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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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17/30

17 謎の石


 水路に沈めておいた、猪のような魔物の死体を持ち上げる。


 もちろん植物魔法でだが、今回は木材を利用して魔物を持ち上げたのではない。


 魔物が浮いてこないよう岩も一緒に沈めたおいたので、それを括りつけるために使ったツタを利用してだ。


 植物魔法の名の通り、木だけではなく植物類全般に使える能力らしく、使用条件はかなり緩い。


 昨日は、倒した魔物を運ぶときにわざわざ魔物をツタで木に括りつけて運んでいたのだけれど、『よく考えたらツタさえ巻いておけば木に括る必要ないよな』と寝る前に思い、今日試してみたらやはりこの方法でも大丈夫だった。


 こういった”ちょっとだけ生活の効率が良くなる瞬間”みたいなものは、異世界を攻略している感じがして好きだ。


 それに、日々植物魔法の使い方が洗練されていくような気がしてとても楽しい。


 吸い込む空気もまだ朝を迎えたばかりといった感じで清々しく、目に優しい朝焼けと、涼しいくらいの風が吹いて気持ちがいい。


 上機嫌のまま、ポタポタと毛皮から水滴を垂らす魔物の死体を空中でくるりと一周させ、損傷や腐敗が無いか状態を確認する。


「うん。見た感じは大丈夫そうだな」


 直接水流にあたっていた肉の部分は白っぽくなっているが、ここは元々落とす予定だったので問題ないだろう。


「なんか、一晩でだいぶメンタル強くなったな……」


 昨日は初めての戦闘を経験し、初めて自らの手で生き物の命を奪った。さらに続けて、初めて生き物を解体するなど、とにかくハードな1日で、体力こそまだ余裕があったが、精神的な負担はかなりのものだった。


 その経験のおかげか、その”せい”か、今では目の前で吊るされゆっくりと回転している魔物の死体を見ても、特別感情は動かない。


 むしろこれをもう、食材として見てしまっている自分がいる。


 魔物を食うのか? という本能的忌避感は昨日の夜頭によぎったが、今の俺の食生活を考えれば選好みできる状況ではなく、その不安は既に解消済み。今となっては味の心配までしているくらいだ。


「よし」


 残りの処理もあるし、早いところこいつを持って帰ろう。


 水路の底に沈める用の岩をツタから外し、改めてツタを魔物の死体に結び直す。そうすることで、結ばれたツタを魔法で操作するだけで魔物を運搬できるという寸法だ。


 朝でもお構いなしに吹く風を肩で切りながら、水路沿いを魔物と歩く。


 昨日とは打って変わって、心は晴れやかだった。


 この精神状態を考えると、今の生活では明かりがないので、日が暮れてからの時間がひたすらに暇なのだが、その間に色々考え事をしたり心の整理をつけたりできるので、それがプラスに働いてるのかなと思う。


 そうやって夜に思考を巡らせていると、あぁあれはこうすればよかったなとか、今考えると別のやり方もあったなとか、色々と反省が出てくる。もちろん反省ばかりでなく、自分やスライムを褒めたくなる時もあるし、物事に対する考え方が変わったりもする時もある。


 物事に対する考え方が変わる、というと御大層なものに聞こえるが、そんな大したことではなく、『あー、今考えるとそうでもないな』くらいの細事がほとんどだ。


 たとえば目の前のこれもその一例。


 拠点に帰ると、家の軒先に吊るされた木の箱に、べったりと張り付く3匹のスライムが目に入った。


「お前らまだやってんのか……」


 話は一日前に遡る。


 ややあって、どうにか魔物の血抜きとモツ抜きの二つの処理を終えた俺は、それを水路の底に沈めるところまでやり切り、ひとまずその日の目標としていた工程を終わらせることができた。


 しかし、解体に使った場所にはまだ血や内臓が残っている。精神的な疲れもあり後回しにしたい気持ちはあったが、衛生面を考えるとさすがにこのまま放置はできない。


 幸いにも、魔物の処理が早めに終わったので時間はある。


 さっさと後掃除まで終わらせてしまおうと、まずは森の近くに穴を掘り、そこに内臓を運ぶため、木材で作った籠に内臓を入れようとしたところ。


「ん?」


 小さな丸い石みたいなものがひとつ、コロコロと地面を転がっていった。


 いちいち作業を中断するほどの余裕もなかったので、とりあえず内臓を籠に入れてから、その石がなんだったのか確認しようと振り返る――と、ちょうどスライムたちがぴょんと跳ねてその石に飛びかかっているところだった。


「なっ!」


 スライムたちは争うようにしてその石を奪い合い、ただでさえプニプニの体がくんずほぐれつのもみくちゃ状態になっている。


「こらー! やめなさい!」


 それを見た俺は慌てて止めに入るが、そうするより早く、奪い合いを制した赤いスライムがその石を掲げ、ずぷっと飲み込もうとする。


 ――危ないっ!


