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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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11 閑話②


 ナワ湖と呼ばれる巨大な湖の中に、クァナック王国の中枢部が集まる島がある。


 その中でも中央に位置する王城の主が、ピピン8世。ナワ湖を中心として広がるこのクァナック王国の現国王である。


 森の肥沃な大地から流れ込む、栄養豊富な川が集まるこのナワ湖は、ここに住む人間の農業や狩猟といった産業に多大な影響を与え、ここに住む人々の生活の大きな助けとなってきた。


 そうして繁栄したこの地の氏族は、周りの他氏族を飲み込み大きな国家となっていったのだが、圧倒的な力で半ば強引に他氏族をまとめあげるという手法は当然反発も大きく、未だにその遺恨は残っている。


 さらに王国ができてから長い年月が経ったこともあり、本来は忠誠心の高かったはずの中央の貴族たちも己の利益の追求を優先するようになり、国家としてのまとまりは徐々に崩れている状況だった。


 そんな中、今となっては数の少なくなった国王家に厚い忠誠心をもった家がマルセワ家だ。


 マルセワ家は王国の政治に大きな影響力をもつ星詠みの一族で、その占星術によって代々クァナック王国を裏から支えてきた。


 そのマルセワ家の当主、チマル・マルセワは、短くなったろうそくの火が小さく灯る薄暗い部屋で慟哭していた。


「あぁ、神渡しが返ってきた……!」


 しわがれた喉を鳴らして、涙を流しながらその老女は嘆く。


 壁をくり抜いたかのように空けられた小さな丸い窓を見上げながら、チマルはまるで糾弾するかのように喚いていたが、しばらくするとそれも治まり、決意したかのような顔で部屋を出る。


 不安そうな顔をして扉の前に集まっていた使用人たちに指示を出すと、マルセワ家の屋敷はパッと慌ただしくなり、すぐに一人の綺麗な身なりの使用人が飛び出すように門から出ていった。


「この国は今一度、ひとつにならなければ……」


 今宵、マルセワ家としては異例となる、夜間の国王への謁見を求めるのだった。



 ◆◆◆



 この国の貴族には昼の顔と夜の顔の二つがある。


 明るいうちは貴族として公務に励み、日が沈むとその任から解放される。


 そういえば格好はつくが、要するに夜に仕事は持ち込まないという慣習がこの国にはあった。


 もちろん厳格にそう決まっているわけではない。特に昼の顔については死文化しつつあり、実働は下の者に任せて昼も夜も遊び惚けるような貴族は多い。


 しかし日が暮れてから公的なやり取りをするのは未だにある種のタブーとして扱われており、貴族社会からは嫌厭(けんえん)されている。


 国王であるピピンもそれに倣い、今夜もパーティを開いて近しい者との会食や楽団が演奏する音楽を楽しんでいた。


「王よ、今年アガベの酒は絶品ですな」


「王よ、モノレス家の娘はなかなかの器量良しと評判ですぞ」


 楽団が奏でる優雅な音楽の中、そんな気品とはかけ離れた下世話な会話が繰り広げられる。しかしこれも、日が暮れてからは貴族の責務から解放されるべきという習わしに則ったもので、高身分同士の会話だからこその気遣いともいえる。


 給仕のひとりがホールを離れ、使用人専用の扉に向かうが、そこにいる高貴な人たちは当然誰も気に留めない。使用人が出入りすることなどよくあることだし、そもそもそのような下の者の働きなど、彼らにとっては眼中にない。


 しかしその裏では大きな問題が起きており、まさに下の者がどうこうできる範疇を超えた出来事がすぐ隣の使用人室で起きていた。


 少ししてから、顔を青くした使用人がひとりの兵士を連れて会場に戻ってきた。この城の警邏を担当する”王国兵士団”の兵長だ。当然誰もそれを目にも留めていなかったが、同じように顔を青くした兵長が王の前に跪いたところで空気が変わった。


 王家御用達の楽団もその空気を読んで演奏を止め、王が私用で使う格式の高いホールはしんと静まり返った。


 その場の貴族たちはみな顔をしかめるが、王であるピピンを差し置いて文句をつけるのは失礼にあたる。唯一発言できる権利を持ったピピンは、手に持っていたグラスをゆっくりとテーブルに置きチラリと兵長を見た。


「どういう了見だ」


 他の貴族と同じように眉を顰めたピピンが、重い声でそう問いただす。


 「大変申し訳ございません。僭越ながら、ご報告がございます」


 無礼と言い放ってこの兵長を処罰することも王であるピピンなら可能だ。しかし、腹を立てる気持ちはありながらも、当然貴族の慣習を知っているはずのこの城兵が、その不文律を破ってまで伝えたいというその内容の方が気になった。


「言ってみろ」


「ハッ。マルセワ家の使者より伝言を預かっております。『至急、謁見を賜りたし』とのことです」


 静かだったホールが小さく騒めく。


 立場というものを考えれば、兵長であるこの男の無礼はまだ許容できる範囲だが、一貴族が謁見を求めるとなればその重みは天と地ほどの差がある。


「マルセワ家だと?」


 さらにそれが、以前から何かと小煩いマルセワ家からの伝言となれば、額の皺がより一層深いものとなるのも当然だった。


「大方、また星詠みがどうのという話なのだろうな」


 マルセワ家は星を詠み、その結果から国政に助言を与えるという立場にある貴族。クァナック王国を建国時代から支えてきた大貴族であり、この国の王であっても軽んじることは難しい。


 しかもその助言というのも吉と出たり凶と出たりと、当てにできるようなものではなく、国政を先導するピピンからすればまさに目障りな存在だった。


「マルセワ家の老媼(ろうおう)にも困ったものですな」


「貴族の風儀を軽視するのはどうかと」


 王のマルセワ家嫌いを知っている周りの者たちも、口を揃えてマルセワ家を非難する。夜の場がいかに公務と切り離されているとはいえ、王の気分を損ねれば当然家にとって不利益となる可能性もある。ここにいるのは、そういった空気を読むくらいのことは当たり前にできる者たちだった。


 王としても、このままマルセワ家の思う通りに事が進むのは気分が良くない。ましてや豊かな自然を背景に大きく発展しているこのクァナック王国で、星詠みの家から”今すぐ当たらなければいけないほどの急ぎの用”が出てくるなどとは考えられない。


 椅子のひじ掛けに体を預け、ピピンはそう思案していた。


「後日使者を出す。話はその時に聞くと伝えろ」


 たっぷりと時間を取った後、ピピンは置物のように小さく固まっている兵長にそれだけ伝えた。


 この兵長としてはかなり具合の悪い返答を貰った形だ。これをどのようにマルセワ家の使者に伝えたらいいのかと胃の痛くなる思いだったが、命があっただけマシだと諦め、きびきびとした動きでその場を後にするのだった。


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