第89話 愛溢れる強力タッグ必殺技
私が悲鳴を上げても一切無視し、アルはオルティメウスに対してどう猛な笑みを向けた。
凄い。本当に神を殺すつもりだ。
正直、神という存在がどんなものなのか、しょせん無機物である私には分からないけれど、超常の存在であることは分かる。
それを人の身で殺そうとしているところが、すでにえぐい。
「今宵の愛剣は血に飢えている。お前の血で満たすことにする」
「今は夜じゃないし愛剣でもないし血にも飢えていないし!!」
「一息で言えましたわね。偉いですわ」
はあはあと肩で息をする私に、優しく寄り添うアンタレス。
……いや、寄り添うんじゃなくてアルのことを何とかしなさいよ! 弟子でしょ、あんた!?
なんだか私が神殺しをしたがっているみたいなことを言うから、目玉が飛び出そうになったわ!
「ごちゃごちゃとうるさいことだ。すぐに黙らせてやる」
しかし、その想いは届かなかったらしい。
オルティメウスは魔力で槍を形作る。
すぐに、白く光る長い槍が出来上がった。
「うぉっ! すっごい魔力量の槍……」
私でもそうそう見たことがないほどの、圧倒的な魔力の含有量だった。
これだけ練り込まれた魔力の槍ならば、鉄の剣とぶつかり合っても折れないだろう。
むしろ、魔法の槍ということもあって、槍の方が強いかもしれない。
さすがは神の力というべきだろうか。
オルティメウスも自信があるのだろう。
にやりと笑って、アルに告げた。
「さあ、かかってこ――――――」
「『死霊の嘆き』!!」
「躊躇なくいったー!!」
最後まで言わせなかった!!
アルが全力で聖剣を振るうと、どす黒い斬撃がオルティメウスに襲い掛かった。
強大な闇の波動は、光り輝く槍をも飲み込む。
「ぐっ、がああああああああっ!?」
抵抗むなしく、オルティメウスは闇に飲まれていった。
黒い斬撃が消えた後、そこにいたのはぼろぼろになって全身から血を流す神の姿。
えぇ……一撃……?
私、そんな力があったの……?
「ふっ。終わりだ」
「え、ええ……?」
当たり前のことをしたまでだ、と言わんばかりのアル。
いや、神殺しは当然のことじゃないから。
普通、誰もできないから。
「か、神……? オルティメウス様!?」
「か、かかかか神を、こ、こここ殺した……!?!?!?」
案の定、アリアス教の幹部たちは阿鼻叫喚といった様相を呈している。
属神という立場なので、彼らが直接信仰していた存在ではないが、それでも自分たちの命を救ってくれる頼りになる存在だった。
それが、たったの一撃で見るも無残にボロボロにされてしまえば、狼狽するのも当然だろう。
あの大きくて美しい白い翼も、ところどころは折れ、血がにじんで薄汚れてしまっていた。
「ああ、さすがはマスター……。悪であれば、神でさえも殺してみせる……! うっ、素晴らしすぎますわ……!」
「今の、うっ、て何?」
ぶるっと震えたアンタレスが嫌だった。
恍惚とした表情を浮かべているから、変な方向に思考がいっちゃうのよ……!
嘘だと思うけどさあ!
「いいか? 教えてやる」
崩れ落ちていく神を見ながら、アルは満足そうに笑った。
「正義の前では、悪は滅びるのだ」
「どの口が言ってるの?」
◆
「ごちゃごちゃとうるさいことだ。すぐに黙らせてやる」
「…………うん?」
気づけば、先ほど血みどろになってかわいそうになるくらいボロボロにされたオルティメウスが、今も悠然と宙に浮かんでこちらを見下ろしてきていた。
黒い斬撃に飲み込まれて消えていった光り輝く槍も健在だ。
……あれ? どういうこと?
「え、デジャヴ……?」
ついさっき死んだはずの神がそこにいて、同じセリフを吐いている。
先ほどまで私が見ていたのは夢……?
いやいや、そんなはずはない。とてもじゃないが寝られる状況でなかったというのに、夢なんて見るはずがないのだ。
それに私だけがおかしいならばその可能性もゼロではなかっただろうが、アルもアンタレスも、そしてアリアス教のゴードンや幹部たちもみなひどく困惑している。
ということは、オルティメウスが何かをやったということだ。
未知の力。何をしているのか分からない力。
当然、それに対して警戒を強くし、慎重な行動が求められるのだが……。
「まあ、何でもいいか。死ね! 『死霊の嘆き』!!」
「何でもよくなくない!?」
問答無用。考えるより先に手が出る男、アルバラード。
今回も元気に私の力を平気で酷使する。
猛烈な殺意が込められた一撃に対し、オルティメウスは……。
「おっと」
ひらりと躱してみせた。
か、躱した!? さっきはまるで何も対応できずに、かわいそうなくらいにボロボロにさせられていたというのに!?
さらに、オルティメウスは翼を広げ、光の槍でアルに襲い掛かる。
「ふん!」
「む……」
オルティメウスの光の槍と、アルの持つ聖剣がぶつかり合う。
轟音とともに暴風が吹き荒れ、必死に身体を縮めているゴードンたちが悲鳴を上げて飛ばされていく。
立派な大教会も破壊され、外に飛び出す。
あらぁ……。これ、修繕費ってどれくらいかかるのかしら……。
「私と愛剣の愛溢れる強力タッグ必殺技を避けるとは、なかなかやるな……」
「なにその技。知らないんだけど」
アルが私の知らない技のことを言っている。
当事者が知らないことなんてある? びっくりなんだけど。
そんなアルの言葉を受けて、オルティメウスはさらりと言った。
「まあ、すでに一度見たからな」
「なに……?」
ピクリと眉を動かすアル。
一度見た……? 今回がオルティメウスとの初戦闘だ。
私も覚えていないし、そもそもアルが悪だと判断した相手を見逃すはずがない。
確実に殺しているはずだからだ。
「お、オルティメウス様! さ、先ほどの光景は……?」
「黙れ。お前たちには関係のない話だ」
何とか立ち上がったゴードンの問いかけを、オルティメウスはバッサリと切り捨てる。
いや、厳しいわね。オルティメウスはアリアスの属神とか言っていたから、結構大事にしないといけない感じじゃないの?
それとも、大勢の信者がいるから、一人の人間くらいどうにでもなると思っているのかしら?
うーん、これは神の傲慢ね!
「わたくしたちは関係ありますわね。なんですの? さっき、あなたはマスターによって無残に殺されたはずですのに……」
「ふん、まあいい。教えてやる。私に絶対に勝てないということを知らしめるためにな」
アンタレスの問いかけに、オルティメウスは楽し気に笑う。
自分の優位性を突きつけ、相手がそれを狼狽するのを見て楽しむって……。
神って、別にいい奴ではないのね。
そんなことを考えている私に、オルティメウスは種明かしをしようとする。
「お前たち……というより、その男の力は確かに強い。私も驚かされたほどだ。だが、決して私には勝てない。なぜか分かるか?」
「興味ない。死ね」
「話を聞いてあげて!?」
再び黒い斬撃をアルが放つ!
種明かしをしようとしていたのにいきなり攻撃を受けたオルティメウスは度肝を抜かれ、抵抗することもできずに、先ほどと同じような光景として血みどろで血に落ちていくのであった。
◆
「また、こうなるからだよ」
「あれぇ……?」
また平然と宙に浮かんでいるオルティメウスを見て、私はひどく困惑するのであった。
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https://manga.nicovideo.jp/comic/74458
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