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45.元の形

 シネンがお茶を淹れてくれたので、それを飲んでから、カシモアは口を開く。


「まず、この国の興りからでしょうか。

 この国は闇の神と光の神が出会ったことで生まれました。海の底の闇の神と天の光の神。二柱はお互いに惹かれ合い、地上で共に暮らすことに決めたのです。そこで生まれたのがこの国です。

 西に闇の神、東に光の神のもたらす聖力が溢れ、それが合わさってこの国は守られてきたとも言えます。二柱の力の合わさった大地は精霊達が暮らし、同じ地上で暮らす人間達と関わっていました。

 しかしある時、思いもよらぬ侵入者が現れました。それはこの国の地下にいつの間にか住み着いていた悪魔たちだったのです。光の神の聖力は地下のものを惹きつける力があり、そこから悪魔の不完全体である魔物が地上にやってくるようになったのです。

 闇の神は裁きの力を以て魔物を地下に帰していましたが、魔物が現れるのは決まって西、光の神の聖力が薄いところだったのです。神々は数百年ごとにしか人間と関わりを持ちませんでした。闇の神の存在が薄くなった人間にとって、闇の神はいつしか魔王となり、恐れの対象となりました」

「魔王……防魔の壁ができた時期に現れたって、見たことがある」

「ええ。魔物の対処のために闇の神は姿を現しました。それを人々が恐れて魔王と呼び、西側を警戒して防魔の壁を築き上げたのです。

 あの壁の向こう側では、ずっと闇の神が魔物を制し続けているのですよ。魔物はほとんど西に出現しますから、なるべくこちら側に被害が出ないようにと」


 カシモアは懐かしむような遠い目になった。


「闇の神は少しはあった人々の信仰が恐れとなり、急速に力を失いました。この国の土地には多少なりとも闇の神の聖力がありますが、直接の関わりがないと、その聖力を人に与えられなくなったのです。

 また光の神は闇の神との繋がりが断たれたことにより、地上に留まっていられなくなり、天界へと昇られました。もともと、光の神は天界の神ですからね。

 光の神がこれほどまでにまだ力を持っているのは、闇の神のように魔物との関連が一切なく、また危機によって人々の信仰が強まったからでしょう。闇の神の変化を見ていた光の神が、対策をしたことも大きいでしょうけど」

「対策?」

「光の館は光の神のベールを所有していますよね。あれは、地上から離れる時に光の神が自身の代わりとして残した者です。光の神の存在が忘れられてしまわないように」


 カシモアは話を切って、お茶を飲む。


「光の神の聖力に惹かれた魔物が、それを求めて地上に現れ、その魔物と結び付けられた闇の神が力を失くした……。精霊がいなくなったのも関係がありますか?」

「はい。地下に現れた悪魔が、大地との結びつきを得ました。それによって、精霊達の大地とのつながりも弱くなっていたのです。闇の神が魔王と呼ばれる前からですね。

 とどめは防魔の壁により闇の神と光の神が分かたれてしまったことです。精霊は二柱の存在によって生まれたものですから、そのつながりが切れてしまって姿を消してしまったのです。光の精霊は光の神の聖力のみの精霊なので今も残っています」


 シネンの問いにカシモアが答えている間に、サルジアはアマリアの予言を思い出していた。


――最初に、光と闇があったわ。二つは完全にわかれていたわけではなく、一部交わり合いながら存在していた。

――けれどその下にうごめく何かがあって、とうとうそれが闇を突き破ったの。

――その後、光と闇は完全に分かたれてしまった。


(あれは、この国の興りについて、光の神が伝えようとしてたのかもしれない)


「カシモア様、西側で暮らしていた人間は全て防魔の壁のこちら側に移ったのですか?」

「良い質問ですね。

 ほとんどはそうです。魔物が頻繁に西に現れるので、壁ができる以前にほとんどの人間は移っていたと思いますよ」

「一部は残っているんですね」

「はい。役目がありましたので。

 光の神と闇の神はそれぞれの泉の近くで、自身の分身のようなものを作っていたのです。

 正確には、人間に自身の一部を宿していました」

「人間にですか?」

「ええ。闇の神も元々は海底にいた神で、地上の神として存在するには工夫をしなければならなかったのです。

 自身の聖力の近くで生まれた人間に宿り、人として、また神として存在し続けてきました」

「では、防魔の壁ができた時も、闇の神は人間として存在していたのですか?」

「そうです。普通の人間とは違い、数百年は生きられますが、基本的には人間の範囲に縛られます。一人では生きてけませんし、数百年後には次の闇の神が必要となります。ですから、その周囲の人間は西に残ったのです」

