15.贈り物
大地の館に戻ったサルジアは、カシモアのお説教を半分眠りながら聞いた。お説教の中にそうでもない話もあったらしく、翌朝の食事の際、カシモアに溜息をつかせることになった。
「昨日、聞いていませんでしたね?
今日はこのあと出かけるという話をしていたのです」
「どうして?」
「……館の主としてのお披露目も終わりましたから、この館の存続に感謝して、主への贈り物をさせていただきたい、と話したと思うのですが」
「ごめんなさい」
サルジアはその話の時、夢の世界にいた。
「それとも、お疲れですか?わざわざ今日行く必要もないですから、もしそうなら――」
「ううん、大丈夫だよ。そんなに心配しなくて大丈夫だから」
カシモアはやはり過保護気味になったように思える。
本当かどうか色々と確認するカシモアを説得して、サルジアは出かけられるようになった。
「サルジア、その服のままでかけるつもりですか?」
「だめ?」
外に出る時は制服代わりのローブを着ているが、基本的には森の小屋で暮らしていた時の服を身につけていた。学院以外に外へ出る機会もなかったため、気にしたことがなかった。
「中央までなら、その服でも問題ありませんが、今日は東に行きます。東は館も多いですし、王都もあります。それなりの格好をしないと浮いてしまうんですよ」
「でも、そんな服……あ、館のお披露目で着たドレスは?」
「あれは……そうですね、こういう時のために残しておいてもよかったかもしれませんね」
「もうないってこと?」
「ええ。あれは、不完全だったので」
サルジアにはその意味がわからなかったが、カシモアの顔が曇ったような気がして、深く追求する気にはなれなかった。
「街に出られるような服は、あなたが住んでいた小屋にも、ないのですか?」
「ないよ。街に出る用事なんてなかったから」
ルドンはサルジアのために色々と物を揃えてくれたが、必要のないものをわざわざ持ってくることはなかった。
「そうなんですね……では、仕方ありませんね」
サルジアは結局、普段通りの服の上に、コートを羽織ることになった。
「暑いでしょうが、我慢してください」
生命の活動が最も活発なこの季節にコートは暑いが、それよりもそのコートのサイズが問題だった。
「カシモア、長すぎるよ。歩けない」
「すみません。私の持っている物の中でも一番丈が短いのがそれです。移動は私が補助しますから問題ありません」
「ええ、恥ずかしいよ」
「あなたが恥ずかしかろうが、恥ずかしくなかろうが、移動についてはそうさせてもらいますよ。
面倒ですが、あなたの瞳を隠さなければなりませんので」
カシモアは黒い目隠しをサルジアにした。レースでできているので、全く見えないわけではないが、サルジアの視界はかなり遮られている。
「店に入れば外しますから、我慢してくださいね」
そしてカシモアの宣言通り、サルジアはカシモアに横抱きにされて移動することになった。
「東まではどうやっていくの?転移の魔法?」
「それが一番早いですが、誰もがあなたのように移動手段にできる魔法ではないのですよ」
「でも私を初めて大地の館に招いた時は、転移魔法だったよね?」
「あなたの住んでいた小屋と大地の館はそれほど遠い距離ではないです。一緒にしないでください」
呆れを含んだカシモアの声に、サルジアは口を噤んだ。どうやら彼女は、他の人に比べるとだいぶ魔力が多いらしかった。
(師匠は何も言ってくれなかったから、わからなかった)
「大地の館には魔獣がいるのです」
「魔獣?馬車で移動するってこと?」
「いいえ。残念ながら、館の馬車はありません」
魔獣が普通の馬とどこまで同じかはわからないが、世話をしなければならないことに変わりはない。人手のない大地の館では、馬車を引けるだけの馬を管理できなかったのかもしれないと、サルジアは少し落ち込む。
「サルジア、あなたは時折大地の館に使用人がいないことを気にしていますが、どうかそれは忘れてください。あなたが来た時、この館には私一人だったでしょう?」
