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62.光の神の分身

 サルジアに光の神の聖力が戻ったが、その力をお祈りで扱うことにはまだ慣れていない。


「アマリア、魔法陣を使ってもいい?」

「もちろんよ。私達の力を合わせるのだから、むしろそちらの方が良いかもしれないわ」


 広い範囲の土地の浄化では魔法陣を使うこともある。

 サルジアはロメリアが新調してくれた杖を取り出し、地面に魔法陣を描く。杖を通してなら、問題なく光の神の聖力を操ることができた。


「私でも難しい魔法陣なのに……」

「ずっとこの方法だったからね」


 魔法学院ではサルジアが呪文で行う魔法も、魔法陣が描ける必要があった。カシモアとも練習した甲斐があってか、サルジアは綺麗に魔法陣を描くことができるようになっていた。


「私は結界を張りましょう」


 魔法陣の上に立った二人に、アルテミシアが声をかけた。


「殿下、危険では?」

「私のことはグラウディーが守ってくれますから」


 アマリアの心配に、アルテミシアはそう答えた。後ろに控えていたグラウディーも頷く。


「では、お願いします」


 アマリアは両手を胸の前で組んで、サルジアは杖を握りしめながら目を閉じる。


「天におわします光の神よ、この地をお守りください」


 アマリアが祈りの言葉を唱えるのに合わせて、サルジアも光の神の聖力を魔法陣に流し込む。

 魔法陣は光輝いて、溢れ出た光が、西へ西へと広がっていく。


「闇の神とアマリア嬢、サルジアに魔物を近づけさせるな!あと少しだ!」


 状況を察したシンリーの声が響き、魔法士達の士気が高まる。

 抵抗するように魔物や悪魔も激しく暴れるが、どんな魔物も三人の邪魔はできなかった。

 どれほどの時間が過ぎたのか。魔法陣がいっそう強く光り輝いたところで、サルジアとアマリアは目を開けた。


「届いた!」


 光の神の聖力が西側の端へと行き渡り、新たな魔物は地上に現れなくなった。

 魔法士が残った魔物を退治すると、地上にはサルジアの許可した悪魔しか残らなかった。


「やった、やったぞ!!」


 一番先に実感したのは、悪魔や魔物と戦っていた魔法士達で、喜びの声がそこら中から上がる。


「光の神の聖力が!私達にも!」


 遅れて、闇の神と共に暮らしていた人々の驚きと喜びの混じった声が聞こえ始める。


「やったわね、サルジア!……サルジア?」


 アマリアの目の前で、サルジアの体がふらりと傾く。

 慌てて抱き寄せると、サルジアは眠っていた。


「慣れない力を使って、疲れてしまったのでしょう。そうでなくとも、色々と動いていますから……」


 カシモアはアマリアからサルジアを受け取って、横抱きにした。


「よく頑張りましたね、サルジア」


 カシモアは腕の中の主に優しく微笑んだ。



*



 サルジアが目を覚ますと、見慣れた天井が視界に映った。


「ここは……大地の館、戻って来たんだっけ?」


 重く感じる体をゆっくりと起こすと、サルジアの足元で何かが勢いよく動く。


「サルジア様!!」


 それは傍で目覚めを待っていたロメリアだった。


「お目覚めになられたのですね!」


 椅子から立ち上がって、サルジアに近寄ると、その手を取って頬を寄せる。


「このまま意識がお戻りにならないのかと……」

「心配かけてごめんね、ロメリア」


 サルジアも地下に行く前に見た切りだったロメリアの無事を確認できて、心の底から安心する。


「すみません、サルジア様、取り乱してしまいました。

 カシモア様にお目覚めをお伝えしますね」


 ロメリアはもう一度強くサルジアの手を握ってから、優しく主人の手を離してドアの向こうへと消えていった。


 カシモアへの報告が終わったロメリアに支度を手伝ってもらった後、サルジアは食堂へと移動した。

 テーブルには軽い食事と、いつものお茶が準備されていた。


「サルジア、おはようございます」


 もう既に日は沈みかけているが、カシモアはそう言ってサルジアを迎えてくれた。


「カシモア、私、どれくらい寝てたの?」

「五日ほどです。食事などもたまにはできていましたけど、意識はない状態でしたからね」

「そうなんだ」


 サルジアとしては何かを口に入れた記憶は全くない。


「無理のない範囲で召し上がってください」


