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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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12 水源


「いってぇ~」


 突然訪れた強い衝撃によって、吹き飛ばされるように穴から放り出された。


 体を起こすと、歯にじゃりっとした違和感があり、ぺっと口に入った泥を吐き出す。かなりの衝撃だったが、どうやら体はちゃんと動くようだ。


 とりあえず五体が無事なことに安心すると、さっきからずっと聞こえてくる激しく流れる川のような音に意識が向いた。


「一体なんだったんだ……」


 と、自分がついさっきまでいたはずの穴の方を見ると、そこには太陽の光を浴びてキラキラと光る大量の水が、噴水のように勢いよく湧いていた。


「お、おおー!」


 立ち上がることも忘れ、四つん這いで穴に近づく。


 あの湿っぽい地面はやっぱり地下水があるってことだったんだ! スライムたちも穴の近くで嬉しそうにみにょんむにょんと縦横に伸び縮みしている。


「お前ら偉すぎ!」


 スライムたちが俺をここまで連れてきてくれなかったら、この荒れ地のことは忘れてずっと森の中で活動していただろう。そうなれば当然ここの地下水には気づかなかったわけで、昨日見つけた小川でなんとかやっていくか、また別の水源を探さなければならなかった。


 それに、地下水も絶対に安全というわけではないのだが、川の水に比べるとかなり良い。ある程度安心して安定的に供給される水源という意味では、これ以上のものはない。


「ナイス!」


 隣で小躍りしているスライムに手のひらを差し出す。


「わかるか? こうやってパーンって手を合わせるんだ」


 両手を叩くように合わせて、ハイタッチの流れを教える。言葉はまだ完全にはわかってあげられないが、こういった体を使った感情表現なら気持ちを伝えやすいと思ったからだ。それに昔友達が飼ってた犬がハイタッチの芸を覚えていて、それが可愛くて印象に残ってたってのもある。


 スライムたちはなにか考えているのか、動きを止める。


 少し待ってから、もう一度手のひらをスライムたちに近づけると……。


「いって」


 パンパンパーン! とスライムたちがそれぞれ手の平に跳ねるようにしてタックルしてきた。


 はは……。と笑いながら手を振る。意外と力あるんだなこいつら。


「お前らのおかげで貴重な水源が手に入ったぞ。ナイス」


 そう言いながらスライムたちを軽く撫でると、撫でたところの形がむにむにと歪む。ほとんど力は入れていないが、スライムのぷにぷに感がアップしたおかげで前より色んな形状を見られるようになった。


 スライムたちは嬉しいとも迷惑ともどっちともとれない、されるがままといった反応だが、まぁ悪くは思われてないと思う。たぶん。


 そうやってしばしスライムたちをこねて遊んでいたが、俺には向き合わなければいけない現実があった。


「さて……」


 立ち上がり穴の方を見る。


 そこにあるのは、自噴する地下水を中心とした泥で茶色く濁った小さな池。まさに昨日の増水した川のような泥水だ。


 さらに刻一刻と状況は悪くなり、徐々に水位は増してきてとうとう穴の外まで水が溢れ出る。


「どうすんだこれ……」


 地下水という重要資源を手に入れたが、それが利用できるのはまだまだ先のことのようだった。


 

 ◆◆◆



「ふぃ~」


 冷たい水にも慣れ、今ではこれくらい水温の方が身が締まるような気がして気分がいい。スライムたちもこれを気に入っているのか、プカプカと水面に浮いて楽しんでいる。


 今俺はスライムたちと共に、長い時間をかけて作ったため池で遊んでいた。


 あの日、スライムたちが地下水を見つけてからどれくらいが経っただろうか。”週”という感覚は徐々になくなっていき、時間という概念がだいぶ緩くなっていた。


 おそらく20日とか、それくらいは経ったと思う。


 深さ約2メートル、広さはだいたい直径10メートルくらいの円形のため池は、外からみるとかなり小ぶりな池に見えるが、素人が作るには相応の時間が必要だった。たとえ植物魔法を全力で使ったとしてもだ。


 とはいっても植物魔法がなければ不可能だったし、個人の力でこれだけのものを20日程度で作れるのだからさすがチートといったところではある。


 そのため池だが、まずは延々と湧き出る地下水をどこかに排出しなければならなかった。


 しかし当然そんなところは近くになく、俺が唯一知っているあの小川まで水路を引くしかやりようがなかった。


 荒野から森、そして森から川までと、直線距離にしてだいたい5キロくらいだろうか。当初思ってたよりは離れていなかったが、それくらいだと思う。


 それくらいの距離の水路を引くのは流石に骨が折れた。丸太で超重量の熊手のような道具を作り、森を切り開きながらずりずりと引き回してある程度水路の線を引き、そこを掘って水の通り道に整える。


 水平器なんてないし、それがあったとしてもこの規模の工事で俺が正確に傾斜を作れるはずもないので、定期的に小さい池を作って水位をリセットするという力技でなんとか荒れ地の地下水を小川までたどり着かせることができた。


