第85話 親ばかだ……!
「甘い……甘いかのう……? わらわはそうは思わんのじゃが……」
私の指摘を受けて、うーんと悩む様子を見せるシャノン。
いや、あまあまでしょう。アルが人を殺しても、『仕方ないのう……』で済ませそう。
……あ、それはもう済ませているのか。
「じゃあ聞くけど、アル以外が同じように捧げものをしてきたら、それを絶対に使うの?」
「い、いや、さすがにすべてとはいかんが……。ほら、わらわのことを信仰してくれる人も今はそれなりにいるし、捧げものの数もなかなかのものでな?」
わたわたと手を振りながら、必死に言い訳をしてくるシャノン。
アリアス教のようにメジャーな宗教ではないようだが、それでも一定の信者はいるらしい。
まあ、今のところその信者がアルとエウスアリアというキワモノしかいないわけだけど。
少数精鋭……?
「……じゃあ、それって全部アルからの捧げものなの……?」
「そ、そうじゃが?」
私は思わずじっとシャノンの身体を見てしまう。
褐色の肌に映えるような、美しい金色の装飾品の数々。
ネックレスやらイヤリングやらブレスレットやら……。
普通に動き回るには邪魔としか思えないほどにゴテゴテと装着している。
彼女が女神でなければ、さすがにここまで装着できないのではないかと思うほどにつけている。
だというのに、シャノンは何も言わずにそれを身に着けている。
……息子からプレゼントもらって嬉しすぎてはしゃいでいる母親かな?
「な、なんじゃあ! 何が言いたいんじゃあ!?」
「いや……」
必死にこっちを睨みつけてくるので、もう思ったことを言ってしまおう。
シャノンを見て、私は口を開いた。
「アルのこと、贔屓しすぎじゃない?」
「ぐはっ!?」
ち、血を吐いた!?
わ、私、聖剣にして神殺しの武器になっちゃったのかしら……!?
……ちょっと格好いいじゃない。
両膝をついたシャノンは、身体をプルプルと震わせていた。
「ち、違うのじゃ。別に贔屓しているわけじゃ……」
「でも、アルからの捧げものだから使っているのよね? 他の信者からのものは使わないんでしょ? じゃあ、ゴリゴリひいきしているじゃない」
「うぐぅっ!?」
どさりと地面に倒れ込むシャノン。
普通に認めたらいいのに、それは嫌なの?
まあ、信仰している神が特定の信者のことを贔屓していると知られたら、信者たちも穏やかな心持ではいられないでしょうけど。
……いや、案外いけるか? だって、アルってシャノン教最高終身名誉顧問とかいうバカみたいな肩書を持っていたし。
「そもそも、あんた前からひょこひょこと顔を出していたけど、アルの行動に引っ付きすぎでしょ。他の信者のことを、そんなにしっかりと観察しているの?」
「ふぎゃぁっ!?」
ビクンと豊満な褐色肌をけいれんさせるシャノン。
頻繁にアルの後ろについて行って行動を見守っているみたいだし、贔屓も贔屓よね。
というか、シャノンの反応が面白くなってきた。
ちょっと悪戯心が芽生えたので、もう一発いってみよう。
「やれやれ。こんなことだと、エウスアリアがかわいそうね。あれ、シャノン教の教祖でしょ?」
「ああ、エウスアリアは問題ないぞ。あれ、わらわのことも信仰してくれているけど、ぶっちゃけアルバラードの方を信仰しておるし。頻繁に喋りに行っているけど、アルバラードのことを教えてあげたらウキウキで楽しんでおるし」
「ああ、そう……。予想通り過ぎる……」
私の渾身の攻撃はシャノンには刺さらなかった。
そうだった……。エウスアリア、シャノン教の教祖のくせに、アルのことを信奉しているヤバい奴だったわ……。
そりゃあ、自分が信仰している神が、自分が信奉している人にあまあまで楽しそうに交流していたら、頭のおかしいエウスアリアは大喜びしていることだろう。
「まあ、それでも贔屓していることは認めるのね」
私がそう言うと、シャノンはプルプルと震えながらうつむき……次の瞬間、大声を上げてバッと顔をはね上げた。
「……仕方ないじゃろ!」
「おぉっ!? きゅ、急にびっくりするじゃない」
迫真の大声に、これには私もびくっと身体を震わせる。
な、なによ。神とはいえ、この美しく麗しい聖剣に危害を加えようとするのは許さないわよ……!
「信仰してくれるものがほとんどおらんようになって、今にも消滅しかけていたわらわを助けてくれたのがアルバラードなのじゃ。……可愛くて仕方ないのは当然じゃろ!」
「え? そんなに危機的な状況にあったの? というか、信仰がなくなったら神って死ぬのね」
シャノンは拳を握り、震えながら過去を回想する。
よかった、いきなり殺すとか襲い掛かられなくて。
私の疑問に、シャノンはさらりと答える。
「物理的に害されようとも基本的に神は死なん。まあ、神殺しの武器とか使われたら死ぬが、そんな武器は数えるくらいしかないし、それがあっても単純に神が強いから負けん」
えー……基本的に不死の存在なの……? ずるい!
最低条件として神殺しの武器が必要で、だけど大人しくその攻撃を受けてあげることは基本的にないと。
まあ、神殺しが頻繁に起きるはずもないわよね。
「神の死因の最も大きいところが、信仰の消失じゃ。これはどうにもならん」
顔を青ざめさせながらシャノンは言う。
どうやら、神も死ぬのは怖いらしい。
いや、普通の生物と違って死ににくいからこそ、なおさら死に対しての恐怖が強いのかもしれないわね。
「信仰しなかったら殺す、みたいな脅迫をするのは?」
「それ、神として終わっとるじゃろ……。というか、そんなあからさまなことをしたら、他の神から一斉に攻撃を受けるわ。先にそっちで死ぬわ」
呆れたようにため息をつくシャノン。
まあ、それもそうか。信仰が神として存在させるに必要不可欠なものなのであれば、それを強奪するようなことを、他の神が認めるはずもない。
それどころか、自分の生命そのものを奪う行為だから、そりゃ殺されるわよね……。
「忘れられると信仰がなくなり、神は消滅する。わらわはその一歩手前……というか、棺桶に脚を半分突っ込んでおったんじゃが、そんなときに現れたのがアルバラードじゃ」
過去を思い返し、うっとりと表情を緩めるシャノン。
……こいつからしたら美しい過去なのかもしれないけど、今のアリアス教とかからしたら悪夢そのものよね。
アルがシャノンと出会わなければ、少なくとも今回の他宗教弾圧で攻撃されることはなかったんだから。
「アルバラードの敬虔で真摯な信仰のおかげで、わらわはこうして生きておることができる。……そりゃ、贔屓するじゃろ!」
「もうあまあまじゃないの……」
くわっ! ともう隠すどころかごまかすことすらせずにシャノンは宣った。
こりゃダメだわ……。
「じゃあ、今回のアリアス教襲撃も止める気は……」
「さらさらないわ! そもそも、わらわの可愛い信者を攻撃しよって……。死んで当然じゃ!」
「ああ、過激だ……」
ブンブンと腕を振って気勢を上げるシャノン。
アルが信仰するだけはある。
「それに……」
じっとシャノンが作戦会議をしているアルを見る。
その褐色の頬はうっすらと赤らんでおり……。
……え? マジ?
「アルバラードがやる気になっているのに、邪魔なんてできんじゃろ……」
「親ばかだ……!」
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