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44.発表

 春中月のはじめ、魔法学院で各研究室の発表会が催された。

 新入生の入学前の催しは緊張感がありつつも、新しい学年の始まりへの期待が混じった独特な空気間だった。

 サルジアは予定通り、悪魔が魔物の完全体であること、紫の印が悪魔に聖水が効かないことに関連があることを発表した。聖なる館に近い家は知っている情報もあっただろうが、学生にとっては刺激が大きかったらしく、会場がざわめいた。

 アマリアは光の精霊について、昔はもっと身近に精霊がいたのではないかということを、ラナンに借りたであろうおとぎ話の本の内容も混ぜながら発表していた。今後は光の精霊のできることについて、研究していくとしており、彼女の指導教官でもあるラケニアが、また赤い目を輝かせていた。

 ロメリアは光石の確保が難しく苦戦しているようだったが、一度光石内の聖力の消耗率についてを発表していた。


「今年は面白い発表が多かったですねえ。

 アマリア様の研究は光の精霊に選ばれた彼女でないとできないでしょうから、結果が楽しみです。ロメリアさんは、サルジア様の侍女でしたかね?彼女の研究も興味深い。私の発明にも使えそうです」


 発表が終わり、一度研究室に集まると、シネンは満足そうに言った。

 春中月は発表が終われば、研究室での活動を一時中断するための準備を行っていく。休みの春下月が空けて夏上月からは、また学年での学習活動が中心となるからだ。


「研究に専念できるのは今月で最後ですが、研究室は常に開いているのでお好きな時に訪ねてきてください。カシモア様も、こちらに滞在されますから」

「わかりました」


 カシモアは同意するように頷くが、その表情はどこか楽しそうに見える。


「カシモア、学院に残れるのがそんなに嬉しいの?」

「いいえ?何をどう考えればそうなるんです?」

「だって、楽しそうに見えたから」

「クライブ・カファリーがいるのにあり得ませんよ。

 私は、シネンさんが今日はどういったお話をしてくれるのかが楽しみなのです」


 カシモアの言葉に、シネンが驚いた表情を浮かべる。


「カシモア様にはお見通しなのですね。

 ええ、私はお二人のお時間を奪いながらも中々本題に入れていないのですが……」

「そこまでは言っていませんよ」

「春上月にもお話ししたかと思いますが、闇の魔法や悪魔について、別方面で調査を進めていたことがありまして」


 シネンはごそごそと自身のデスクを漁ると、サルジアとカシモアの座るソファの前のテーブルに古そうな本を置いた。


「これは、昔は広く知られいていたおとぎ話です」


 シネンが中を開くと、大きな絵と数行の文字が書かれている。


「二柱の神が天界で出会い、この国を作ったというお話しです。

 悪魔の登場について調べる際に、こういったおとぎ話を調べて検証してもいたのです。おとぎ話では悪魔も魔物も出てきませんでしたが、偶に出てくる地名は現在も残っているものがあり、実際にこの国に起きたこととも繋がっているのではないかと思うのです。

 ここでは二柱の神、とされていますが、別のお話では光の神と闇の神が出てくるものもありました。闇の神の話はほとんどありませんから、最初は作り話かとも思っていたのですが、カシモア様のお話で闇の神がいることがわかった。そこで再度、今までの話を調査し直したのです」


 テーブルには一冊しかないが、シネンは今まで多くの話を調べていた。


「色々な話を繋ぎ合わせると、この国は光の神と闇の神によって作られた、と推測できます。

 また、アマリア様の発表でも出た話ではありますが、昔、精霊はもっと身近な存在でした。古いおとぎ話や伝承ほど、精霊達が頻繁に登場します。彼らは姿が見えたり、見えなかったり、人間を助けたり、悪戯したり中々自由な存在だったようですね」


 精霊については、ラナンも言っていたことだ。


「しかしある時代から、精霊は姿を消し始めます。資料が少なく断言はできませんが、おそらく、闇の神についての情報が見られなくなる前に。

 そして次第に闇の神自体もその存在を記されることがなくなり、最終的に光の神と、神殿に残った光の精霊についての話のみが残りました。

 私はここに、悪魔の存在が絡んでいるのではないかと思います」

「悪魔が?」

「はい。闇の神は、正式な文書等の記録はありませんでしたが、それでも数点、書物にその単語が残っています。それなのに今ではその言葉を知る者がほとんどいない。それは、次第に悪魔の情報が増え始め、それが人間にとって害をなす存在だったからだと思われます。

 おとぎ話でも、光の神と闇の神がこの国を作った、という話以外には闇の神に関連する話はありません。その後、神々は人間と関わりが少なかったのかも知れません。悪魔の登場がなくても、闇の神の存在自体が人間の間で薄くなっていったのではないかとも思いますが、ここまで消えてしまうのは何だか妙ですよね」


 シネンはカシモアを伺い見た。


「私は、闇の神の存在が、悪魔や魔物ににとって代わられたのではないかと思うのです」

「悪魔や魔物が神にですか?」

「ええ。実は闇の神と悪魔や魔物については一つだけ似ているところがあるのです。

 それは、どちらも西と関連付けられるという点です。悪魔、あるいは魔物は西からやってくるとされています。そして、闇の神に関する数少ない地名は、西に偏っているのです」


 光の神の声を聞く神殿は北にあるが、聖力のわき出る泉は東にある。そのことからすれば、光の神と対をなすような闇の神に関連するものが西にあってもおかしくはない。


「先日、大地の力は悪魔の持つ力と完全に一緒ではない、とカシモア様がおっしゃられていましたね。

 私は、大地の力は元々、精霊達の持つ力だったのではないかと思うのです。精霊は花の精霊や風の精霊といったものも存在したらしく、大地とも関わりが深い存在とも言えます。しかし精霊達は姿を消し、代わりに悪魔や魔物がその力を扱えるようになった。悪魔や魔物が、闇の神、精霊達の存在に代わって現れたのではないでしょうか」


 シネンはここで顔をあげて、真っすぐ正面からカシモアを見つめた。


「ええ、そうですね。悪魔や魔物によって、精霊や闇の神はこの国から消されてしまったと言えます」


 カシモアはシネンが真相に近づいたことによって嬉しそうな表情を浮かべていたが、言葉尻にかけてその表情は険しくなっていった。


「光の神のもとに生まれ、ここまで辿り着いた人がいるのであれば、もう私の口から語っても良いでしょう」


 全てを受け入れるように、カシモアは瞳を閉じた。

続きます。

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