第73話 可愛い神
「それでのう、アルバラードのやつ、わらわに供えるとか言って死体をささげてくるのじゃ。そんなの、本当に求めていないのに……。どうしてこうなったのじゃ……」
「なるほどなるほど」
アリアス教が猛威を振るっている街の隠れアジト。
そこでは、シャノン教の今代教祖であるエウスアリア。
そして、彼女の正面に座るエッチな女こそが、シャノン教の信仰対象そのものである、女神シャノンであった。
その様子は、何やら自虐風自慢をするOLそのものであり、何とも苛立たしい。
しかし、エウスアリアは穏やかな笑みを浮かべていた。
子供を見る目である。
なお、シャノン教信者の子供でなければ、必要であれば蹴り殺すような女である。
「しかも、毎日毎日長時間祈りをささげてくるのじゃ。それを送られる側の立場にもなってほしいものじゃ。そりゃ、嬉しくないわけじゃないが、大変なのじゃ」
「ほうほう」
キャッキャしているシャノンに、エウスアリアはニコニコと笑いながら頷く。
金色の輝くような髪が揺れ動く。
「なんじゃろう……。もっと普通な感じでいいのじゃ。こう、たまに会うときに構ってくれるみたいなの? 分かるじゃろ?」
窺うように見上げてくるシャノン。
彼女は、美の女神かと思うほど美しかった。
長く黒い髪は艶やかに輝いていて、キラキラと光の粒子を放っているかのようだった。
前髪はパツンと短く切りそろえられており、どこか幼さを感じさせる。
薄い衣装は身体の線がはっきりと出ており、豊かに実った胸や安産型の臀部が伝わってくる。
エウスアリアは女だが、とんでもなくエロい身体してやがる、と思っていた。
褐色肌に映えるように、色々とアクセサリーをつけている。
すべてが金でできており、かなり豪奢な印象を与える。
神だから着飾るのは当然である。
そんな彼女の敬愛するスケベな女神は、まるで恋に疲れ切ったOLのように愚痴っていた。
聞いている側は鬱陶しいだろうに、エウスアリアは穏やかな笑みを浮かべていた。
「ええ、もちろん分かります。十分すぎるほどに伝わってきました」
「ほほっ、そうか! ならば、お主からもアルバラードの奴に言ってやってくれ」
「分かりました」
我が意を得たりと、ご機嫌になる女神シャノン。
そんな彼女を見て、エウスアリアはニッコリと微笑んだ。
「つまり、我らが神はアルバラードさんが大好きということですね」
「なぜそうなった!?」
バン! と机をたたいて不満を露わにするシャノン。
顔は真っ赤である。
何だこのいじらしい女神は。
スケベな身体をしておいて、純情とはこれいかに。
「どこにそんな要素があった!? わらわ、一言もそんなことを言っておらんじゃろうが!」
「え、いやだって……。本当にご自覚がない……?」
「な、なんじゃ。そのバカを見る目は止めろ。わらわは馬鹿じゃない。賢い」
一転して焦ったようにあわあわするシャノン。
コロコロと表情を変える女神は可愛らしい。
エウスアリアはゾクゾクと快感が背中に走った。
やっぱり、わが神は弄られてこそ輝く。
「というか、ほとんど毎日アルバラードさんのことをのぞき見しているくせに、何を今さら……」
「い、いやいや、神として敬虔な信者に報いるのは当然じゃ」
「確かに、アルバラードさんほど神のことを信仰している者はいませんが、ゴリゴリ贔屓していますよね」
「そ、そんなことはないぞ。わらわはちゃんとすべての信者を平等に愛して……」
「私の顔を見て言えますか?」
汗をダラダラと流して顔を精一杯逸らすシャノン。
それでも、エウスアリアはジーッと見続ける。
そして、一分も経っていないが、我慢できなくなったシャノンが立ち上がる。
「…………ちょっとアルバラードのところに行ってくるのじゃ」
「……困っているわが神、かわいいですね」
逃げる先に真っ先に浮かび上がるのがアルバラードのところという時点で、ゴリゴリ贔屓しているのが明白である。
しかし、それでもいいのだ。
可愛い神を見ることができるのであれば、エウスアリア的にはまったく問題ない。
恋に恋するような神様も、全力で推していく。
それこそが、シャノン教の教祖である勤めなのだから。
◆
アルバラードと聖剣が訪れた小さな村で、二人の女が話していた。
「えぇ!? マジで行くん!?」
驚愕の表情を浮かべるのは、指名手配犯である錬金術師、ハンナである。
いまだにアルバラードの中では悪認定のギリギリのところで踏みとどまっている、まさに薄氷の上にいる女だ。
そんな彼女に苦笑を浮かべているのは、彼女の親友であるラーシャだった。
最近、憧れの男に女を見せているのではないかと、ハンナを疑っていたりする。
「うん。私が行ったら、この村にも支援をしてくれるっていう話だし」
「なんか、そういうことを交渉材料にしてくるところが、もう色々アレやん。ほんまに大丈夫なん?」
「そ、そこまで言わなくても……。でも、やっぱり支援は魅力的だし。皆の生活が豊かになるから」
善性の強いラーシャは相手のことを信じているようだが、ハンナはどうにもきな臭いと思っていた。
少なくとも、逆の立場なら絶対に行かないだろう。
ぶっちゃけ、村の人たちも他人でしかないので、どうでもいいし。
ただし、ラーシャだけは別である。
彼女は、最も大切な存在なのだから。
「それでラーシャが幸せになられへんかったら意味ないのに……」
「ううん、私は幸せだよ?」
「ラーシャ……」
笑みを浮かべるラーシャに、ハンナは感動してしまう。
ここまで村人のために行動できるだなんて……。
自分では絶対にできないし、やるつもりもないことなので、なおさらその凄さが分かる。
そんなハンナに、ラーシャは満面の笑みを浮かべる。
「だって、これでアルバラードさんを探しに行けるもん!」
「…………え?」
あれ? もしかして、なんだか思っていたことと違う?
ハンナは頬を引きつらせる。
「待っていてくださいね、アルバラードさん!」
「ラーシャ!?」
目をキラキラと輝かせる恋する乙女に、ハンナは絶叫するのであった。
あいつはダメ! 色々と!
「あーもう! うちも行くわ!」
「ハンナ……」
一人でラーシャを行かせるわけにはいかず、ハンナは頬を赤らめながら声を張り上げる。
自分がラーシャのことを心配してこのように声を上げたことは、誰の目から見ても明らかだろう。
それが恥ずかしくて頬を赤らめた。
ラーシャも目を潤ませて彼女を見て……。
「やっぱり、アルバラードさんのことを……」
「違うから! 絶対に!」
変な勘違いをされていることに絶叫するハンナ。
こうして、ラーシャとハンナの二人は、アリアス教の要請に従って村を出るのであった。
第3章完結です!
次章で最終章です!
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