 幸いだったのは小川のほうが荒れ地より標高が低かったということだ。小川といえど川なので、他より低い位置にできるのは当然といえば当然なのだが、もしそうでなかったらこの水路は確実に成立しなかっただろう。


 それでも水路の途中にはところどころ流れが澱むような箇所がいくつもあるし、水路と小川が合流するところは、低くなりすぎた水路の高さを誤魔化すためにさらにもう1つ池ができてしまった。


 人工的に作られたその池は見るからに不自然で、『これ大丈夫なのか……?』と不安になるような水流の乱れが起きていたが、正直これはもう俺がどうにかできる範疇を超えていてた。エネルギー無限で操作性最高の重機のように使える植物魔法があっても、結局使い手は工事の素人だ。


 時間が経過し、自然の力でなんとか上手く土地と調和してくれるのを願おう。


 というかこの水路自体、地面に道を掘っただけで護岸工事もしていないので、おそらく詰まったり崩れたりと碌なことにはならないだろう。


 この水路が何十年後、何百年後、もしかしたら何千年後にここらの地図を変える存在になってしまう可能性もあるが、それは未来の人類に任せた。すまん。


 と、今思い返しても散々な水路工事だった。全体の作業のうち8割くらいはそれにつきっきりだったわりに、完成度も低い。


 まぁ自分の領でやる時はもっと上手くやれるようにしよう。というかその時は土魔法使いに期待しよう。


 そんなこんなで大変な水路作りの後は、いよいよため池作りだ。こっちも大変といえば大変だったのだが、まだ知識でカバーできるところもあってやりやすかった。


 まずは地下水が溜まっている最初の穴と水路を木枠でつなげて、予定している大きさのため池サイズに穴を掘る。この時まだ地下水が湧いているところの最初の小さい池は残しておく。


 池の底には岩を砕いて石を敷き詰め、側面には丸太を垂直に埋めて池の崩壊を防ぐ。


 護岸に木を使うと腐って使い物にならなくなってしまいそうだが、実は木は水中にあるとむしろ長持ちする。木を腐らせるのはカビや菌が主な原因だが、水中だとそいつらが活動するだけの酸素が供給されないからだ。


 たとえば湖や川の底で長年沈んでいる大木なんかをイメージしてもらえればわかりやすいと思う。


 しかし当然水より上の部分はその限りではない。むしろ防腐加工していないなら水気と空気の相乗効果でどんどん木が悪くなっていく。


 なので水面の境目になるところは、側面の垂直に埋めた丸太とは違い、水平にして丸太を埋める。これで木が悪くなってもメンテナンスしやすいし、丸太の隙間に泥が溜まってより長持ちするため池になってくれるだろう。


 あとは地下水が出てくる穴を木の管で保護して取水場を作り、最初の穴から泥水を抜いて、その穴とため池との壁となっていた土も退かし、仮で建ててた木枠を外して、ようやくため池としては完成した。


 最後の仕上げに池の周りに苔を生やせば、無事今回の工事終了である。


 この苔は当然あの小川からもってきたものだ。もちろんスライムたちの健康のためというのが一番の理由だが、ため池回りの土を保護するという役にも立ってくれている。


 このため池ができるまで定期的にスライムを小川まで連れて行ってたが、やはりこの苔がスライムのエネルギーの源で間違いがないようだ。特にこの荒れ地に苔が実装されてからというもの、暇さえあれば苔をモニモニとしており、今となってはサイズもまた大きくなっている。


 苔の生育環境に関してはできるだけあの小川での環境と近い状況を再現しようとしていて、ため池の周りに果樹を生やして日照時間を調整している。俺の食い物にもなるし、一石二鳥だ。


 とはいえまだまだ日が当たりすぎる箇所もあり、要改善といったところではある。


 苔の水分に関しては、ここの気候は雨……というかスコールが多く、それで今は賄えていると思う。これも今後の苔の様子を見ながら調整していくしかない。


 スコールの時はため池が溢れて排水どころではなくなってしまうので、水路の逆流だけ防ぐように簡単に作った木の水門を閉め、後は野となれ山となれといった感じだ。


 辺りは水浸しになるが、そもそもスコールのせいでここら一帯が水浸しなのでたいして気にならない。ため池の水もスコールのせいで泥水になってしまうが、あの小川と同じように一晩経てば綺麗に戻っているので生活への影響も軽微。


 むしろ問題としてはそれくらいで、この地下水のおかげで飲み水に洗濯に水浴びにと、生活の諸々を安心して行えるのがとても大きい。


「これで拠点はできたから、あとは早いとこ人間に会いたいな」


 最低限の生活基盤ができたということは、ようやく森の探索に集中できるということである。


 正直、地下水を発見した興奮に任せてあまり深く考えずに工事を始めてしまったので、予想以上に時間がかかってしまった。


 地下水を見なかったことにして、人間の居住地求めてあの小川を下っていくという手もあったが、スライムのこともあったし、リスクは避けたかったし、結果的にため池を作るという選択になった。


 この選択が正しかったのかはわからないが、未だにこうして元気に異世界で生きているということは、少なくとも間違いではなかったのだろう。


 こうして俺は、時間こそかかったがようやくサバイバル生活の下地を手に入れたのだった。


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