第壱話:森の中での戦闘
キーーー、という鳴き声を最後に、そいつは倒れた。
「まあ、あまり気持ちのいいものではないでござるな」
人型で、ある程度の知能を持つ動物を殺すというのは、少し抵抗があるが……。しかし、襲ってくるのは彼らなのだから仕方ない。
しずくはそう割り切って、亜人猿を薙ぎ倒していく。加えて自分を襲ってきた恐獣も倒していった。
デモル京から山脈を避けるように、南から迂回して三十里強を歩く。
そこからさらに、深い樹海の中を三里。しずくは、そこまで行くのに3日をかけた。
特に森の中は亜人猿たちにいつ襲われるかわからない、常に気を張らなければいけない状態で、かなり精神をすり減らすこととなった。
森の中に入ってから、すでに5時間。そろそろ一旦引き返し、森の外の野宿ができる場所を見つけないと———とそう思っていたころのこと。
「む? この音は……?」
なんだか騒がしい音が聞こえた。
警戒しつつそちらの方に向かっていくと、そこは川辺の亜人猿の集落だった。
「……調べてみたいところでござるが……」
もしかしたら依頼人の娘さんがいるかもしれない。しかしそれを調べるってことは、下で亜人猿たちの群れを全て殺していくことに他ならない。
まあ万が一にもありえないとは思うが、数で圧倒されれば負ける可能性だってある。
「まったく、面倒でござるが、これも仕事でござるし……」
覚悟を決め、刀二本を鞘から抜き、下に降りる。
着地と同時にそこにいた亜人猿の首を貫いて殺した。近くにいた亜人猿に刀を投げ、心臓を刺し貫く。
襲いかかってきた亜人猿を空中で真っ二つにしつつ、投げた刀を拾いにいく。
しずくは一瞬、呼吸を止めた。森の風が刀の刃を撫でる。
「貴様ら程度に「凪の構え」で様子見する必要など、ないでござるな」
しずくの剣技には二つの構えがある。それが「凪の構え」と「時化の構え」。
全ての攻撃を受け流す耐性に入り、敵を観察するための構え。それが「凪」。
対してもう一方の「時化」は、跳躍や回転、加減速、武器の投げなどを組み合わせ、一連の動きを一つの流れにしつつ、不可測な軌道で荒波のように敵を飲み込む———そんな構えだ。構えと便宜上言っているがこっちは動きの形に近いかもしれない。
この亜人猿の大軍相手には、「時化の構え」を使って蹂躙していた。
———しずくの身体が渦のように回転し、軌跡が風を裂いた。
「ふっ———」
もう総数の三分の二は殺したかという頃。
ズン———、と地面が揺れた。木々が震え、落ち葉が舞う。腐った果実のような息が、森を震わせる。
「げ……」
少し離れたそこにいたのは、一際巨大な亜人猿。しずくの目測だが、身長は十六尺ほどある。腹に大きなやけど跡のようなものがあった。
騒ぎを聞きつけて奥から出てきたと言ったところだろうか。
「あんなにも大きな亜人猿、存在するのでござるか……」
進化したのか突然変異か……。なんにせよ少し面倒くさそうだと、亜人猿を倒しながら心の中でため息をついた。
「ただ、あれが群れの長なのなら、あいつを倒せば他の奴らも散り散りになるかもしれないでござるな」
そう判断し亜人猿の群れを攻撃しつつ突き進み、そいつの足元まできた。
巨大な亜人猿はしずくを鷲掴みにしようとする。しずくは軽く飛び上がって避けた。
そのままギアカッターのように回転し、腕を遡りながら肩まで上がる。もう片方の腕でまた掴まれそうになった。
すぐそこにあった顎を蹴り飛ばし、巨大な亜人猿を倒した。そして倒れゆくそいつの胸を大きく裂き、心臓を斬った。
「ふむ。毛皮が厚く少々大変ではあったでござるが、まあ見た目のインパクトほど強くはなかったでござるな」
周りを見ると案の定、亜人猿たちは森の中へと散り散りに消えていった。中にはしずくに向かってくるのもいたが、これ以降の殺生は最低限で済みそうだ。と思った。




