第74話 殺意たかっ!
シャノン教と呼ばれる宗教のアジトとやらに連れてこられた美しいメインヒロインである私。
……いや、アジトを構えている宗教って嫌なんだけど。普通に怖いんだけど。
そんなことを言おうものなら、一応私の所有者みたいなものになりかけているアルが怖いから言わないけどね。
まさか、この頭のおかしい男が宗教を信仰しているとは……。
……相性最悪じゃない?
そして、目の前のドロドロに濁った瞳でこちらをじっと見てくるエウスアリア。
ふふ、怖い……。
「きょ、教祖……」
「はい。恐れ多くも、その立場に置かせていただいております」
しずしずと頭を下げるエウスアリア。
こんな若いのに教祖……。
ある意味トップの立場についているということよね?
つまり、この若さで相当やばいということよ。関わりたくない。
「ちょ、ちょっとアル。この人教祖って……。というか、目のドロドロ具合がアンタレスと一緒なんだけど、これってあんたのせいじゃないでしょうね」
目がドロドロしている女が出てきたら、だいたいアルのせい。
私はそう思っている。
問いかけた私のことは無視して、アルはエウスアリアに話しかける。
「ふっ。素晴らしい祭壇だ、エウスアリア。さすがと言っておこう。我らが女神もお喜びになっているはずだ」
「ありがとうございます。アルバラード様にそう言ってもらえると、嬉しすぎておしっこが漏れそうです」
「こんな綺麗な笑顔で嬉ション宣言しているとか頭おかしくなりそうなんだけど。全部アルのせいでしょ、これ」
ああ、無視されても分かった。
エウスアリアの頭のおかしさは、アルの影響なのだと。
アンタレスもそうだが、アルは頭のおかしい人間を育てるのが得意なのかしら?
……ありえそう。
というか、こんなのが教祖のシャノン教がやばいのでは?
だって、アルもいるし。
信仰対象であるシャノンとやらも、相当なアレでしょうね。
「あと、わらわ別に喜ばないのじゃぁ……。普通に恥ずかしいのじゃあ……」
「ッ!?」
また何か聞こえた!?
げんなりと、しかしどこか嬉しさを隠しきれていない声が!
バッと振り返るが、やはりそこに人は存在しない。
お、お化け!? 困るわ!
「や、やっぱり何かいるって! なんで皆気づかないの!?」
「何を言っているんだ、お前は?」
アルが呆れたような目を向けてくる。
いや、そんな目を向けられるのは納得いかないんだけど!?
私がこいつに向けるのはいいけど!
「マスターに構ってほしいのかもしれませんわ。そういう場合は、しっかりと本音を真摯に訴えかければいいですわ。マスターは必ず構ってくれます」
「違うわよ!!」
アンタレスが頭のおかしいことを言ってくる。
私の肩に手をポンと置き、やれやれと素直になれない子供を見るような、温かい目を向けてくる。
ヤバい。聖剣としての力を全力で出してしまいそうになる。
逃げる方向で。
「そうですの? マスター、わたくしは構ってほしいですわ!」
「よーしよしよしよしよし」
「えへへー」
シュバッ! と手を挙げて頭をぐりぐりとアルに押し付けるアンタレス。
まるで大きな犬を構うようにわしゃわしゃと頭をなでる。
いや、女の髪をそんな雑に……。
しかも、アンタレスは金髪ロールだから、髪の手入れにはかなり時間をかけて大切にしているだろう。
そこらの男がふれたら、悪と断罪され首を飛ばされそうだが、アルにわしゃわしゃされているアンタレスは本当に幸せそうだった。
目を閉じていれば可愛いのよね……。
目を開くな。怖いから。
というか、こんな扱いでいいの、あんたは……?
「むむっ。アルバラード様がシャノン教信者以外にこんな優しくするなんて……。どちら様ですか?」
なぜかむっと頬を膨らませるエウスアリア。
ちょっと。そこの二人は敵対しないでちょうだいよ。
目がドロドロしている女が二人殺し合うなんて、ゾッとしないわ。
私は関わらないわよ。
エウスアリアの視線を受けて、わしゃわしゃされて輝くような金髪が激しく乱れたままのアンタレスが胸を張る。
「アンタレスと申しますわ。マスターからは薫陶を受けまして、心の底から敬愛させていただいておりますの」
「ようこそ。歓迎しますよ」
「ありがとうございますわ」
「うわぁ……。手を組んだらイケナイ二人が、気が合っちゃった感じがする……」
ぐっと固い握手を交わす二人。
えぇ……。仲良くなるのぉ……?
バトルされても困るけど、仲良くなられるのもそれはそれで困りそう……。
「ところで、エウスアリア。あの反吐が出るような他の宗教勢力はなんだ? いつ皆殺しにする?」
「そんな、アルバラード様……」
唐突に皆殺し宣言をするアル。
うーん、この……。
悪人に対しては非常に苛烈だが、異教徒にも厳しいらしい。
まあ、今回はシャノン教を弾圧していたのはアリアス教らしいし、やられたからやり返すような気持ちなのかもしれないけど。
それはそうとして、皆殺しはひどいのでは?
エウスアリアもさすがに引いて……。
「殺し方を考えましょう、一緒に」
「うむ」
「なんでよ……! どうしてアルに近づいてくるような女は皆こんな感じばっかりなのよ……!」
私はがっくりと肩を落とす。
全然……全然引いていなかった……!
むしろ、嬉々として殺し方まで考えようとしていた……!
そんな嬉しそうに人の殺し方を考えるんじゃないわよ……!
「私たちに絡んできていたのはアリアス教ですが、シャノン教だけを目の敵にしているわけではなく、他の宗教全体を敵に回すような行動をとっています」
エウスアリアは光の宿らないドロドロの瞳をさらに濁らせる。
「アリアス教が、他の宗教を粛清し飲み込み、唯一宗教となろうとしているんです」
「そうか。皆殺しだ」
「殺意たかっ!」
本当に皆殺しにしそうで怖い……。
最終章始動です!
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