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第漆話:嵐の夜だった

 16年前の夏、あれは酷い嵐の夜だった。

 生まれたばかりの娘はウミと同じで体が弱く、その日も酷い熱を出してしまっていた。しかしこの村には医者がおらず、その嵐のために近くの街へ医者に連れていくこともできず……、彼女はただぬくもりを失っていくその子を、祈りながら抱いていることしかできなかった。

 朝が来て、漁で遠くの沖に出ていた夫も、嵐の事故で亡くなったと聞かされた。

 その次の日、葬儀を終えた夕方。その日は前の嵐が嘘のように綺麗に夕日が輝いていた。

 どうせなら自分も死んでやろう———そう思いながら、最後に砂浜を歩いていた時のこと。ふとどこからか、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。見るとそこには赤ん坊の入った籠が打ち上げられていた。

 あの嵐の中を彷徨ってきたのか、その後で捨てられてしまったのか、どちらにしても見つけられたのは奇跡だったかもしれない。籠の中に入った手紙にはただ一言、この子をよろしくお願いいたします、とだけ書かれていた。

 笑いながら手を伸ばしてくるその子を見て、この子には自分が必要だと思った。


「しずく。私はあんたを一度も他所の子だなんて思ったことはない。自分の娘と何も変わらず同じように育ててきたつもりだ」


 布団の中から手を伸ばして、しずくの手をとった。しずくはただ、静かに話を聞いていた。


「でもだからと言ってこの村に囚われていなくたっていい。もっと多くの世界をみて、多くの人と触れて、愛を知って、多くの人のために生きなさい」


 力強く最後の力を振り絞るようにしずくの手をとった。


「最後に会えて良かった」

「拙者もでござる」


 しずくは無理矢理、笑顔を取り繕った。ウミは静かに眠りについた。

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