第壱話:行方不明の女性
結局のところ、子どもが神隠しにでも遭ったかのように姿を消す———そんな現象を、ただ闇雲に調べて真相に辿り着くなんて、ほぼ不可能だ。
だから、まずは師匠と同じことをしてみよう。そう考えたしずくは、いま酒場にいた。
幸い、いつまでに解決してくれとは政ノ司からは言われていない。……長引けば長引くほど、それは被害が広がっていくことをも意味するわけで、悠長なことも言ってはいられないのだが。
なぜ酒場に来たのか、というと、別に現実逃避をしに酒を飲みに来たわけではない。それがこの世界の冒険者の文化なのだ。別世界でいうところのギルドのようなものは存在していない。冒険者は言ってしまえばフリーランス。酒場で依頼を待ち、困り事がある人は冒険者に依頼を持ち込む。他の方法もあるのだが、それが基本だ。
ここシンノミヤでは、冒険者なんてまだ物好きの職業。だからこそ、酒場には地方からの奇妙な依頼が時々転がってくる。
闇雲に足を動かすよりは、そうして依頼をこなし旅をしていく中で、事件解決の糸口となる何かが見つかればいいと思っているところだ。
「ぅぅ……、ここはいつ来ても慣れないでござるな……」
声に出してみても、慣れないものは慣れない。店内は酔っ払いの笑い声で満ちていた。酒と汗と、騒がしい匂いがする。
しずくはこの国においては一応酒の飲める年齢ではあるが、あまり好きではない。この空気には、どうしても肌が合わない。
アルコールに弱いかと言われるとそうでもないが、強いかどうかと、好きかどうかは別だ。
……しずくは飲食物へのこだわりが、かなり強いタイプだ。時々周りが戦慄するほど。
普段、水分は基本的に水しか口にしないし、「水は常温でなければならぬ」と思っている。
ゆえにあまりこういった場は好きではない。
「とはいえ、冒険者として食っていくためには我慢せねば……」
慣れる日が来るかはわからないが致し方なし、と今日も依頼を待つのだった。
「あの……冒険者の方ですか? 依頼を頼みたいのですが……」
水と簡単なおやつを頼んで待っていると、中年の女性が話しかけてきた。
「もちろん。大丈夫でござるよ」
そう言って座るよう促す。
「どういったご用件でござろうか?」
「はい……。娘のモモがしばらく帰ってこなくて……、心配なのでどうか探してほしいんです!」
「!」
しずくは不謹慎ながら、もしかしたら追っている事件に関係のある事件かもしれない、と思い少しだけラッキーと思ってしまった。
しかしすぐに気持ちを切り替える。
「承知致した。では、娘さんがいなくなった時の話をお聞きしてもよろしいでござるか?」
「10日前の昼に出かけて行ったきり帰ってこないのよ」
「ふむふむ。10日前……」
しずくは文字を書くのも苦手だが、仕事のため一生懸命メモを取っていく。
「それで、娘さんはどこへ?」
「はい。東の亜人猿の森へ」
亜人猿は、人に近い知能をもち、人の真似をし道具を使う魔獣だ。しかし、同種内での簡単な会話以外コミュニケーションが取れない。ものを作ることもできず、協調性や社会性もあまり持たない。故に魔獣に分類されている生物だ。鳴き声がそう聞こえることから、「キーウィー」と呼ばれる。
人を見ると襲ってきたり、持っている道具や食料を強奪されたりするため、人はあまり亜人猿の生息する森へ近づかない。というか、そもそもこの大陸の森にはどこも「恐獣」と呼ばれる、強力な獣の生息地となっている。子どもどころか大人でも危険な場所だ。
「何故そんな危険なところに?」
「依頼のためと言っていました」
「え?」
「え」
ん? どういうことだ?
と、しずくは困惑した。
「娘さんは冒険者なのでござるか?」
「はい。それが何か……」
「いえ別にいいのでござるが……。えっと、娘さんはおいくつですか?」
「22です」
「…………」
(6歳も年上でござったか……)
絶対、今回追っている失踪事件とは関係ないじゃん、とちょっと落胆してしまったのだった。