 サルジアは席に着いて食事を始めた。


「あなたが倒れた後のことをお話ししましょう。

 光の神と闇の神は再び地上で出会うことができました。光の神は今、地上にいます。二柱の繋がりが戻り、精霊達も大地の力を取り戻しました。

 魔物や悪魔はあれ以降出現していません」

「私が連れて来た悪魔たちは?」

「役目を終えて、地下に戻りましたよ。あなたにお礼を言えないことを残念に思っていました。

 今回地上を襲った悪魔は二度と地上に出てこられないようになりました。精霊達が大地との繋がりを取り戻し、悪魔自体の力は弱まりましたから、出てきても何も出来はしませんが」


 人間に協力的な悪魔はお咎めなしとのことでサルジアは安心した。


「私の故郷も住みよい場所となりました。

 まだ時間はかかるでしょうが、光の神と闇の神、二柱の国としての形を取り戻しています。

 光の神が地上に戻ったことで、光の館にもその役目が戻ることとなりました」

「役目?」

「光の神の分身です。

 元々は光の館の一族に、光の神の分身となる子どもが生まれていたのです。これは闇の神も同じです。

 王家に光の神のベールがあったのは、元々、光の神としてその分身が身につけていたものだからです」

「じゃあ誰かが光の神の分身に選ばれたの?」

「基本的には本来は生まれる時点で既に誰が神の分身なのか決まっています。当人に自覚はなく、最初は他の人間と変わりないので時間がかかります。

 もちろん、次の分身が生まれるまでに時間が空くようであれば、一時的に誰かを選んだりすることもありますが、その力を引き継げる者は珍しいのです」


 カシモアは寂し気にサルジアを見つめた。


「今回は、偶然、相応しい者がいましたが、光の館の人間ではありません」

「それって、まさか……」


 サルジアは手に持っていた食器を戻す。


「ええ、アマリア様です」


 光の精霊に選ばれた、光の神の聖力に溢れた人間。神の分身の役目を負うには十分だった。


「この国の形はすぐには変わりません。光の館の一族が王として――人間の長として治める形を急には崩せません。時間をかけてゆっくりと、二柱の神が互いに治める形へと移行していくでしょう。

 ですから、アマリア様も大きく生活は変わりません。卒業までは、学生として魔法学院で過ごすこともできます」

「だけど、卒業したら気軽には会えなくなるんだね……。それは、前もそうだったのかも知れないけど」


 今は学生として同じ時を過ごしているが、サルジアは館の主。アマリアも同じ館の主ではあるが、預言の館には大きな役割があった。光の神の預言などの神殿の儀式を請け負っていた。光の神が地上に戻ったのであれば、その役目もなくなるのかもしれないが。


「サルジア、どんな立場になったとしても、あなた達二人の関係は変わりませんよ」

「そうだといいなぁ」

「アマリア様はどちらかというと、今の家のことで苦労されるかもしれませんね」

「ウェルギーか……」


 アマリアは預言の館の主で、元々預言の館を引き継いできたウェルギーの養子となっている。

 アマリアの口ぶりからしても、ウェルギーでよい思いはしていなさそうだった。光の神の分身としての役目を得て、更に複雑な立場になったことだろう。


「どうやら妹君の力もそれほど強くはなさそうですし、アマリア様がウェルギーに利用されないと良いのですが」

「そういえば、カシモアは預言の館の次の主は一つ下だと思ってたね。それがアマリアの義妹いもうとか。

 アマリアはウェルギーに利用されているの?」

「今、どのような状態かは私も正確には認識できていませんし、できていたとして、私の口からはお伝えできませんよ」

「そうだね」

「ただ、何となく、ウェルギーのしそうなことに予想はつきます。

 アマリア様が心配なら、直接お話ししてみるのもいいと思いますよ」

「うん」


 光の神が地上に戻り、闇の神も力を取り戻した。この国の行く末は守られたが、それで人間の営みが全て良くなるわけではない。


――あの日、父上とカシモア様の間で行われたのは、君の養子縁組についての話も含まれていた。


 カシモアともまだできていない話がある。

 サルジアは自身の抱える問題にどう向き合うべきか、まだ決められていなかった

続きます。

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