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第83話 お前を見て少し冷静になった

 










 姿勢よく立っているその姿は、どこからどう見ても清楚なシスターである。

 ……シスター服って、なんだかちょっと厭らしいわよね。


 清純さを強くアピールするところかしら? それとも、意外と身体の線が出てしまうところかしら?


「確か、ルサリア、だったか?」

「はい、覚えていただき光栄です。私はしっかりと覚えておりますよ、アルバラードさんにアンタレスさん。私、ファンなので」

「ああ、そうだった……。この子もアレな子だった……。アルの周りに集まってくる女って、なんで一癖も二癖もあるのかしら……」


 私もちょっと会って話しただけだったからあまり覚えられていなかったけど、そうだったわ。

 この子、アルのファンとかいうトチ狂ったことを言っていたのだった。


「そうか。私もしっかりと覚えているぞ。有望な人間の顔は忘れられないからな。ついでに悪党も」

「ひぇ……」


 悪人の顔を絶対に忘れず、地の果てまでも追いかけて必ず殺す男。

 ……これ、悪人からすればどれほど恐ろしいことだろうか。


 話の通じない絶対殺すマンが、どこに逃げても死ぬまで追いかけてくるのである。

 ホラーすぎる。私ならストレスで頭はげそう……。


「ルサリア。炊き出しをしていたな。それに、お前はシャノン教に攻撃を加えていなかった。私にとっては、誅する悪ではないな」


 驚いたことに、アルにとってルサリアは殺害対象になっていないらしい。

 相手はアリアス教の人間だというのに、だ。


 全員殺すとか言いそうだと思っていたのに……。


「え? そんなの、どうやったら分かるの? 口で言っているだけかもしれないし」

「匂いですわ」

「……匂い?」


 私の疑問にアンタレスが応えてくれるが、さらに疑問が深まったんだけど。

 答えを言ってもらってもっと分からなくなることってあるんだ。


 アンタレスは自信満々に胸を張る。


「わたくしとマスターほどになれば、悪人かどうかは勘や匂いで分かるものなんですの」

「人間じゃない……?」


 犬とかそういう感じの生き物かな?

 それなら、人道とか常識とか倫理観とか持ち合わせていない理由が分かる。


 最初は魔族の者かとも思っていたけど、この前四天王とか魔族に与した女勇者とかぶっ殺していたし……。


「そう言っていただけるのはとても嬉しいですね。あの『殺人鬼』と『血染めの勇者』に認めてもらえるのは、末代までの誉です」

「二つ名終わってない? 本当にそれ誉にしちゃうの? 末代までの恥だと思うけど?」


 ルサリアが薄く表情を崩して嬉しそうにするものだから、頭を抱えたくなる。

 なんで……どうして……。


「しかし、派手に建物を崩壊させるのは止めてくれませんか? あなた方が大暴れしたおかげですでに一般人は逃げていますが、万が一残っている善良な市民に瓦礫が当たるのは良くないことですから」


 ルサリアはそう言ってアルに忠言する。

 しかし、私は思わず鼻で笑ってしまう。


 ふっ、バカね。アルがそんな人の話なんてちゃんと聞けるはずがないでしょう?

 だったら、私のことを無理やり地面から引き抜き、かつ自分が選ばれし勇者だと思い込み、問答無用で悪と断定した他人を無差別にぶっ飛ばしていくはずないじゃない。


 そう思って笑ってしまう私は、次の瞬間に凍り付く。


「む……。一理あるな……」


 アルが……あの傍若無人を具現化した存在そのものであるアルが!

 他人の意見に耳を傾けたのである!


 ……じゃあなんで私の言うことは全部無視するの、こいつ?


「す、ストッパー!? ついにアルのストッパーが現れたの!?」

「あの中でふんぞり返っている連中は殺して構わないので」

「あ、ストッパーじゃなかった。またアルの同類だった?」


 ぐっと親指を突き出しルサリアが示すのは、先ほどアルが消し飛ばそうとしていた教会である。

 この女、自分の上司を殺していいとか言い始めたわよ。


 これはストッパーにならないわね。アクセルにしかならないわ。


「あら、いいんですの? あなた、アリアス教の中でもそれなりの地位にいると思っているのですが?」

「そうなの?」


 アンタレスの言葉に聞き返せば、彼女はコクリと頷いた。


「彼女が身に着けているいくつかの装飾品。あれ、神具ですわ」

「うむ、普通の魔力とは異なる特別な力を感じるな」


 そう言われてルサリアのことをしっかりと見てみると、確かにいくつかの装飾品が見て取れた。

 少ししか交流していないが、彼女自身がそういう装飾品を好むタイプとは思いづらい。


 つまり、単なるアクセサリーではなく、アンタレスの言う神具というのが現実味を帯びていた。

 おそらくは貴重で強力なものなのだろうが、それを複数も預けられているということから、ルサリアの高い実力と人望が見てとれる。


 ……なお、そのルサリアは上層部を殺してもいいとテロリストを招き入れる模様。

 どうなっているの……?


「はい。私、アリアス教で聖女を仰せつかっております」

「せ、聖女……?」

「はい」


 コクリと頷くルサリア。

 高い立場だとは思っていたけど、聖女……?


 なんだか凄そうな称号じゃない……!

 こっちは『絶望』と『血染めの勇者』よ!


 ……終わりね、この世界。


「それで、アルに対してどんな対応をするの?」

「アルバラードさんとアンタレスさんは、他宗教への攻撃をしたアリアス教をどうしたいんですか?」


 ルサリアから問いかけられたアルとアンタレスは、ふーむと少し考える仕草を見せる。

 ほんの少し考えたが、すぐに答えを出した。


「そうだな……。最初は全員皆殺し、八つ裂き、拷問を考えていたが……」

「当然ですわね」

「えぇ……?」


 私はひどく困惑させられる。

 この二人が勇者って、絶対におかしいわよ……。


 この世界に問題があると思う……。


「しかし、お前を見て少し冷静になった。アリアス教は巨大な組織だ。全員が全員、他宗教への攻撃を肯定していたわけじゃないだろう。だから……」


 ふっと、アルはまるでいうことを聞いてくれない仕方のない子供を相手にするように、優しい笑みを浮かべた。


「アリアス教の上層部を皆殺しにすることで、他は勘弁してやろうと思う」

「そうですか。では、お通りください」

「えぇっ!?」


 聖女ルサリア、人殺し勇者を笑顔で通す。




『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』のコミカライズ最新話が、ニコニコ漫画で公開されました!

https://manga.nicovideo.jp/comic/73126

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― 新着の感想 ―
善良で、まともな宗教家は、宗教を掲げて弾圧や粛清を行うのを嫌うよな。……善良でまとも。うん。…うん?
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