第弐話:どう考えたってデートでしょ!?
「エミ殿。来客がいるときには、内密の話をしている可能性もあるゆえ、盗み聞きはやめてほしい」
と、部屋に勝手に入ってきたエミに、注意をする。優しいセキヤミだからまだ良かったが、そうでない人だったらどうなっていたか……、としずくは内心焦っていた。
次はないようにしないと。
「でっへへっ。ごめんなさーい。しずくちゃんってイケメンと、どんな会話するのかなーって気になって」
「うむ。わかってくれたなら外で待っていてくれるでござるか?」
「はーい。ってそうじゃなーーーーーーい!」
「な、なんでござるか……」
また大きい声を出され、しずくは辟易する。
「しずくちゃんのアホーーーー! 鈍感! 恋愛音痴! 脳筋! 刀馬鹿ーーーーーーッ!」
「か、刀馬鹿?」
一瞬、部屋の空気が止まった。
(な、何故拙者は罵倒されているのでござるか?)
意図がつかめずに困惑していた。
「どーーーーーーーー考えたって! デートのお誘いでしょ!」
「で、逢引、でござるか……?」
しずくは急激に顔が熱くなるのを感じた。
「そぉーーーーーーだよ!」
「あの、エミさん。第三者からハッキリ言われると、ちょっと気恥ずかしいのですが……」
セキヤミも少し赤面しながら、慌てていた。
しずくは、意外な一面を見たな、と思いつつ、本当だったのか……、とあれだけ食い下がっていたことに納得もしてしまっていた。
「そりゃあ、公務に私情を持ち込むのはどうかって私でも思うよ? でもさぁ! そのためにきっと周りの人も納得できるような理由を用意して、説得して、自腹まで切るって言ってんだよ!? それってしずくちゃんと一緒がいいって、そういうことでしょ! なんで気づかないの!!」
「い、いや、逆になんで、エミ殿はそんなことわかるのでござるか……」
「わっかるよ! 宿の前に来た時からしずくちゃんの部屋に入る直前まで、ずっとソワソワしてたし。なのにカレシじゃないんでしょ!? てことはもうそうじゃん! そういうことじゃん!」
(そのセキヤミ殿、今目の前で、泣きそうなくらい恥ずかしそうな顔をしているのでござるが……。いつもの冷静なイメージ崩れるくらい……)
ちょっとかわいいと思ってしまったことは内緒にしておこう、としずくは思った。
「部屋の前までのこととか拙者、存じ上げんでござるし……」
「でも、前から知り合いだったんでしょ!? だったら、『あ、この人私にちょっと気ぃあるのかな?』くらいは、女の子だったら最低限自衛のためにも気づかないとでしょ!」
(求婚された経験があるゆえ、気づかぬはずもないのだが……)
としずくは口走りそうになったが、余計にややこしくなりそうなので、これもやめておく。
「ただでさえ、しずくちゃん可愛いんだからさ!」
「かわ、え!?」
(いやいや、一旦冷静になろう。このままじゃ、エミ殿のペースに乗せられてしまう)
と深呼吸をしてセキヤミに向き直った。
「あの。セキヤミ殿」
「はい……」
「えっと、今後何があっても、拙者自身は、この前の返事を変えるつもりはないでござる」
「返事って何?! むぐ」
目を輝かせたエミが話に入ってきそうになったのを、しずくが一旦口を塞いで止めた。
「エミ殿は一旦、外に出ていてほしいでござる」
「……はぁい」
エミが廊下に出たのを確認し、もう一度向き直る。
「えっと、そう。……で、ござるから、今回の依頼も、いち冒険者としてお受けする。ということになるがよろしいでござるか?」
しっかりと考えたことを伝えた。
「今回依頼したのは、その、全く下心めいた感情が無かったかと言われると、おそらく嘘にはなるのですが……。でも少なくとも、しずく殿を冒険者として信頼していることは本当ですし」
「……」
自分なんて刀を振るしか能のない人間だが、少なくともそこは評価してくれているということだろう。と、しずくはその言葉が単純に嬉しかった。
「それに、フラれた後もその女性を好きなままで、一緒に仕事ができるだけでも嬉しいな、と思う阿呆な男がいた、それだけの話ですよ」
「……。ぷふ」
前のしずくの言葉を真似てそう返された。
「……こりゃ一本取られた、というやつでござるかな」
こうしてしずくはセキヤミとともに、デモル京から遥か九十里の場所にあるデシマ駅港に行くことになった。
この旅で国際問題になりかねないとんでもない事件に巻き込まれることになるとは知らずに……。