 俺はそいつを引っ掴み、


「ぺっしなさい! ぺっ!」


 と言いながら、その体をゆさゆさと揺らした。


 その時は咄嗟の事だったし、その日は色々あって頭が疲れていたこともあり深くは考えられなかったが、俺からしてみれば魔物の体内から出てきた何かしらの内臓をスライムが食べようとしている風に見えた。……当然生で。


 これは由々しき事態である。


 ジビエの生食、しかも内臓とくればこれはもうアウト中のアウトだ。寄生虫、サルモネラ菌、E型肝炎……空恐ろしいワードが次々に脳裏に浮かぶ。


 もちろんこれは人間に限った話ではない。こういった野生生物を常食してる肉食の動物ならまだしも、例えばペットなんかにジビエの生を与えるのは、たとえそのペットが肉食であってもリスクがある。


 ことスライムに関しては、俺が見る限り苔をモニモニして生きている生物だ。苔を食べているわけではないようだが、どちらかといえば草食っぽく、野生鳥獣の生肉に耐性があるかはわからない。


 ――スライムの身に危険がっ!


 と、そうなった俺は、深く考えずにとにかく謎の石をスライムから取り上げたのだった。


 そうして、スライムが欲しがる石を一度綺麗に洗い、木箱に入れ封印し、スライムが触れないような高いところ――軒先に吊るしておいたのだが……。


「すごい執念だ……」


 スライムたちは未だに吊るされた木箱に張り付いて、ぷらんぷらんと小さく揺れている。それも昨日からずっと。


 思わぬところでスライムたちの異常なフィジカルの強さを知ることができたが、今はそのことは置いておく。


 昨日の戦闘での活躍を見る限り、これくらいの木製の箱ならスライムでも簡単に破壊できそうなのだが、それをしないということは一応俺の意見も聞き入れてくれているのだろうか。


 その上でこうやって文字通り”粘着”しているのだから、いじらしいものだ。


 俺は魔法でツタを軒先から外し、手元に寄せ、木箱にひっついてるスライムたちをぺしょりと剥がし、蓋を開ける。


 昨日はスライムの体のことを思って石を取り上げたが、よく考えるとこのスライムたちが訳もなくこんなことをするだろうか、と昨日寝る前にふと思った。


 肉が食いたいならもっと大物が昨日ずっと目の前にあったわけだし、内臓にしてもそうだ。スライムが反応したのはこの謎の石だけ。ということはこの石にスライムが求めるだけの理由があると考えるのが自然。


 それに、そもそもこの石はなんなんだという気持ちもある。触った感じは普通の滑らかな丸い石で、特に何も感じない。大きさもビー玉くらいで、色は薄い水色。


 人体でも色々な箇所で結石はできるが、そういった類の物にしては綺麗すぎる気もする。


 個人的には、ファンタジー世界あるあるの"アレ"なのではないかという期待もあるし、スライムがこれをどうするのかという興味もある。


 その石を木箱から出し、地面に置き、スライムから奪われる前に木材で殴りつける。


 スライムはそれを見てビクッと体をのけ反らせるが、それも最初だけで、後は俺のやることをじっと待っていてくれた。


 ――あげるにしても、1匹だけってのはな。


 これも昨日思ったことだ。あれだけ3匹とも欲しがっていたのに、それを1匹だけに渡すのは心が痛む。あの魔物を倒せたのはこのスライム3匹全員のおかげなので、できるだけそれぞれに均等にして渡してあげたかった。


 二度三度木材を打ち付けると、やや不格好だがその石はちょうど3つの破片に分かれてくれた。


「ほい」


 そう言って、割れた石の破片をスライムたちにひとつづつ渡す。


 ぴょんと跳ね、それを我先にと奪っていく姿は、荒々しくもどこか可愛げがあった。


 さて、その破片をどうするのかとスライムたちを見ていると、3匹はそろって体の中へそれを沈めていき、やがて飲み込まれた石の破片からしゅわしゅわと泡が立ち始めた。


「おおー」


 と感心していると、10秒ほどで泡が出なくなり、ぺっぺっぺっと3匹ともその破片を吐き出した。


「なるほど」


 吐き出された破片をひとつ摘まむ。形は変わらないが、綺麗な薄水色は消え、黒ずんでいる。


「すごいな……」


 それは消化というより、吸収といった動きに思えた。これがスライムの捕食行動なのだろうか。


 これは苔の上でモニモニする動きとも通じるものがある。苔やこの石から、やはりスライムは栄養だったり魔力だったりを吸収しているのだろう。


 思わずニヤリと口角が上がる。


 またひとつ、スライムの生態の一部を知れて胸が躍る。


 と、そう一人でうんうん頷いていると、スライムたちがブルブルッと疼く様に震えているのに気が付いた。

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