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第玖話:2つの違和感

 整然と並べられた筆。一点彩りを与えている盆栽。同じ服だけがいくつも並んでいる部屋の物干しざお。

 その部屋に入った最初の印象は、質素だ、というものだった。

 最高位の官僚は、大内裏に屋敷を構えることが許されている。以前ナミネが官僚だった時には、師匠と一緒に何度もナミネ家に行っていたな、というのをしずくは思い出した。

 しかしセキヤミはそれをせず、他の者と同じ寮に入ったままだった。らしいなともしずくは思った。


(あ、セキヤミ殿の匂いだ)


 緊急事態だというのにそんなことを脳裏で考えてしまう自分に嫌気がさした。


「で? どういう手筈なのです?」


 ついてきていたナミネが訊いた。


「この手紙には、2つの違和感があるのでござるよ」

「といいますと?」

「そもそもこの手紙はなぜ、わざわざ拙者を名指しで宛名に書いたのでござるか?」


 スパイでした。帰ります。

 これを伝える相手がなぜしずくでなくてはいけなかったのか。別に代理天皇にだけ伝えてもいいし、そもそも伝えなくたっていい。


「確かに妙ですわね」

「つまり、拙者への宛名を書かなくてはいけない理由があったのでござる」

「それでもう一つの違和感というのは?」

「それがその宛名でござるよ」


 しずくは全ての人に敬称として”殿”を付ける。

 セキヤミはそんなしずくをみて、「あなたと対等でありたいから」と、しずくだけは「しずく殿」と呼んでくれる。


「急に『しずくさん』呼びにするのは妙でござろう? 敵として裏切ったのなら、普通に呼び捨てで呼べばいい。なのにもかかわらず、”さん”とつけるのは」

「なるほど。この手紙自体が本心ではないという、その定義付け、というわけですわね」

「そういうことでござるよ。敵に内容を詮索される可能性を考えた上で、それでも“しずく”の名を残さねばならなかった、そういう事情があった可能性があるのでござる」


 セキヤミならば何かを残している可能性がある。それを探すために、まずはここに来た、というわけだ。

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