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第8話 ひ、人殺しぃ!

 










 キースは、今まで自分のため以外に戦ったことはなかった。

 優れた力、他者を圧倒する力。


 自分のために利用するのは当然だし、誰に謗りを受けることもない。

 自分の力を、自分のために使って何が悪いのか。


 そして、力至上主義……とまではいかないが、力というものがとても重要なウェイトを占める魔族というのも大きかった。

 他人のために……なんて生ぬるいことを言う者は、ほとんどいない。


 だから、キースは今まで自分のために、気ままに力を使って生きてきた。

 だが……。


「俺は、他の魔族のために、テメエを殺す!」


 今、キースは生まれて初めて、他人のために自分の力を使う。

 それは、目の前の脅威を滅ぼすために。


『勇者』とか名乗っているが、実際には『狂人』だろう。

 意味の分からないぼやけた感覚で他者を悪と断じ、何の躊躇もなく殺そうとしているのだ。


 まともであるはずがない。

 自分が倒れれば……いや、この男を野放しにすれば。


 魔は悪だとか訳の分からない論理で、この男は魔族に牙をむくことだろう。

 多くの魔族が、この化物の手にかかる。


「(赤の他人なんて、どうなっても知ったことないはずなんだがなあ……)」


 魔族としてのプライドともいうべきだろうか?

 自分の中にも、かすかにそんなものが残っていたらしい。


 人間に、魔族を殺させない。


「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 暴発寸前にまで、魔力を雷の塊に注ぎ込む。

 自分の魔力が大幅に吸い取られていく。


 おそらく、この戦いに勝ったとしても、何かしらの後遺症は生まれるだろう。

 だが、それが分かっていてなお、キースは魔力を注ぐことを止めることはなかった。


 目の前の大敵を倒す。

 そのためなら、自分の身体なんて、惜しくない。


「うわぁ、凄いなあれ。うちがあんなん受けたら、跡形もなく消し飛ぶわ」


 すでに安全圏に、ラーシャを連れて離れていたハンナ。

 しかし、あの雷が暴発すれば、距離が離れていても危険である。


「やっば。マジでどうやって逃げよ……」

「大丈夫、かもしれないよ」

「ん?」


 悩むハンナに、ラーシャが声をかける。

 その目は、巨大な雷にも一切引かず相対しているアルバラードを捉えていた。


「あの人、本当に強かったから」


 ラーシャの視線の先では、キースの戦意に呼応するアルバラードが……いるわけではなかった。

 なぜか納得するように、コクコクと頷いていた。


「なるほど。この魔力、お前がどれほど鍛え上げてきたのか伝わってくる。素晴らしいと感嘆するほどだ。お前が悪の道ではなく、正義の道に進んでいてくれたらと、心の底から思う」

「魔族というだけで悪認定しているのに、どうしろと? 生まれが間違っていたとか、とんでもない差別主義者なんだけど……」


 心の底から呆れた目を向ける精霊。

 なんで本当にこの男に引き抜かれてしまったのだろうかと、激しく困惑する。


 正義と善の心とはいったい……。

 精霊の言葉に耳を貸さず、アルバラードはふっと笑う。


「だから、私も真摯にお前と向き合おう。正面から、殺す」

「うーん、この殺害予告……」


 ラスボスの言葉に、精霊は頬を引きつらせる。


「はっ。やれるものならやってみろ、人間!!」


 キースはついに雷の塊に魔力を込めることを止める。

 もはや、いつ暴発してもおかしくないほどの魔力が内包されていた。


 轟々とうなり、ぐにゃぐにゃと形を一つのものにとどめておくことができなくなっているほどだった。


「おおおおおおおおおおおおお!!」


 キースの咆哮。

 同時に、雷の塊から無数の稲妻がほとばしる。


 それは、ほとんど無差別に周囲を破壊する。

 目を開いておくことができなくなるほどの、爆発的な光量が辺りを包む。


 耳を襲う雷鳴は、鼓膜を破らんとするほどだった。

 もはや、キースでさえもろくにコントロールができなくなっていた。


 近くの建物を、一撃で破壊してみせる雷が、いくつもほとばしる。


「わわっ!?」

「きゃっ!」


 遠く離れた場所から状況を伺っていたハンナとラーシャの近くにも、その暴力的な雷が襲う。

 圧倒的な破壊の力。


 その猛威を前に、アルバラードはゆっくりと聖剣を上段に構え……。


「ふぅん!!」


 振り下ろした。

 聖剣は、その力の行使をアルバラードに対して認めていない。


 つまり、それは切れ味が鋭くめったに壊れない頑丈な普通の剣と言える状態だ。

 だから、今の行為も、何も特別なことはない。


 ただ、剣を振り下ろした。

 それだけの行為である。


 取るに足らないそんな剣の素振りによって、辺りを破壊しつくさんばかりに猛威を振るっていた雷の塊が、切り裂かれた。


「――――――」


 そして、そのすぐ下でそれを支えていたキースの身体から、鮮血が噴き出すのであった。

 身体をごっそりとえぐられて、地面に倒れる。


「また一つ、正義を為せた」


 アルバラードは、満足そうに頷くのであった。










 ◆



 私のすぐ隣で、仁王立ちするアル。

 倒れ伏す魔族の男。


 ……ひ、人殺しぃ!

 まあ、私はそういう武器だから当たり前と言えば当たり前なんだけど……。


 それでも、言わなければならない。

 ひ、人殺しぃ!


 というか、アルって本当に強いわ。

 魔族って、そいつ自身も言っていたように、基本的に人間より強い。


 明らかに驕って油断している隙に倒されるということもあるが、今回は途中からそんなことはなく、むしろ全身全霊を持ってアルを殺しに来ていた。

 それなのに、たったの一振りで決着をつけてしまった。


 いや、本当に……。


「今回の戦いで大けがとかしてくれたら、その内に何とか逃げようと思っていたのに……」


 私、アルから逃げることを諦めていなかった。

 遠くから近づいてくる二人の女を見ながら、遠い目をするのであった。




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