「それは、私が新しい主になることで、みんなが辞めてしまったからでしょう?」
「ええ、辞めました。彼ら彼女らの意志でね。ですから、あなたに何の責任もないのです。
大地の館に仕えていたのなら、ルドン・ベキアに仕えていたのなら、主の判断を尊重してもよかったはずです。私だって、あなたのことはよく知りませんでしたが、彼を信じて、この館に残ったのです。そうしなかったことの責任は、あなたには一切ありません」
カシモアは一度サルジアを降ろすと、馬小屋から魔獣を連れて来る。
「それに、この館に馬車がないのは元からです」
魔獣は真っ黒で、馬の形をしていた。今まで見た馬車の馬と同じ様な見た目だが、着けている装具が違う。荷を引くためのハーネスはなく、鞍がつけられていた。そして何より違ったのは、魔獣に翼が備わっていたことである。
「あなたの師匠は、この魔獣に乗って移動していたのですよ」
「そう、なんだ……」
(確かに、師匠なら馬車が窮屈だとか言ってそうだ)
「魔獣を飼いならすために必要なものが何かわかりますか?」
「魔力とか?」
「そうですね、魔力でも問題ありませんが、基本的には聖力が必要になります」
「聖力……」
「どうかしましたか?」
「私、聖力が全くないみたいなんだ」
「それは、珍しいですね。誰にでも多少はあるはずですが……」
カシモアは何か考えているようだったが、すぐに思考を止めた。
「また今度の機会に調べておきます。
聖力がなくても、対応はできますよ」
カシモアは懐から小さな巾着袋を取り出した。口を開くと、いくつかの黄色い石が姿を見せる。
「光石?」
「知っているのですか?」
「うん、アマリアが出してくれたケーキに入っていたの」
「ああ、それは果物の方の光石ですね」
「それは違うの?」
「ええ。果物の光石は魔力を多く含んでいますが、こちらは文字通りの石です。そして魔力ではなく、聖力を含んでいます」
カシモアは光石を一つ取り出すと、サルジアに握らせる。
「あげてみてください」
言われた通り魔獣に差し出すと、魔獣はぱかりと口を開けて光石を食べる。そしてきょろきょろと辺りを見回して、サルジアを見つけると、ゆっくりと頭を彼女の肩に乗せる。
「これで、しばらくは言うことを聞いてくれますよ」
「そうなんだね!じゃあ、私が操縦するの?」
「いいえ。あなたたまに突拍子もないことを言いますよね。騎乗方法はまだ習ってないでしょう」
「はい」
「私がお連れしますから、大人しくしておいてくださいね」
カシモアは目の離せない子どもに言いきかせるような口調で言った。サルジアは大人しく従うことにした。
カシモアは、迷うことなく空を駆け、馬車よりも何倍も早く東に到着した。目的地は決まっていたのか、他にも馬車が停まっているスペースに着地する。
「さて、行きましょうか」
カシモアはもう一度魔獣に光石を与えると、サルジアを抱えて歩き出した。
「気分はいかがです?」
「大丈夫だよ」
カシモアは片手で手綱を握り、もう片方の手でサルジアを支えてくれていた。空の旅は不安定だったが、そのおかげで恐怖を感じることもなかった。
「東は、西とは違って道以外も地面が舗装されてるんだね」
「見えにくいでしょうがあまり下を覗かないでくださいね、落としそうになるので。
西に比べて高価な衣装を纏う人が多いですからね。単純に資金が有り余っているのもあるでしょうが」
「ふうん」
「サルジア、着きました」
それほど歩かないところで、カシモアは足を止め、目の前にあった店に入る。
「カシモア・プラタナです」
服の店なのか、店内にはずらりとドレスが並んでいた。
広い店だが客はなく、カシモアの声に奥から人が現れる。
「カシモア様、お迎え遅れまして申し訳ございません」
「いえ、時間より早くついてしまいましたので、気にしないでください」
カシモアはサルジアを降ろし、コートを脱がせて、目隠しを外した。
