3話
夕方の図書館横のラウンジ。窓の外は薄紫の空に染まり、学生たちがぽつぽつと帰路につく時間だった。四人は丸テーブルに集まり、紙袋から取り出した安いネイルセットを並べていた。机の上には、色とりどりのチップ、黒と赤のマニキュア、そして落書きだらけのノート。
魔女好きアニメオタクは、ノートに魔法陣を描きながら言った。
「結社の商材って、やっぱりネイルだよね」
その声には、冗談半分の軽さと、どこか本気の熱が混じっていた。
ゴスロリのヘビメタ好きは、黒い爪先をひらひらさせながら即答する。
「黒と赤のツートンで、悪魔の爪っぽくしたら絶対映える!」
その目は、ライブハウスのスポットライトを思い出しているように輝いていた。
戦隊シリーズ悪役推しは、拳を握りしめて身を乗り出す。
「戦隊の悪役っぽい紋章を入れるのもアリだな。指先から“悪”を放つ感じ!」
彼女の声は、まるで舞台袖から響く悪役の決め台詞のようだった。
マンガオタクは唐揚げを頬張りながら、少し考えるように目を細めた。
「でも怖すぎると引かれるかも。お化けキャラみたいに、ちょっとゆるい悪魔にしたら親しみやすいよ」
その言葉は、笑いの中に現実的な視点を差し込んだ。
四人の趣味が混ざり合い、禁断の商材「悪魔キャラネイル」が生まれた。
遊び半分のアイデアだったが、差別化戦略の芽はそこにあった。既存のネイル市場に対して「悪魔キャラ」という独自性を打ち出すことは、顧客の心を掴む武器になる。
「ライブで配ったら絶対ウケるよ」
ゴスロリの彼女が笑う。ターゲットは自然に見えていた。ライブ参戦組、コスプレ愛好者、カフェで映えを狙う層――彼女たちの周囲にいる人々こそ、最初の顧客像だった。
試作を作って反応を確かめる。小さな行動が市場調査になる。
「怖いけどかわいい」そのギャップが、彼女たちの結社の武器になる。
冗談から生まれたネイルは、結社の最初の商品企画となり、経営学でいうプロダクトマーケットフィットの実践だった。
窓の外の空は群青に変わり、街灯がぽつぽつと灯り始めていた。四人の笑い声は、夜の始まりに溶け込みながら、確かに未来への一歩を刻んでいた。




