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 学院に戻ったサルジアは、シネンの研究室に行くことになった。カシモアが代わりに学校側に説明してくれるとのことだ。


「サルジア様、ご無事でよかったです」


 カシモアからサルジアに何があったか伝えられたシネンは、本当にほっとしたような顔でそう言った。暑くなり始めた季節ではあるが、ぬるめのお茶を出してくれるのは彼なりの気遣いなのだろう。


「ありがとうございます。

 シネン先生は何をされているんですか?」


 サルジアをソファに案内した後、シネンは棚をごそごそと漁っていた。


「ああ、カシモア様に頼まれたのです。サルジア様に何があったのか、装置を通して見たいと」

「その準備なのですね」

「はい。最近資料を整理したので、どこに行ってしまったかと――あ、ありました。

 よし、あとはちゃんと片付けないと」


 シネンの研究室は片付いているわけではないが、散らかっているわけでもない。研究をするなら出して置いた方が便利なものが出しっぱなしになっているくらいだ。カシモアもサルジアもずっとその状況で過ごしていた。


「誰か来られるんですか?」

「はい。全知の魔法使い、シンリー様と、あと学生も二人呼んでくると」

「シンリー様が!他はアマリアとロメリアかな」

「おそらくそうかと思います。

 サルジア様は慣れてらっしゃるかも知れませんけど、他に三名も女性がいらっしゃるなら、それなりに片付けないとと思いまして」


 シンリーの家の棚は割と雑に物が収容されていた。それを特に気にしていないアマリアとロメリアも、今の研究室で何も思わないとは思うが、サルジアは伝えるまでもないかと判断した。


「先生、手伝いますよ」


 二人で片付けると進みも早く、客人が到着するまでにはすっかりと綺麗な部屋になっていた。入って来てカシモアは何があったか察したのかくすりと笑っていた。

 授業は終わった時間で、シンリーも王都から帰る途中だったのか、全員がすぐに集まった。シネン以外はみな顔見知りなので、挨拶も時間はかからない。


「さて、ではシネン先生、お願いします」


 カシモアからある程度話を聞いているのだろう、前置きもない状況でも誰も驚いていなかった。シンリーは装置を興味深げに観察している。アマリアとロメリアは心配そうにサルジアを見つめていた。


「サルジア様、魔獣が走りだしたあたりを思い出してください」


 サルジアの頭に金属の輪を乗せてからシネンが指示をする。サルジアはその時のことを思い出しながら魔力を流すと、輪の先に繋がっている水晶にぼんやりと景色が映り始める。

 サルジアの視点ではなく、リトマンとサルジアが映る範囲で、それまでの過去が映し出されていく。

 割と始めの方でサルジアの口と足が封じられ、カシモアに聞いてませんよという目で睨まれたサルジアはそっと視線を落とすしかなかった。

 カシモアと帰る場面が映ったところで、サルジアは魔力を流すのをやめた。


「これは……随分とまあ厄介な悪魔に目をつけられていたもんだねえ」


 シンリーは顔を引きつらせながら言った。


「それに、呪いを受けていたとは……」


 サルジアの瞳の色の理由を知って、シンリーは納得しつつも、衝撃を受けていた。


「サルジアの呪いを解く方法はあるんですか?」


 アマリアの心配そうな声にカシモアが表情を歪める。


「今は、ありません。

 サルジアに契約を強制した悪魔を倒せば解けるでしょうが、その悪魔は地上には出てこないでしょうから」


 リトマンの口ぶりからしても、サルジアに呪いをかけた悪魔は地下にいる。


「そんな……」

「そう簡単に行かない話だというのは理解していますが、サルジア様に呪いをかけている悪魔が、人間に害をなす存在なら、リトマンに契約を書き換えてもらった方がよいのではないですか?」


 ロメリアがカシモアの様子を伺いつつ問う。


「確かに、今後のことを考えれば、そうした方がよいでしょう。サルジア様の聖力によって悪魔が力をつけているのなら、今すぐにでも。

 けれど、このリトマンという悪魔は、信用なりません。嘘をついている可能性もあるのです。

 本当にリトマンが人間を救いたいのであれば、愚かな悪魔とやらを自分の手で排除すればよいはずです。リトマンは悪魔の中でも強い存在ですからね。それなのに、わざわざサルジア様に話を持ちかける意味がわかりません。リトマンの本当の目的は別のところにあるような気がするのです」


 シネンの言葉に、カシモアもシンリーも頷く。


「あの悪魔は今までなにもせず傍観してきました。それがサルジアにだけ接触してきた。どう考えても、リトマンの目的はサルジアです。

 ただ、サルジアの聖力の流れる先を呪いをかけた悪魔から変えることができるのなら、そうした方が良いのも事実です」

「リトマンの言葉が信用できるものかどうか図るためにも、一度ベイリー・ロリエの周辺を洗った方がいいだろうね。彼女を唆した悪魔が本当にいるのだとしたら、リトマンの言うことも全くの嘘ではないということになる。

 まあ傍観してきたってのは本当だが、人間の敵である悪魔の情報を語ったのなら、そいつらの仲間じゃないだろう」


 カシモアが「そうですね」と同意したのを見て、シネンは自身の机に向かい、魔導士への調査依頼の手紙を書き始める。


「カシモア様、サルジアに何か守りをかけた方がよいでしょうか?」


 アマリアは危険なことに巻き込まれがちな友人のために何かできることがないか、知りたかった。


「ありがたいお言葉ですが、リトマンは特殊な悪魔です。光の神の加護を受けていても、リトマンからの接触は防げません」


 アマリアもリトマンがどういう存在なのかを思い出したのか、悔しそうに俯く。


「アマリア、傍にいてくれるだけで十分だよ」

「でも、今回サルジアを追うこともできなかったわ」


 沈んだ声のアマリアに、ロメリアまでも肩を落とす。

 彼女はサルジア達とはクラスが違う。合同授業でもない限り、サルジアと同じ空間で授業は受けられない。カシモアに呼ばれるまで、館の主に何が起きたのかも知らなかった。


「アマリア様、ロメリアさん、そう落ち込まないでください。お二人はサルジアの支えになっています。

 サルジアと関わる中で、今まで思いもよらなかった事実や事情を、お二人は急に知ることが増えたと思います。それでもそれを外部に漏らさずにいてくださっているので、大した混乱もなく調査を進められています。

 ですから私達はお二人に今でも情報を共有できます。同世代に事情を知るものがいるのは、相談できる相手がいるのは、サルジアにとって良いことなのですよ」


 アマリアもロメリアも当然のように公表されるまで情報を隠しているが、衝撃の大きい事実を知って、近親者に話したくなるのは普通のことだ。まだ成長途中の子どもならなおさら、不安があれば親兄弟に話したくもなる。仕方のないこととはいえ、そういった行動が見られた時点で、それ以降の情報は流せなくなる。そうなると、否が応でも関わらなければならないサルジアは、友人に隠し事をしながら過ごしていかなければならなくなる。


「二人とも、それにサルジアも、よくやってるよ。

 色々と不安なことも多いかもしれないが、今はカシモアが近くにいる。何かあっても、すぐに助けは来る。

 学生は勉学に集中――ってのは難しいかも知れないが、そう気を張らなくて大丈夫さ」


 シンリーは立ち上がって、アマリアとロメリアの肩に手を添えた。


「何かあったら知らせるし、頼みがあれば言う。約束するよ。

 だから、今は学生生活を楽しみなさいな」


 シンリーの言葉に、アマリアとロメリアの心は幾分か慰められたようで、弱々しくも笑みを浮かべた。

続きます。

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