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幕間:冒険者のリスク

 先の事件のこともあり、しずくに舞い込んでくる依頼の量が増えていった。

 しかし、失踪事件に関わるような話はほとんど入ってこなかった。というか、それらの依頼をこなしていくだけで、てんてこ舞いの状態だ。

 そもそも、このシンノミヤは世界の中でも、冒険者文化が最も根付いていない国だ。ゆえに、あまり冒険者に関する法が整備されておらず、依頼を達成できなかった場合には、訴えられるなどのリスクがある。評判が下がってしまえば、依頼が入ってこなくなり、廃業に追い込まれる可能性すらある。冒険者文化発祥の地であるフラエル皇国ならまずありえないが、シンノミヤではそんなことも覚悟のうえでやっていかねばならない仕事なのだ。


 一度こんなことがあった。

 「ある荷物を遠方に忘れてきてしまったから、取ってきてほしい」という男性からの依頼だった。ちょうど別の依頼でそちらの方面に用事があったため、ついでだからと、軽い気持ちで引き受けた。

 しかし言われた場所のどこにも、それらしきものは見つからなかった。

 その旨を報告すると、『お前が盗んだんじゃないか?』と因縁をつけられ、訴えられそうになった。

 それはおかしいと食い下がると、今度は身体検査をさせろと言い出した。しかも妙に時間をかけ、明らかに検査の範囲を逸脱した場所にまで手を這わせられ、まさぐられた。

 しずくとしては不快感を覚えつつも、「何をしてるんだろう」という感想しか出なかった。鼻息がやけに荒かったのは何かの体調不良だろうか、と本気で心配をしてナミネに訊くと……。


「……その方の名前を、伺ってもよろしいですか。どの程度の()()で、超えてはいけない()()を理解できる方なのか、興味がございますので」


 しずくすらゾクっとする笑顔で言ったあと、その男に対して訴訟を起こした。後日、しずくのもとに立派な封筒が届いた。中には妙に迫真の謝罪文と金子が入っていた。

 そして……。


「いいですか! 冒険者に対して、からかいや無理難題、そして卑劣な要求をしてくる者もいるのです。自己防衛の意識をもっと持ってください!」


 と説教をされることになった。


「……しかし、依頼を選ぶ基準が難しいでござるな。どんな依頼が安全なのか、今ひとつ……」

「まず! 男性の依頼は不用意に受けないでください! 家に行って依頼を受けたりもしないでください!」

「え、でも本当に困っていたらどうするのでござるか?」

「それでも、胸部を揉まれたりするよりはましでしょう?」

「拙者の乳など揉んで何が楽しいのでござるか?」


 カコン、と庭の鹿威しが鳴った。


「あなたね……、本当に反省しているのですか……?」

「いや、興味はあるでござるよ? でも自分のでは手応えがなくて……。ナミネ殿やエミ殿の方がたぶん、こう、手応えが……」

「言わないでください」


 都で暮らしていくのは大変だなぁ、などと、しずくは呑気なことを考えていた。

 結果、少しでも怪しい依頼であれば、すぐにでもナミネに相談する、という約束が生まれてしまったのだった。


「別に、本当に嫌だったら手でもナニでも斬り落とすゆえ、問題ないでござるのに」

「それはそれで事件になるからやめなさい」


 そんなこともあって、しずくは受ける依頼を少しだけ選り分けるようになった。

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