「それほど人と関わりながら、忘れられてしまうものでしょうか?」

「この国ができてすぐならともかく、しばらく時が経てば、数百年生きる人間に奇妙さは感じても、神の分身であるなど信じない人も増えます。あとは、悪魔側の妨害もあったと思いますよ。現に、サルジアは悪魔に関しての記憶を失くしているでしょうから」

「それはあるかもしれませんね」


 大地の記憶を悪魔が消せたのも、今は大地と悪魔のつながりが大きいからだろうか、とサルジアは思った。


「それで、カシモア様はその西側で生まれた人間で間違いありませんか?」

「ええ、そうです。

 私の出生の記録が台帳に載っていないのは、私が闇の神の管轄で生まれているからです。光の神が詳細を語らないことを許しているのは、光の神は全て事情を知っているからです。防魔の壁の向こうから来た人間は悪魔と疑われかねませんからね。それと同じ理由で、王都の台帳に名は刻まれるのですよ」


 さらりと語られた言葉にサルジアはしばらく思考が止まってしまった。


「カシモアは、壁の向こう側で生まれたの?」

「そうですよ。一応、このことはまだ誰にも言わないでくださいね。

 シネンさんがこのことを王に報告して、色々と方針が決まった後、問題なければ公表しますが、それまでは余計な混乱を生みますからね」

「そうですね。報告したらご連絡いたします」


 シネンはそう言ったものの、今日わかった話をどう報告するか頭を悩ませた。連絡まではもうしばらくかかるだろう。


「さて、悪魔について、またサルジアが闇の魔法を使えることについてもある程度知ることができましたね。

 リトマンという悪魔が言っていたこと、つまりサルジアの瞳がどうして紫色になったのかは、リトマン以外の悪魔がサルジアの聖力を奪ったのではないかという仮説が立っています。こちらは少しずつ詳細を探っていくとして、後回しにしていた話がありました」

「預言についてだね」

「そうです。預言者はサルジアの姿を三つ見たと言っていました。

 一つ目は、幼い頃のサルジア、二つ目は防魔の壁を壊すサルジア、三つめは真っ黒な影を引き出すサルジア。

 一つ目については、サルジアの元々の瞳の色は紫ではなかったことを知ることができましたが、残り二つについては、今日お伝えした内容も関連していると思います」


 カシモアはサルジアを見つめる。


「防魔の壁によって光の神と闇の神が分かたれました。預言者は光の神が完全なる秩序が取り戻されると言っていたと言いましたよね。

 つまり、残り二つの預言はサルジアが防魔の壁を破壊し、真っ黒な影――闇の神を解放することで、もとの光の神と闇の神が治める形に戻すことを伝えたかったのだと思いますよ」


 おそらく、カシモアは預言者から預言を聞いた段階でそのことを理解できていたのだろう。

 サルジアに悪魔が接触してきたこともあるだろうが、その預言を正しく理解させるために、こうして学院まで乗り込んできたとも考えらえる。


「サルジア、あなたにとっては重い使命ともなります。預言も絶対ではありませんから、あなたが無事にそれを成し遂げるという保証もありません。

 それでも、今のこの国の状況を打開するために、力を貸してくれませんか」


 カシモアは防魔の壁の向こう側で生まれた。どういう経緯で今ここにいるのかサルジアは知らないが、彼も生まれた場所、そしてそこにいる闇の神のために何とかしたいのだという気持ちが伝わってくる。


「もちろんだよ。

 それに、もしそんなことができたら、大地の館は功績を立てられるし、もしかしたら褒美の杯ももらえるかもしれないよね」

「サルジア様、それはきっと褒美の杯どころの話じゃなくなると思いますよ」


 シネンはそう言うが、サルジアにとってはそれも大切なことなのだ。

 褒美の杯を賜れば、王に願いを告げられる。サルジアが大地の館を自身の館として望めば、サルジアがいなくなった後も、大地の館を残していけるかもしれないのだ。

 カシモアはそれがわかっていたのだろう、


「そうですね、褒美の杯を賜れると思いますよ」


 頼もしい主の顔を見て、金の瞳を細めた。

続きます。

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