第6話 ある噂
「やあやあ、ペイジ! 待たせてすまない」
ミネルヴァはもう図書館まで来ていた友人を空中で見つけると、翼をはためかせ、彼女の近くに降り立った。地面に着地すると同時に、ミネルヴァの翼の羽が徐々に引っ込み、元の腕へと戻った。
「ミネルヴァさん!」
ペイジは彼女に気づくと、パッと表情を明るくし、手を振った。
「ツリーハウスで何してたんですか?」
「休み明けのアスター教授の講義内容について、ちょっとアイザックに相談しててね」ミネルヴァはその場で考えた言い訳をした。
「……またフォーレスト先輩と一緒にいたんですか?」ペイジは顔を曇らせた。「二人ともよく一緒にいますよね。やっぱり仲良かったりするんですか?」
ミネルヴァはうーんと一瞬考えた。
「まあ、彼とは友達だし、一応大学二年の頃からの付き合いだからね。それなりに仲が良いとは思うよ」
「……そう、ですか」
ミネルヴァの返事に、ますますペイジの表情が陰った。
「その……フォーレスト先輩についてあまり良い噂聞きませんけど、実際はどんな方なんですか? 大学一年目の時にいきなり大きな事件を起こしたみたいですし……」
「アハハ! あー、あれね。禁書庫侵入事件。ほんとヤバいことするよね、アイツ」
ミネルヴァは爆笑しながらペイジと共にいつもの交流場所に向かった。
「でもまあ、私は面白い奴だと思ってるよ。知識欲の塊で、たまに真面目な顔してぶっ飛んだことするから、一緒にいて退屈しないよ」
褒めてるのか貶しているのかよく分からない説明に、ペイジは納得しかねると言うように首を捻った。
「へえ……でもなんか怖くないですか? フォーレスト先輩って目つき悪いし、何考えてるのかよくわからなくて、どこか近寄りがたいというか……それに私、フォーレスト先輩と同じ魔法学校に通ってたらしい先輩から最近聞いたんですけど……ほら、A級魔術師試験ってあるじゃないですか」
「ああ、あの結構難しいやつ。受けたことないから詳しくは知らないけど」
「はい。私も受けたことないんですけど、その先輩が言うに、フォーレスト先輩はそれを受けて、合格したらしくて」
「へえ、それは初耳だ。でも想像できるな。彼ならきっと試験を受けるだろうし、合格もするだろうね」ミネルヴァはうんうんと頷いた。
「……でも……その時の試験で、一緒に参加していたフォーレスト先輩の同級生二人が、亡くなられてしまったみたいで……」
「試験中に?」ミネルヴァは思わず立ち止まった。「何かあったのかい? 昔はともかく、今時試験で死亡者がでるなんて珍しいじゃないか」
「はい、そうなんです。試験中の事故が原因だと他の生徒たちには伝えられたみたいなんですけど、他に試験を受けた者たちによれば、その……」
ペイジは少し言い淀みながら顔を上げた。
「もしかしたら……フォーレスト先輩が殺したんじゃないかって……」