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55.三年生との話

 光の神からの預言も受け、サルジアとカシモアが地下に行く準備も、本格的に進められることとなった。

 夏下月の館の集いは月の始めに行ってもらうように調整し、そこで各館の主へと、サルジア達の計画が伝えられる。それまでは混乱を避けるためにも、公表はしないことになっていた。


「サルジア様、下月に向けて不安なことはございませんか?」


 ロメリアは少しでもサルジアの不安を取り除こうと、授業の時間帯でも度々サルジアを訪ねて来てくれた。


「大丈夫だよ。それよりも私は授業についていけてるかが心配」

「それは何の心配もございませんよ」

「そうだといいんだけど……」


 ロメリアはくすりと微笑む。

 夏中月は主に魔導士を目指す者に向けての授業が行われる。魔導士は国政にも関わるので、ある程度の申請の方法を学ぶのだが、種類も多く、きちんと覚えられているかサルジアは不安に思っていた。

 それでも、今までも館の主として申請書を扱ったことのあるサルジアは、基本が理解できている。その時点で他の学生よりはよほど出来がいいのを、彼女は気づけていない。


「時々、予言とか、聖力を扱う授業もあるけど、それはロメリアのおかげでなんとかなってるよ」

「ありがたいお言葉です」


 光の神の聖力が身近にないサルジアにとって、光石こうせきの聖力を扱うことも難しかったが、ロメリアの作ってくれた杖によって、感覚をつかむことができていた。


「けれどサルジア様、ちゃんとお休みになられていますか?

 授業の後はカシモア様と特別な魔法の訓練を行っていると聞いています。授業の予習復習もされていますが、睡眠の時間は取れておりますか?」

「心配してくれてありがとう、ロメリア。つい昨日、カシモアにも同じことを聞かれて、今日は授業後休むように言われているから大丈夫だよ」

「それは大丈夫だと言いませんよ。

 サルジア様、アマリア様がいらっしゃらないからといって、ご無理をなさらないでくださいね」


 アマリアも来る日に備える必要があり、休み時間や授業後は忙しくしている。サルジアを止める人がいないことも、彼女が物事を詰め込む一つの要因となっていた。


「今日は授業後にサルジア様のお部屋に行きますから、真っすぐに寮に戻られてくださいね」


 ロメリアにも釘を刺されたサルジアは、大人しく部屋に戻ることにした。


 しかし何故かそう言う日に限って人に呼び止められてしまう。


「サルジアさん、少しお時間よろしいでしょうか?」


 寮に向かう途中、アルテミシアに声をかけられた。

 普段は接触などないが、聖なる館の一族であれば、先に色々と事情を知っていてもおかしくないのかもしれない。学院内にひっそりと存在していた東屋に案内された後、アルテミシアが口にしたのは夏下月の話だった。


「夏下月の中頃、サルジア様が危険な場所に行かれるとお聞きしました」

「はい、カシモアと一緒に向かいます」


 周囲に人はいないが、アルテミシアがぼかして言ったので、サルジアもそれに倣う。


「カシモア様がご一緒でしたら安心ですが、それでも何が起こるかはわかりません。無事をお祈りいたします」

「ありがとうございます」


 サルジアが礼を言った後、話はすぐに続かない。

 アルテミシアが何を思ってサルジアと話をしているのかわからない。地下に行くことに対する激励であれば話は終わりだが、サルジアから席を立つわけにもいかない。

 どうしたものかと悩んでいるサルジアを見て、アルテミシアは申し訳なさそうに眉を下げる。


「すみません、急に驚きましたよね」

「ええ、少し……」

「私はただ、サルジアさんとお話ししたかったのです。冬上月も夏上月も、ダンスパーティーは早々に抜けられていましたから、随分とお久しぶりかと思います」


 冬上月のダンスパーティーから、サルジア達も食事の後のダンスに参加できるようになったが、色々と理由もあって長居はしていなかった。


「すみません、殿下」

「謝らないでください。サルジアさんもお忙しかったでしょう。それにこれは私の都合ですから。

 陛下はルドン・ベキアと親しい仲だったと聞いています。私は西の地を救った偉大なる魔法使い、ルドン・ベキアを尊敬しているのです。その弟子であるサルジア様ともお話ししたいと、そして陛下とルドン・ベキアのように、良い関係を築けないかと思っていたのです」


