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第80話 いい返答だ

 










 急速にラーシャの命の危険が迫ってきていることを実感する。

 あちゃー……。この子、アリアス教だったのかあ……。


 何やら不穏なものを感じ取ったのか、ハンナがこっちに近づいてきてぼそぼそと口を開く。


「……ところでなんやけど、この教会ってアリアス教のやんな? 何かボロボロになってるし、偉そうなおっさんも伸びてるし、ここに来るまでに大量の人がダウンしていたんやけど……。これって、もしかしてこの人のせいやったりする?」

「言う必要、ある?」

「やばい、ラーシャ! 逃げるで! 殺されるぅ!」


 私の返答を受けてすぐさまラーシャの腕を引っ張り始めるハンナ。

 あ、逃げようとしない方が良いわよ。


 逃げようとしたら、何か後ろめたいことがあるんじゃないかとアルに疑われるから。

 そのあとの末路は……いうまでもないわよね。


 ハンナにグイグイと腕を引っ張られながらこの場に残るラーシャはポツリと呟く。


「んー……。アルバラードさんがそれを望むんだったら、私は別に……」

「ラーシャ!? 頭おかしいんか!?」


 結構前からそうだったけど……。

 しかし、死も受け入れるとかどうなっているの……? そんなにアルが好きなの……?


 好きな人からなら、殺されてもいいみたいな?

 うーん、全然分からないわ、その価値観。


「ふむ……。ラーシャはアリアス教の信者なのか?」

「信者……と言えるほど信仰はしていませんが、一応は……。うちの村では、だいたい信仰していたので。両親も信仰していたことで、私も自然にそういうことになりました。ただ、教会に行ったりはしていなかったですね」

「なるほど……」


 コクリと一つ頷いて考える仕草を見せるアル。

 親が信仰していたから子供も……というのは、そんなに珍しいことではないだろう。


 よほど悪い親でない限り、子にとって親は絶対の存在だ。

 その親が信仰していれば、何となく信仰をするというのはあるだろう。


 さて、そんな状態のラーシャに対して、アルが下した判断は……。


「セーフ!」

「何が?」


 ハンナはキョトンとしているが、セーフというのはラーシャの命である。

 熱心なアリアス教徒だったら……。この先は言わなくても分かるわね?


「しかし、なぜラーシャが呼ばれたのかしらね……。特別に篤い信仰心を持っていたわけじゃないようだし……」

「それは、そこで寝込んでいるバカを起こして聞こうか。まだ息の根があるといいが……」


 呼び寄せた張本人に聞こうとするアル。

 息の根があるといいって……。どんな言葉?


 仮に生きていたとしても、アルの拷問に耐えられるかしら……?

 そう思っていると……。


「そう言われると思って、すでに聞いてきましたわー!」

「ふっ、さすがだ、アン。将来有望だな」

「えへへ」


 どうやら、先んじてアンタレスがひげのおじさんから聞き出すことに成功したらしい。

 わしわしと、まるで愛犬を褒めるように乱暴に髪の毛を撫でるアル。


 せっかく綺麗にロールされた金色の髪がぐしゃぐしゃになってしまうが、アンタレスは嬉しそうに頬を緩ませている。

 犬かな? 犬ね……。


 そんな感想を抱いている私に、ハンナがこそこそと話しかけてくる。


「なあ。あの人めっちゃ返り血ついてんねんけど。聞き方って……」

「しっ! 余計なことは言わないのが長生きするコツよ! あと、あっちで転がっている人は見ない方がいいわ。吐きそうになるから」


 顔を青くするハンナに、私はビシッと言い聞かせる。

 そう、アンタレスの身体に飛び散るような赤いものなんか見えないし、彼女が来た方に転がっている真っ赤な何かも見えないのだ。


 見えたところで良いことはなにひとつないのだから。

 アンタレスはアルに褒められてある程度満足したのか、むふーっと鼻息を荒くしてから報告を始めた。


「どうやら、その女性がとても美人で器量が良いと有名だったようで、あの男が自分の性欲を満たすために愛人にしようとしていたのが一つ」

「うわ……」


 思わず頬を引きつらせてしまう。

 当の本人であるラーシャも顔を青くしていた。


 凄いわねぇ……。人間って……というか、人間の男って、本当に性欲強いわよね。

 普通の動物は発情期とかあるのに、一年中盛っているし、しかも歳をとっても性欲が強いままの男もいる。


 そりゃ人口も増えるわよね。虫みたい。


「それから、アリアス教で使われている神具の適性が高いということが分かったから連れてこられたようですわ」

「神具……?」

「アリアス教が保持する高い能力を持つ武器などのアイテムのことですわね。本当かどうかは知りませんが、神の御業で造られたとかなんとか。そして、誰でも使えるものではなく、高い適性がなければ持つことさえできないらしいですわ」


 アンタレスがペラペラと話してくれる。

 説明してくれるキャラがいるのはたすかるわね!


 しかし、神具ねぇ……。ラーシャにそんな適性があるとは知らなかったわ。

 というか、驚かされるのはアンタレスの手際の良さである。


「この短時間でめちゃくちゃ聞いているじゃない」

「ええ、熱心にお伺いしましたので!」

「ね、熱心……」


 ちらりと物言わぬ血肉の塊を見る。

 ……うん、熱心なことは良いことね!


 というか、アンタレスに使われている聖剣さあ……。止めようとしないわけぇ?

 え? 無理? 話を聞いてくれない? 無理やり従わせられる?


 ……聞かなかったことにするわ!


「そう言えば、村に来たアリアス教の神父が、村人含めなんか調べてたなぁ。そこでラーシャが見初められたってことか」

「見初められたって言い方やめて」


 ハンナにラーシャが無表情で訂正を求めた。

 ほほー。アリアス教ってそんなことしていたのね。


「なるほど。つまりこの男は、ラーシャを手籠めにしたうえで、高い能力を持つ人間を囲い込もうとしていたわけだな」

「なかなかゲスいわねぇ……」

「よし。あれは後でまとめて殺すとして……」


 ……あれ以上に殺すの? もうやる意味なくない?

 しかし、アル的にはまだやれることはあるらしい。


 ……うん! 私は知らないわ! 関係ないもの!


「ラーシャ。お前はアリアス教への信仰のために、私と敵対するか?」

「ふふっ……」


 アルの真剣な問いかけを受けたラーシャは、上品にほほ笑んだ。


「いえ、百パーセントしません。信仰よりアルバラードさんですから」

「いい返答だ」


 満足そうに頷くアル。

 ……あんた、とんでもない女に好かれているってわかってる?




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