プロローグ:新たな子どもの失踪事件
明けましておめでとうございます。もう2026年ですね。
今回の物語は和風ファンタジーです。
一応前作からの続きというか、スピンオフ的な作品となるのですが、こちら単体でもお楽しみいただけるよう書いているつもりです。なので初めましての方もご安心いただければと思います。
ちょっと過激な描写も出てきますが、基本的には少年漫画みたいな雰囲気を想定して書いています。
畳の香りに包まれた謁見の間。外の光は障子越しに白くにじみ、美しく正座する少女の影を淡く縁取っていた。障子の外からは、なぜか鳥の声ひとつ聞こえなかった。大内裏の中のその場所は、まるで誰かに沈黙を強いられているかのように静まり返っている。
少女の傍らには、彼女の師匠からもらった特別な二振りの刀の鞘が、日に照らされて輝いている。
長く伸ばした美しい黒髪をひとつに束ねた、深く青い瞳のその少女の名は、「言葉しずく」。
2年前にこの世界からいなくなった彼女の師匠が見たら、少し伸びた背に成長を感じるかもしれない。
「子どもの失踪事件……? またでござるか?」
「はい。最近この国全域でまた、起こり始めているのです。その調査をしずく様にお願いしたいと」
まるで面接でも受けているかのようにしずくの前に座る女性は、この国の実質的な最高権力者の「代理天皇」の1人だ。
代理天皇は5人いて、それぞれが仕事を分割し、派閥で分かれている。
この人は政ノ司。外交と行政の最終調整役だ。
「それは理解したのでござるが……」
どうにも腑に落ちない、という顔でしずくは続ける。
「なにゆえ、拙者のような小娘にそのような依頼を?」
「それはどういう意味でしょうか?」
女性は本気のように返事するが、しずくにはとぼけているようにしか見えなかった。
「拙者はつい3日前に活動を始めたばかりの駆け出し冒険者。達成した依頼数も2つだけ。ただの田舎娘に過ぎぬ身でござる。その様な重要な任務は、少々荷が勝ちすぎているように思うのでござるが」
「まさかご謙遜を!」
女性が軽く笑いながらそう言った。
「しずく様はかの英雄、青水 白殿のたった1人のお弟子様であられたという話ではありませんか!」
「…………」
さすがにそのくらいは調べられているか、と心の中でしずくは思った。
「しずく様ご自身も2年前、あの赤いまつり事変にてお師匠である白様と共に武功を立てたと伺っておりますよ」
赤いまつり事変———嫌な出来事だった。
血と死の臭いが混じった、あの嫌な空気……。
その感覚と子どもの泣き声が、まだ完全には頭から抜けていない。
少しでもそれらの記憶を吐き出すように軽く深呼吸をした。
「なるほど……」
その赤いまつり事変が起きるまでの1年ほどの間、この国では子どもの失踪事件が立て続けに起きたことがある。それを調査していたのがしずくの師匠だったのだ。
その時は、事件を起こしていた人喰い邪教「ジンマ教団」を、師匠が叩き潰したことで終息した。
また同じような事件が起こっているということは、もしかしたら残党が残っているのかもしれない。としずくは心の中で思う。
(このお方は———、いや、代理天皇の5人の中に、この件を自分の問題として真正面から憂いている者はいない。しかし、面倒だが何もしないわけにはいかない、ということなのでござろうな……)
ため息をつきながら、思考を続ける。
(つまり、師匠が残した問題の尻拭いを、その責任ごと弟子に押しつけるつもり、というわけでござるか)
これだから、こういう場はどうにも性に合わん、としずくはため息をついた。
まあ、自分にとって利がないわけでもないと、気持ちを切り替える。
「承知した。その任、拙者が請け負うことにするでござる」
「ありがとうございます。しずく様には大内裏を開放いたしますので、資料館など自由にご利用ください」
その後、依頼受領のための簡単な契約を交わし、しずくは謁見の間を後にした。
(偶然か必然か、別れを経てもなお、拙者は師匠の背を追うことになるとは……。これもきっと、師匠からの課題なのでござろう)
———この世界、お前に任せたからな———
師匠の最後の言葉を思い出した。師匠は異世界出身者であったため、この世界から自分の世界に既に帰ってしまっている。いまだに迷うことばかりで会いたいと思うことが多いのだが、いつまでも甘えてばかりはいられない。
(何せ拙者は世界最強の武士にならなくてはならないのでござるからな)
それが、もう会うことのないあの人との唯一の絆なのだから……。
前作までは一話1000文字前後に、と意識して書いていたのですが、今作からは長すぎなければちょうどいい場所で切る。としたいと思います。




