第弐話:港町のデート・前編
窓の外、彼方の海がキラキラと陽光を反射させているのが見える。まるで心も溶けていきそうなほど美しい景色だった。
しずくは思わず身を乗り出し、光に目を細めた。
「セキヤミ殿! 海が見えてきたでござるよ!」
しずくはテンションが上がるままに振り返った。そこでセキヤミの手があった場所に手を置いてしまう。
一瞬だけ、心臓が跳ねた。
「あ、も、申し訳ない……」
それに気づいてすぐに引っ込めた。
指先に残った温度が、なぜかうまく消えてくれなかった。
「い、いえ。大丈夫です……」
セキヤミは、不器用に目をそらした。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が二人の間に流れる。
(せ、拙者の馬鹿! 別に肌と肌の接触くらいなんでもないでござろうが! 何を黙りこくって!)
しずくは何とか会話をしようと言葉を探す。
「し、しずく殿は、その……海辺の集落の出身だったとか」
とその時、セキヤミから声をかけてくれた。
「そうでござるよ。海辺の小さな村でござる。でも、貝に魚に海藻、海の幸はどこのものより故郷のものが一番美味しいと思っているでござるよ」
「そうなんですね。いつか訪れてみたいものです」
「是非是非! その時は案内するでござるよ。観光だと特に珊瑚礁が綺麗で……」
(……ってばかー! これではまた、エミ殿に説教されてしまうでござるよ……!)
人との距離感を測ることの難しさに、齢十六にして悩むしずくだった。
デモル京から竜車で3日。デシマ駅港に到着した。
波の音と潮風が体を包み込む。しずくにとっては幼い頃から感じてきたものだ。故郷に帰ってきたようで懐かしく感じた。
少し歩くと潮の香りに混じって、観光地らしい騒がしさも漂ってきた。
「そういえばここへは初めて来たでござるな」
しずくの師匠と海外へ行った時は大陸上のもう一方の駅を利用した。
「しかし、賑わいぶりはすごいでござるな。デモル京にも負けず劣らずといった感じで」
「2つしかない国の玄関ですからね」
世界の三大陸をつなぐ海洋鉄道。各大陸に2つずつ、合計6つある駅を繋ぐ海上を走る列車だ。
こちら側はシンノミヤから遥か東にあるリトラルトという国に近い。リトラルトへ行く人、来る人で賑わっているというわけだ。
街並みもシンノミヤの伝統建築とリトラルトの建築が入り乱れている。
「さて、まずは宿を取ってしまいましょう」
セキヤミについていきそれぞれの部屋を取った。
「思ったより早くついてしまったので、ショッピングとかどうですか? 海外のものとかもたくさん入って来てるんですよ、この町には」
とセキヤミに誘われデシマ駅港を見て回ることになった。
まず食事に行ったのだが、そこではフラエル料理を選んだ。
かつてしずくが師匠と行ったフラエル皇国の味を久しぶりに味わいたいと思ったからだ。そのエスニックな味わいはやはり、懐かしくもかなり刺激的だった。




