第参話:まだ動く
「う”、う”、う”……」
瀕死であろうがお構いなしとばかりに、化け物は足裏で、しずくをグリグリと地面に押し付けた。
(———まずい。このままでは……)
しずくが弱気になりかけた時、耳に声が届いた。
「しずくさん!」
浅くなる呼吸と、痛む身体、霞む視界で、その声の方を見た。
ナツキだった。
(ナツキ殿……、すまぬ……逃げてくれ……!)
そう言おうとするが声が出ない。
そして朦朧とする意識の中一瞬それがエミに見えた、気がした。同時に、あの時のエミの暗い顔を思い出した。
その時懐かしい声が頭の中で反芻する。
———この世界、お前に任せたからな———
そう最後の別れの時に師匠に言われたのを思い出す。
「そうでござる……。そうであろう。拙者は、あの人の弟子でござろう……! こんなとこで潰れてるわけにはいかぬであろうが!」
そう自分を鼓舞しながら、足裏を少し持ち上げた。
シュッ!
片方の刀を顔めがけて投げる。それが目の一つに突き刺さった。それによって怯んだところで魂源:川流を使った。青い光が宙に溶けるように走り、化け物の足元から脱出する。
そしてそのまま反転———。
次の瞬間、しずくが化け物の腕一本を斬り落としていた。
「脆い!」
怒りに任せた攻撃が飛んでくるが、痛む足を引きずってギリギリのところで躱す。
(骨が軋む……。立つだけで吐き気がする……)
でも……。
(腕も動く! 足も動く! ならば心も動かし続けなくては、意味がないでござろうが!)
全身に闘気力を流しこみ、時化の構えで大暴れした。
(この化け物はただ本能で暴れているだけ。あの紫の玉を使った時から、とうに元の意識など消えている)
この化け物は異常に力が強く、それだけはしずくも叶わない。
しかし、最初の一発をもろに食らってしまったせいでここまでダメージを受けてしまったのであって、技や戦闘技能で言えばしずくの方が格段に上なのだ。
(流れは、変えられる。どれだけ濁っても、止まりさえしなければ……!)
今はもう凪の構えを使っている場合ではない。時化の構えを使い、動き、動き、相手を翻弄し続ける。
(あんな攻撃食らわなければ、どうということはないでござる!)
しずくの気力が尽きたとき、同時に地主から生まれた化け物の命も尽き果てたのだった。




