような気がする。


 その感情を言語化する暇も、飲み込む余裕もない。ただなにか、漠然とその先に恐怖があって……それに怯えていた。


 剣士たちは上手くスライムの体当たりを躱しているが、スライムの直線的な動きにどこか慣れてきている気配がある。相手の動きを分析するような、そんな強かさがあいつらの目にはあった。


 そんな時、雨で地面が濡れているからか、分裂したてで調子が狂ったのか、いつも顔を狙う殺意マシマシのスライムタックルが逸れ、赤スライム一匹がいつもよりかなり低い弾道で髭の剣士に向かって飛んで行ってしまった。


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