「サルジア様、私、アイラ・ポリゴナーと申します。大地の館の主にご挨拶できることを心より嬉しく存じます」
アイラは胸に手を当てて、ドレスをつまんでサルジアに礼をした。
「アイラ様、サルジアと申します。本日はよろしくお願いいたします」
サルジアも礼を返すと、
「サルジア様、どうぞアイラとお呼びください」
と申し訳なさそうな笑みを浮かべられてしまった。
「サルジア、あなたは館の主なのですから、同格の者以外には敬称をつけないでください」
「はい」
何度かカシモアに言われていることなので、サルジアは素直に返事をした。
「アイラさん、頼んでいた物はできているでしょうか」
「はい。今、運んでまいりますので少々お待ちください」
アイラは店の奥に姿を消すと、ドレス三着と共に再び現れた。
ドレスは店内に展示されている服と同じで、人を模した模型に着せられていた。
「ルドン様からお伺いしていたサイズで作らせていただいております」
「ありがとうございます。サルジア、一着来てみてください」
ドレスは全て形が違っていた。館の集いで身につけていたドレスのように、ふわりと裾が膨らんでいるもの、裾に広がりがなく真っすぐなラインのもの、二つの中間のようなもの。
膨らみの大きなドレス以外は、布の重なりも少なく、デザインもシンプルなものだった。
「じゃあ、真ん中のもので」
サルジアは中間の膨らみのドレスを指定した。他の二つに比べて裾が短く、普段来ている服にも近かったからだ。
「かしこまりました。カシモア様、お見せするまでお時間をいただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「もちろんです。私も他に用事がありますので、戻ったタイミングで声をかけますね」
「はい、お願いいたします」
サルジアはカシモアと別れて、アイラと二人で店の奥にあるフィッティングスペースに移動した。
着ていた服を脱ぐと、アイラがドレスを着せてくれる。
「サイズの確認も兼ねておりますので、お時間いただきますがよろしくお願いいたします」
「はい、お願いします」
アイラはメジャーでサルジアのサイズを確認しながら作業を進める。
「サルジア様、きつくありませんか?」
「大丈夫です」
「肌触りはいかがでしょう?」
「とても良いですよ」
あまり気にしたことのない質問に、サルジアは戸惑いながらも答えた。
「あの、アイラさん、もしかして、赤いローブを仕立ててくれたのは、アイラさんでしょうか?」
沈黙が訪れた時、サルジアは勇気を出して聞いてみることにした。
カシモアからではなく、ルドンからサイズを聞いていると言っていたことが気になっていたのだ。
「はい、さようでございます」
話しかけても問題なかったようで、アイラから返事が返ってくる。
「ルドン様は先代の頃から私どもの店を贔屓にしてくださっております。けれど、少女用の服をご注文されたのは初めてで私も驚いておりました」
「どういう注文だったんでしょうか?」
「本来、お客様の情報をお伝えするのはいけないことなのですが、サルジア様ですからお話いたしましょう。
魔法学院の四年間を通して着られるように余裕を持たせたつくりで、ローブを一着仕立てて欲しいとお伺いいたしました。サイズのご指定と、色見本用の布も添えられておりました。ご注文いただいたのは、昨年の冬下月でしたから焦りましたが、どうやら納期は一年先のようで驚いたのを覚えております。
ここだけのお話ですが、カシモア様からも少女用の赤い魔法学院のドレスを依頼されて、お二人のご親戚にその年頃の少女がいたことを不思議に思ったこともありました。ルドン様に直接お渡しできず、大地の館にローブを届けた時に、その注文が変更されて、お二人が同じ方へ同じ用途で贈られる服なのだと気づいたのですよ」
「カシモアは、魔法学院の制服を用意してくれてたんだね」
「ええ、ルドン様が先にご用意されていることを知らないご様子でした」
「カシモアの頼んだドレスはどうなったんですか?」
