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43.魔法について

 冬下月も終わり、春上月が訪れる。

 少しずつ暖かくなるこの季節に、外に出る者も多い中、サルジアはカシモアとシネンと共に、研究室にこもりきりだった。


「サルジア様、カシモア様、闇の魔法についての本ですが、一通り読み終わりました。

 一つ疑問があるので、聞いていただけないでしょうか」


 シネンの言葉に、サルジアとカシモアはそれぞれの作業を中断し、ソファに集まる。

 間のテーブルには闇の魔法についての本が置かれていた。


「この本には闇の魔法とされるものが記載されていますが、圧倒的に呪文を用いるものが多いですね」


 それはシンリーと一緒に王都の図書館でこの本を閲覧した際も出た話だった。


「魔法陣はほとんどありません」

「そうですね」

「これはもう、魔法というより、お祈りではないですか?」


 それはサルジアも感じていたことだった。

 魔法は本来魔法陣を描くことによって発動する。呪文を唱えるのは大地の魔法くらいだ。


「お祈りと魔法の違いについては、発動方法で区別されることが多いです。

 お祈りでも魔法陣を使うことはありますが、これは稀です。闇の魔法は魔法というよりも闇の神へのお祈りだと捉える方が正しいのではないでしょうか」


 シネンはある程度の確信を持っているようで訊ねるような口調ではなかった。カシモアも否定することはない。


「そうなると、魔法とお祈りの違いは何か。それは必要となる力が違うのではないかと思います」

「力ですか?」

「はい。サルジア様には聖力がありませんよね?だから聖力を使うお祈りはできません」

「そうですね」

「けれど、単純に魔力があるから、魔法を使えるというわけではないと思うのです」

「どういうことですか?」


 魔法は魔力を使う、お祈りには聖力を使うという話ではないらしい。


「お祈りでは光の神の聖力を使います。そして闇の魔法では闇の神の聖力を。どちらも大して差はありませんよね。言葉を発して効果を得ます。

 では、魔法はなぜ呪文で発動しないのでしょうか?」


 シネンはそこに目をつけたらしかった。


「呪文と魔法陣の違いを見てみました。闇の魔法の本の中でも、魔法陣は出てきますからね。

 すると、あることがわかったのです。魔法陣を使う闇の魔法は、光の神の聖力を使う必要があったのです」

「光の神の聖力を?」

「効果を見ればそうですね。あとは大規模なお祈りの時と同じで、複数人で協力する場合も、魔法陣を使用することがわかりました」


 それについてはアマリアも言っていたことだった。広い範囲の土地の浄化などは複数人で行い、その際に魔法陣を使う。


「つまり、魔法陣は魔法を発動させるためのもの、というよりは、複数の力を合わせるための道具だと思うのです。

 光の神の聖力のみ、闇の神の聖力のみであれば呪文で何かしらの結果を得られますが、魔法はそう単純ではないということです」

「魔法は複数人で行わなくても魔法陣を使いますよね。それなら、魔法は何かと何かの力を合わせているということでしょうか?」

「はい。恐らくは聖力と、大地の力、かと」

「大地の力?」

「何と呼ぶべきかはまだわかりませんが、サルジア様が魔法を使えるということは、サルジア様がお持ちになっている力が使用できるということです。

 そして大地の魔法は呪文で発動できます。私の予想が正しければ、それは一つの力だけを用いているからです。大地の魔法は主にこの大地に存在するものに語り掛けますから、お祈りと同様に考えれば、サルジア様がお持ちのものは大地の力として問題ないと思います」


 カシモアはずっと二人のやり取りを聞いていた。シネンがカシモアを見ると、カシモアは頷く。


「シネンさんの考えは、合っていると思いますよ」

「やはりカシモア様はご存じのことだったのですね。どうしてあなたが積極的に語られないのか理解できました」


 シネンは一度大きく息を吸って、覚悟を決めたように息を吐く。


「大地の力は、悪魔の扱う力とも言えるからですね」


 カシモアは口を開かなかった。


「悪魔と契約しようとした人間は、ほとんどが魔法の使用を目的としていました。悪魔と契約すればどんなに難しい魔法でも発動できますから。なぜ悪魔にそんなことができるのか。悪魔の扱う力が魔法を発動できる、つまり大地の力と同じだから。

 そして悪魔が見返りに魔力を求めるのは、正確には魔力ではなく、その一部の聖力を目的としているから。全て仮説を前提にしていますが、説明できなくはないのではないでしょうか。

 もしそうであれば、この国の人びとは動揺します。自分たちが使ってきた魔法が、一部悪魔の力を使っているのだから」


 そう言い直されると、確かに大変なことだとサルジアにも理解できた。

 カシモアが事情を知っていながらも話さない方がいい、と言っていたことも、納得できる。


「二人とも、そう深刻そうな顔をしないでください。シネンさんの言っていることは正しいですが、完全な答えではありません。

 悪魔は魔法を使う際に何の媒介も用いませんから、シネンさんが大地の力と呼ぶ力を、悪魔自身の力と考えてもおかしくありませんし、間違っているわけではありません。

 ただ、シネンさんのおっしゃられていた通り、大地の魔法は悪魔への語り掛けではありませんから、悪魔自身の力と言い切れないのではないでしょうか?」

「それは……そうですね、見落としていました」

「とはいえ、ほとんどが合っていますよ。

 魔法陣は複数のものを組み合わせて、というよりかは、式に当てはめて発動させるためのものです。お祈りのように神々に直接働きかけるのではなく、その力を使って、望む結果を得るための道具です。

 大地の魔法を使える者が少ないのは、大地の力だけを使って効果を得られる人間、つまりそれほどの大きな力を持っている者が少ないからです。大抵の人は、光の神の聖力と大地の力を合わせて使って魔法を発動させています。

 この本は闇の魔法、となっていますが、タイトルはこの本の発見後につけられた者です。正確にはこれは闇の神へのお祈りの本です」


 カシモアはテーブルに置かれた本を懐かしそうに撫でた。


「そういう、ことですか。

 大地の力が悪魔の持つ力と完全には一致しない件については、もう少し考えさせてください。

 闇の神についてお話しいただいた時から、別方面でも調べていることがあるのです。サルジア様が共有してくださった、アマリア様の予言とも関わりがあるかもしれません」

「きっとそれは、正解に近いと思いますよ」


 カシモアは本から手を離した。


「私も、そろそろ準備をしておかなければなりませんね」


 カシモアは横に座るサルジアに視線を移す。


「カシモア?」

「いえ、何でもありません。あなたと過ごす春上月は二度目だと思いましてね」

「そうだね」


 ルドン・ベキアがこの世を去って一年。翌月に報せを受けたサルジアが大地の館へと招待されたのは、ちょうど一年前の春上月だった。

 今も大地の館は続いている。サルジアの、そしてカシモアの帰る場所を守るためにも、サルジアは今年も頑張ろうと密かに思った。

続きます。

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