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20.シンリーとカシモア

 しっかりと体を休めたサルジアは、カシモアと共に全知の魔法使いを訪ねていた。

 先に西に帰っていたロメリアがシンリーに報告をしてくれたらしく、シンリーから大地の館に手紙が届いたのだ。

 森の入り口でロメリアとアマリアと落ち合うことになっていた。


「カシモア様、お初にお目にかかります。ロメリア・アルステーと申します」

「大地の館に仕えるカシモア・プラタナと申します」

「お会いできて光栄です」


 ロメリアは緊張しているようだった。

 サルジアも、まだロメリアの話はしていない。一緒に行動するので名前を出したことはあるが、彼女が大地の館に仕えたいと思っていることも、今がその試用期間だということも伝えていない。


「アルステーは古くから西を支えてきた家だと聞いております。私もお会いできて光栄です」

「とんでもございません。大地の館によって西は救われました」


 ロメリアは恐縮していたが、表情が少しゆるんだようにも見えた。

 二人の挨拶が住んだところで、アマリアも到着した。


「こんにちは、カシモア様。こちらは、ラナンと申します」


 アマリアはラナンを連れてきていた。侍従としてではなく、護衛代わりだ。


「こんにちは、アマリア様。本日はどうぞよろしくお願いいたします」


 ラナンはカシモアを恐れているようにも見えたが、アマリアの後ろできちんと礼の形を取っていた。


「では、案内いたしますね」


 ロメリアの後に続いて全知の魔法使い、シンリーの住む家に辿りつく。

 ロメリアがベルを鳴らすと、ドアがゆっくりと開く。


「いらっしゃい、待ってたよ。さ、お入り」


 その声で、ラナン以外が中へと入る。


「アマリア、ラナンは良かったの?」

「ええ。彼は招かれてはいないから。

 侍従なら中にまで連れていかないといけないから、無理を言ってラナンに護衛を担当してもらったの」


 それはつまり、アマリアはこの話を他に漏らしたくないということだと、サルジアは理解した。


「話はだいたい聞いてるよ。どうやら、私の予想が当たってしまったみたいだね」


 一通り挨拶が終わった後、シンリーはそう言った。


「学院には人の姿をしていた魔物が現れ、中央の端ではまた、喋る魔物が現れた。それも前より人に近い形で。事態は悪化していってるね。このままだと悪魔が出てくるのは間違いないだろう」

「シンリー様、学院に現れたのが悪魔ではないのですか?」

「確かに人の姿をしていたなら悪魔とも言えるが、結局は姿を崩している。それに少なくとも見える範囲には象徴を持っていなかったし、プラリア嬢が落とした聖水も効いたらしいね」


 象徴とは、紫の色である。必ずしも見て取れる範囲に色があるわけではないが、聖水が効くのであれば間違いなく魔物だろう。


「こうなったら私も動いた方がいいだろう。

 王都の図書館に行こう。あそこに、悪魔を制する魔法があったはずだ」

「そんな魔法があったのですか?」

「ああ、もう失われてしまった魔法、だけどね。何かしら手がかりにはなると思うよ」


 シンリーは意味ありげにカシモアも見た。


 学院も休みの期間とのことで、さっそく王立図書館に向かう準備が始まった。

 基本的には館の主であれば申請が通るということだった。今回は練習も兼ねて、大地の館が申請することになった。つまりサルジアが申請するのである。


「王都から書類は取り寄せましたね?では、項目を埋めていってください。

 おや、思ったより字は綺麗なんですね」


 指導を担当するカシモアは驚いていた。サルジアは魔法陣こそ描けないが、字の読み書きはルドンに教えてもらっていた。


「その字を跳ね上げるのは、あなたとルドン・ベキアくらいですよ」


 カシモアは時折そう言って笑みを浮かべていた。


「ではインクが乾いたので、封筒に入れましょう。色を間違えないでくださいね。申請は青いものを使ってください。

 中に書類を入れたら、蝋で封をします。あまり垂らし過ぎないでくださいね。次は印を押します」


 できた書類一式を包んだ封筒は、カシモアが出しに行ってくれた。定期便で手紙を運ぶ仕事をしている人がいるので、その人に渡す。その後手紙は王都に辿りつく。王都での審査があり、その結果がまた手紙として送られてくる。


「向かうのは半月後になるでしょうね」

「長いね」

「鳥でも飛ばすのが早いのですが、正式な書類は出来る限り正式な手続きを踏んだ方がよいですからね」


 いったんサルジアのやることは終わったので、カシモアがお茶を淹れてくれた。


「カシモアは、シンリー様とお知り合いなの?」

「そうですね、昔からよく知っていますよ」

「昔から……師匠も、シンリー様とはお知り合い?」

「ええ」


 カシモアはいつものように、サルジアに近い席に腰かける。


「夏下月の館の集いは休みになりましたし、たまにはゆっくりと昔話をするのも良いでしょう」


 学院への魔物の侵入、そしてゴート村での喋る魔物の再出現。どちらも異常事態で、館を持つような有能な魔法使いは調査に駆り出されている。館の集いも自然と中止になった。


「シンリー様は、私やルドン・ベキアよりもずっと長く生きていらっしゃいます。私がルドン・ベキアと交流を持ち始めるずっと前から、全知の魔法使いとしてあの森にいました」

「カシモアと師匠はどこで知り合ったの?」

「そうですね、最初の出会いは十五、六あたりでしょうか。今のサルジアと同じ位の歳ですね。魔法学院で出会いました」

「じゃあ、二人は友達だったの?」


 カシモアは困ったような顔になる。


「どうでしょう。もしかすると、そうだったかもしれません。けれど、私はルドン・ベキアに出会う前から、彼に仕えると決めていましたからね。実態はどうあれ、自分から友人であるとは言えません」

「師匠に出会う前から?」

「はい、これは、結局ルドンにも言えずじまいでしたね」


 カシモアが「ルドン」と呼ぶのをサルジアは初めて聞いた。親しい友を呼ぶような声なのに、カシモアは友人ではないという。何とも不思議な感覚だった。


「私が神の使い、と呼ばれる存在だというのは知っていましたね。それに関連することなのです」

「それは、秘密にしておかなければいけないことなの?」

「そうですね。言ってしまっても良いのですが、言わない方が良いとされていることをわざわざ言う気にはなれません。今後はどうなるかわかりませんがね」


 カシモアは金の瞳を細めてサルジアを見る。


「もしかしたら、あなたは既に()()()()()()()()かもしれないので」

「巻き込まれている?」

「私の杞憂なら良いのですが、もしそうなら、お話しする必要も出てくるでしょう。

 今は忘れてしまって大丈夫ですよ」

「わかった、カシモアを信じるよ」


 サルジアに判断できないことならば、何をどう聞いても意味はない。必要があれば話すというカシモアに全て任せることにした。


「ありがとうございます。

 さて、私がシンリー様とお会いしたのは、ルドン・ベキアと知り合ってからですね。とはいえ、ルドン・ベキアが館を賜るより前にはお会いしています。彼自身は入学前からお知り合いだったようなので」

「師匠がシンリー様と知り合いだった……」

「ええ。大地の魔法も、彼女との問答を続ける内に誕生したと聞きましたよ」

「そうなんだ……シンリー様は物知りなんだね」

「だからこそ、全知の魔法使いと呼ばれるのでしょうね。

 彼女がついているのですから、きっと今回も事態は良くなっていくはずですよ」

「うん。そうだといいね」


 サルジアは早く王都からの手紙が届くことを願った。

続きます。

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