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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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20 閑話③


「本当に……よろしいのですね」


「あぁ、かまわん」


 一礼をすると、王国の治安維持を任される”王国衛兵”の長――トリポロは、苦い顔をして政務の間を後にした。


 今しがたこの国の王であるピピンから受けた命令は、国の繁栄を願うトリポロにとってはあまりにも承服しがたいものであった。


「マルセワ邸の制圧、そしてチマル・マルセワの身柄の拘束か……」


 マルセワ家といえば、星詠みの力で代々クァナック王国を支えてきた伝統ある貴族である。特に現当主であるチマルには、トリポロ自身も幼いころから世話になっており、個人的にも今回の件はやり切れないものがある。


「先日の謁見の件で何があったのか」


 貴族の間には”夜に公務を持ち込まない”という慣習があり、当然トリポロもそれは知っている。そしてマルセワ家がその不文律を破り、王の不興を買ったという噂も耳にしていた。


 数日前に王とチマルの謁見が行われたことからも、おそらくこれが原因ではないかと考えているが、政務に疎いトリポロにはなぜこれほどマルセワ家が追い詰められているのかわからなかった。


 『夜に公務を持ち込まないとはいっても、当然そうもいってられない場面はある。慣習はあくまで慣習であり、全ての規則の上位になるような拘束力は無いはずだ』


 『伝統を重んじるマルセワ家が夜間に謁見を求めたということは、それに見合うだけの必要性があったということだろう』


 トリポロがいくら頭を回しても、出てくるのはマルセワ家を擁護する言葉ばかり。


 しかし、どれだけ自分が受けた王命に正当性を見つけられなくとも、トリポロがそれに逆らえるはずもなかった。


 トリポロは、鎧の胸当てに施されたノパルの花の意匠に手をやる。


 枯れた地でも力強く育つノパルは、ゼロから作り上げられたクァナックの力の象徴だ。


 この意匠が王国衛兵である証であり、誇りでもある。


 トリポロが開放的な廊に出ると、クァナックの北にある、遠くの山の方から強い風が吹いた。その時にふと、小さい頃にチマルに聞かされた言葉が頭に浮かぶ。


『この土地は昔、ある神様の物だったんだよ』


 トリポロは小さく眉を顰める。


 こういった神話の類は自分の手の届かぬものだと深く学ぶことはなかったのに、何故今それを思い出すのか。


「あぁ、そうか」


 風に(なび)くケープを煩わしそうに抑えてすれ違う用人を見て、トリポロは得心したように頷く。


 確かその時も、北風の強い日だった。


 チマルが言う、こうやって北から吹く突風のことを、昔は”神渡し”と呼んだのだと。


 その響きがなんとなくかっこよくて、幼少の頃の自分には珍しくチマルに話の続きをせがんだのだったな。


 そう思い出すと、トリポロは足を止め、遠くに見える北の山を眺めて目を細める。


 ――ではその神は今、どうしているのだろうか。


 鉄の胸当てとノパルの花の意匠に守られた胸の奥が、どこかさわさわと騒めくのだった。



 ◆◆◆



 クァナック王国の最北端。


 そこにはカテペックと呼ばれる町がある。


 そこは数年前に生まれた小さな集落だったが、クァナックの歴史を辿るように森の恵みを大いに受け、今では規模こそ小さいが賑やかな町として栄えている。


 森の恵みを受けるといっても、人間族にとってそれは簡単なことではない。この地には魔物が住み着いており、当然その魔物たちも森の恩恵を受け広く繁栄しているからだ。


 明確な目的もなくただ森で暮らす魔物ですら危険だというのに、中には人間のように群れて集落をつくる”魔族”と呼ばれる魔物の集団もいる。


 この人間族と魔族との戦いは、この地で古くから続く生存競争の必然だった。


 しかし実際には、このカテペックのように森を切り開いてできた町があるとおり、大抵の魔物は人間によって狩られる運命だ。むしろそれすら生活の糧としている者たちがいる。


「わかった。その依頼我々が受けよう」


 カテペックにある冒険者ギルド。その奥にある一室で、ギルドマスターと呼ばれる大男と、4人の身綺麗な男女が対面して座っていた。


「では早めにやっといてくれ。こちらも高い金を払ってるんだからな」


 大男は偉そうにそう伝えると、もう用は済んだとばかりに部屋を後にする。


「なによ。自分から頼んどいてその態度」


 黒く輝く短剣を腰にした活発そうな女――ショコは、大男が出て行った扉を睨んでそう言った。


「ま、実際金払いはよさそうだし。僕としては、長々と苦労話をされるよりはマシだったかな」


「そうだな。俺達は結果で名を売ってきたチームだ。ごますりで貰う仕事は好きじゃない」


 柄に黒曜石の装飾のある鉄剣を腰に据えた二人の男――ツォトルとホピンがそれに続く。


「それじゃ、この仕事もさっさと終わらせよう。準備はもうできてるよ」


 この中で唯一、あからさまな武器を持っていない男、モトルクが大きな荷物を背負い、その上から白いローブを羽織る。


 それを合図に、他の3人も似たような白いローブを羽織り、連れ立ってギルドから出て行った。


 彼らは新進気鋭の冒険者チーム「白光(はっこう)」。


 ”王国衛兵”直属の下部組織である”王国兵士団”に所属していた過去を持つ、ツォトルを中心とした冒険者のパーティだ。


 こんな辺境の町ではあまりお目に掛かれないレベルのチームではあるのだが、今回はこの町を管理する貴族からの依頼ということでカテペックにやってきた。


 そう、町の運営が安定してきた頃にやってくる”大探索”の依頼だ。


 村や町が出来てしばらくは、生活圏の森から魔物を追い払うことが主となるが、それが終わりひとまずの流通が出来上がると、今度はより遠くの魔物の退治が必要となる。


 この遠くの魔物とは、影響力の小さい個の魔物ではなく、巣を作るような厄介な魔物のことである。これは長期的に見ると町に多大な影響を与える可能性があり、早めに潰しておくに越したことはない。


 それに万が一にも”魔族”の住む集落が発見されれば、より大きな被害を生むことが予想される。


 そうなるともう冒険者の手に負える範囲ではなくなり、その土地の貴族が私兵を上げて潰さなければならない。


 つまり”大探索”とは、町周辺を広く探索し、付近の魔物の状況を調べる大事な仕事なのだ。


 そんな大役を担うに相応しい「白光」は、町の命運を背負い、白いローブをはためかせながら飲み込まれるようにして森の中へと入っていくのだった。


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