第参話:瀕死
骨が軋むような音が部屋に満ちた。皮膚が裂けるヌルりとした音が響く。
ゾッ……。
煙が晴れた時、そんな寒気がしずくの背に走った。そこにいたのは前の地主とは似ても似つかない化け物だったからだ。
いや面影はある。しかし、まるで異界の化け物と無理矢理融合させられてしまったかのようなそんな何かがそこにいた。
体が大きくなり身長は十尺を超えている。肌は青緑色になり、右肩からは3本目の腕が生えた。顔が二個になり、片方は前の地主の顔を血色悪くしたような感じ。もう片方は、見たこともない獣のような顔になっていた。甘ったるい腐敗臭が、皮膚の内側まで染み込んでくるようだった。口からは獣のような低い唸り声をあげている。
「二人とも! 逃げて!」
そう言ってサエモンとナツキを逃す。が、そうして二人が階段を駆け下りていくのを見るためによそ見をしてしまった。
「ぐはっ!?」
突如腹部に強い痛みを覚え後方に吹き飛ばされる。あの太い腕で殴られたようだ。
吹き飛んだしずくは、意識が朦朧とする中、前方でサエモンたちが階段を駆け下りる音を聞いた。だが次の瞬間、化け物が天井と壁を叩き潰し、瓦礫が通路を埋め尽くした。しずくごと、「逃げ道」が音を立てて閉じた。
手放しそうになる意識をなんとか取り戻し起き上がろうとする。しかしそこを鷲掴みにされる。
「あああああああッ!?」
ミシミシと、折れた枝のような音が、自分の体の奥で鳴った。
(ふ、振り解けない……!)
そのまま力任せに放り投げられ、壁を突き破って外に出た。地面をボールのように転がっていく。
「ガハッ!!」
その先で体を踏みつけられる。感じたことのない重さが、しずくを襲った。
ダンっ!
「あ”あ”あ”ッ!」
ダンっ!
「あ”あ”あ”ッ!」
ダンっ!
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッッッッ!!?」
気力の原始的な使い方である、身体の強化。それを防護に全力で回すことで、しずくはなんとか人の形を保っていられた。その防護がなければ、あと二撃ほどで体が砕けていただろう。
しかし与えられた痛みとダメージは、生きているのが不思議なほどのものだった。