 アルテミシアは親や祖父母よりも、王――ローダン・ストレリチアに懐いていた。両親も祖父母も好いてはいるが、会う機会の少ない中でも、王の話はアルテミシアの心をつかんで離さなかった。


「サルジアさんからしてみたら、唐突な話ですから、徐々に親しくなっていければと思っていたのですが、館の主は忙しいですからね。私も今年で学院を卒業します。ゆっくりと話す機会があるのも学生のうちだけでしょうから、焦ってしまって、偶然サルジアさんをお見掛けして声をかけてしまいました」


 アルテミシアは何か目的があってサルジアを呼び止めたのではなく、彼女と話すこと自体が目的だった。それを聞いて、サルジアも肩の力を抜く。


「そうだったのですね」

「はい。けれど何もないのも、よくないですね。サルジアさんの無事を祈って、魔法をかけてもよろしいでしょうか?」


 アルテミシアは杖を取り出した。


「ローブにあるものほど強力ではありませんが、一度だけどんな攻撃でも防げる保護の魔法を」


 既に杖を持っているアルテミシアを断るのは難しく、また、地下に行くのであれば護りは多い方がいい。


「お願いいたします」

「ありがとうございます」


 魔法をかける側が礼を言うという奇妙な状況になったが、アルテミシアは気にもせず、サルジアの手を取り、その甲に魔力で魔法陣を描いていく。すらすらと描かれるその線に迷いはなく、複雑な紋様も手本のような形をしていた。


「サルジアさん、無事に戻られましたら、秋上月は一緒に踊っていただけますか?」

「はい、もちろんです」


 闇の神が力を取り戻し、悪魔の脅威もなくなれば、サルジアだってゆっくりと学院の行事を楽しめる。サルジアが了承すると、アルテミシアは嬉しそうに笑った。


 アルテミシアとはその場で別れ、やっと寮に戻れそうな時、サルジアはまたもや声をかけられてしまった。


「サルジア様、お久しぶりです」


 金の瞳に緑色の瞳をした少年――リガティー・フォリウムだった。


「お久しぶりです、リガティー様」


 二人きりで話すのは初めてだった。

 カシモアもロメリアも、あまりリガティーを、フォリウムをよく思っていない。助け舟を出してくれるアマリアもいない中で、サルジアはどうすべきか判断ができなかった。


「夏下月に危険な場所に立ち入られるとお聞きしました。その前にお話ししたかったのです」


 リガティーの話を聞いて、彼も事情を知っているのだとサルジアは察した。


「ダンスパーティーでは、お話しする機会もありませんでしたし……」


 サルジアが冬上月、夏上月とダンスパーティーを早く抜けていたのは、リガティーとの接触を避けるためでもあった。その話を持ち出されるとサルジアとしても気まずい。


「お話とは何でしょうか?」


 後でカシモアに叱られるのを覚悟で、訊ねることにした。ただリガティーはそれが予想外の反応だったようで、


「サルジア様は、気にならないのですか?」


 と返した。


「気になるとは……」

「ルドン・ベキアとフォリウムについてです」


 はっきりと告げられた内容に、サルジアは知りたいと思う気持ちをぐっと抑える。


――カシモア様だって、不要な話はサルジア様のお耳に挟みたくないでしょう?


 冬下月の集いで、リラン・フォリウムはそう言っていた。カシモアの反応から見て、ルドン・ベキアとフォリウムについての話は、サルジアに知られたくないことも含まれているはずだ。


「冬下月の集いでは、リラン様は、私が知る必要はないと認識されていたかと思いますが」

「それはカシモア様のお気持ちを考慮した結果で、本来であれば、あなたが知っておくべき話だと私は思っている」

「私は、カシモアの気持ちを優先いたします」


 リガティーなりに、サルジアに伝えるべき理由があったとしても、サルジアにとってはカシモアの方が大事だ。その場を去ろうと挨拶をしかけたサルジアの手をリガティーが掴んだ。


「リガティー様?」

「あの日、父上とカシモア様の間で行われたのは、君の養子縁組についての話も含まれていた」


 リガティーの告げた内容は、サルジアにとってすぐに理解できるものではなかった。

続きます。

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