アイラは一度手を止めて、くすりと笑った。
「型はそのままで構わないから、最近の流行りを入れて腰を絞れるようにしてほしいとの変更をいただき、色も赤から黄色になりました。納期は一月遅れてよいからと」
もしかしなくても、サルジアが館の集いで来たドレスだ。
「一度はご納得いただけたのですが、実際に身につけられて不具合が起きたらしく、またこの店に戻ってまいりましたね」
不具合。思いつくのは、館の集いでの体調不良ぐらいだ。
「あの、すみません!ドレスは何も悪くないのです!」
「ええ、ええ。わかっておりますよ、サルジア様。
カシモア様も捨てるには忍びないからと、お持ちくださったのです。お代もいただいたままですし、今では見習いの練習用の布として活躍しておりますよ。カシモア様にも謝られてしまいました」
アイラは作業を再開する。
「サルジア様、本当にお気になさらないでくださいね。裕福な方ですと、一度着たら二度は着ないという方もいらっしゃいますから。
私は、お二人がサルジア様を真摯に思っておられるのが、とても素敵だなと感じているのです」
「二人が?カシモアも?」
師匠がサルジアを大事にしてくれていたのは、ローブの件を通してもわかる。だが、カシモアはあくまで、館の存続のためにサルジアを支えているに過ぎない。体調も心配してくれるし、仲良くなれている気はしているが、そこまでサルジアのことを考えてくれているとは思えなかった。
「サルジア様、本日は当店貸し切りでございます。そして、担当をするのは私のみと決まっておりました。なぜかおわかりになりますか?」
「カシモアが頼んだのですよね?私の瞳が紫だから」
「ええ、その通りです。
以前大地の館に仕えていた子が、今この店で働いております。その時、サルジア様についてもカシモア様からうかがっておりました。その子を雇って欲しい理由として。
私自身、悪魔の色に恐怖がないわけではありませんが、だからといってお客様を拒否するつもりはございません。そのことを、カシモア様はお話の中で試されていたようにも思います。
ですから、私が本日の担当を務めております。そして、サルジア様に合ったお色をお選びするために、瞳を隠すことなく店内に入られたいとのことで、カシモア様は他のお客様を入れないようにと言われたのです」
魔物の存在が遠い東で、サルジアがそのまま表れるのは、人々にとって嬉しくないことだろう。
中央の学院では特に問題なく過ごしているが、プラリアのような反応を取る者が多くてもおかしくはないし、アマリアが一緒にいてくれていることで、厄介ごとに巻き込まれていないところもある。
「私が申し上げたいのは、カシモア様が周囲への気配りもできているということではございません」
そこだけ、アイラの言葉に強い怒りが混じったような気がした。
「カシモア様はサルジア様を大事に想われているからこそ、あなた様のためにここまで準備をされたのだということです」
カシモアと暮らすようになって半年弱が過ぎている。学期のある間は週末(それも最近は二週に一度)しか会わないし、館でも指導されている時間の方が長いが、それなりに会話もするようになった。少し前からは、カシモアはルドンについても話してくれるようになった気がする。
サルジアに対するカシモアの想いも、変化しつつあるのかも知れなかった。ただの館継続のための主ではなく、一人の人間として、サルジアを大事に想ってくれているのかもしれない。
「心無い言葉をかける人もいるかもしれませんが、何も気にかけることはございませんよ。私が言ってよいことでもないのですが……」
「いいえ、ありがとうございます。アイラさん」
「もちろん、私も、サルジア様のために心を込めて仕立てさせていただきますから」
アイラは顔を引き締めて、仕事を続けた。
カシモアが戻ってくる頃には、サルジアのサイズ確認は終わっていたが、ドレスは着たままになっていた。
「サルジア、きつくはありませんか?」
「うん、大丈夫。サイズも問題ないだろうって」
「そうですか。
アイラさん、それでは残りを包んでいただけますか」
「かしこまりました」
アイラが用意してくれている間、カシモアはサルジアを連れて店内を回った。
「今流行の型がこの辺りですね。何か気に入ったものはありますか?」
カシモアに示された場所にはいくつかのドレスが展示されているが、どれも腰が絞られたもので、レースがふんだんに使われている。
「うーん、これかなあ?そんなに派手じゃないし、師匠の色に似てる」
「ルドン・ベキアの?ああ、瞳の色ですか」
明るく澄んだ緑は、ルドンの瞳そっくりだった。
「まったく同じじゃなくてもいいけど、緑色の服があったら嬉しいなと思う」
「そうですか。形はこのままですか?」
「形はあまりわからない……」
「まあ、そうでしょうね。
アイラさん、流行のスペースにある右から二つ目のドレスで、もう一着お願いします。レースの量は控えめで、できれば大地の館の紋章を入れてください。腰回りは余裕を持たせて、裾は少し上げてもらえると助かります」
奥の方から「はい、かしこまりましたぁ~!」というアイラの声が聞こえる。
「カシモア!買い過ぎだよ」
「これでも少ない方ですよ。それに、元々用意していただいていたのは、必要のあるものです。
朝も言ったと思いますが、私からあなたに贈り物をしたいのです。先ほどの注文がその分ですよ」
「そ、それなら、いいのかな?」
サルジアにドレスの値段はわからないが、かなりの額であることは想像がつく。
「お気に召さないようでしたら、あと何品かお贈りますよ。何か希望はありますか?」
「いい!大丈夫!とっても気に入ってるから!」
カシモアは冗談として言っていないようだったので、サルジアも全力で断った。
「カシモア様、ご用意できました」
アイラが店の奥から戻ってきて、カウンターにドレスの入った包を置く。
「ありがとうございます」
カシモアはカウンターに向かい、ドレスに懐から取り出した魔法陣の描かれた紙を置く。サルジアを館に招いた時と同じ転移の魔法で、ドレスはカウンターの上から姿を消した。
「サルジア、こちらへ」
呼ばれるがままに向かうと、カシモアはサルジアをアイラの前に立たせた後、サルジアの足元に膝をつく。
「カシモア?」
「じっとしててくださいね」
カシモアは杖を取り出すと、サルジアのドレスの裾に魔法陣を描く。杖の先から出た魔力がドレスの上で光を放つ。すらすらといくつか魔法陣を描くと、カシモアは立ち上がった。
「アイラさん、どうでしょうか?」
「相変わらず、カシモア様の描かれる魔法陣は素敵ですわ!とても美しいものを見られて、嬉しく思います」
「ご満足いただけたようならよかったです」
カシモアはサルジアを抱き上げる。
「では、これにて失礼いたします」
「またのご利用お待ちしております」
嬉しそうなアイラに見送られて、サルジア達は店を出た。
「カシモア、歩けるから、降ろして」
「うっかりしたことに、あなたの着ていた服と共に目隠しも転送してしまいましたので、目をつむっていていただけると助かるのですが」
「う、そういえば」
もう裾の長いコートがないので、目隠しくらいなら一人で歩けるだろうと思っていたが、目を隠す者がなければ自発的に閉じるしかない。そうするとサルジアは歩けない。
アイラに聞いた話もあって、サルジアは目を閉じてカシモアに体を預けた。
街行く人々は抱きかかえられたサルジアにぎょっとするが、それも短い道の間だ。すぐに魔獣の場所まで着くので、人々の注目も長くはない。
「サルジア、もういいですよ。
……サルジア?」
どうやら短い移動の間に、カシモアの主は眠ってしまったらしい。
「目を閉じたら寝るなんて、やはりまだまだ子どもですね」
カシモアは魔獣に跨ると、意識のない主人をしっかりと抱えて空に飛びあがる。
「ルドン、私は上手くできているだろうか?お前の望みを理解できているだろうか?」
空の上で、カシモアの声を拾う者はいなかった。
続きます。