表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/66

第7話 どっちが悪役なんだろう

 










 生物にとって、雷というものは非常に恐ろしい自然現象である。

 なにせ、目で捉えてから避けることはできない。


 にもかかわらず、一撃で命を落としかねない、恐ろしい天の怒りだ。

 その巨大な音も、生物を強く委縮させる要因の一つだ。


 そんな雷を自在に操ることができるのが、キースであった。

 今回のように、人間の勢力圏に入り込み、たった一人で任務を任されていることからも、彼が魔族の上層部からどれほど信頼されているかが分かるだろう。


「人間がどれほど抗ったところで、俺には勝てねえよ。雷に勝ることができる生物は、いない」


 戦闘能力という面だけなら、キースは魔族の中でも上位に入る。

 魔力の持久力などを見ると少々劣るが、それは能力が非常に強力であるが故である。


 そもそも、キースの力ならば、そんな時間のかかる戦い方なんてする必要はないし、そんな戦いになったこともなかった。

 一瞬でケリはつく。今回もそうだ。


「じゃあ、さっさと死ね」


 キースの頭上に膨れ上がった雷の塊。

 そこから、一条の雷撃がアルバラードに襲い掛かる。


 それはまさしく雷。

 カッと光ったと思えば、すでにアルバラードのすぐ前に迫っていた。


 認識してから避けることなんてできない。

 いや、そもそも雷撃を放たれたと思うこともできず、雷に打たれて地面に転がることになる。


 それが、今までキースと相対してきた者たちの末路だった。


「ふぅん」

「…………は?」


 だから、気の抜けるような声と共に、その雷撃が聖剣で弾き飛ばされたのを見た時、キースは生まれて初めてというほど間抜けな顔をしてしまった。

 ……雷撃をはじいた?


「な、何をやってんだお前……?」


 唖然として問いかける。

 雷撃をはじいたということもそうだが、何よりそのやり方が問題だった。


 聖剣ではじいたのである。

 つまり、魔法などで無効化したわけではないから、その雷は剣を伝ってアルバラードの身体に深刻なダメージを与えているはずだった。


 人体に雷は即死級のダメージを与える。

 キースの使う雷はあくまで魔法のため自然現象のそれとは異なるが、それでもしびれて地面に倒れ、立ち上がれないほどの苦痛を味わわせているはずだ。


 だが……。


「ふっ、効かんな」

「なにこいつ……」


 ビリビリ身体をしびれさせながら、不敵な笑みを浮かべるアルバラード。

 隣の精霊もガチで引いていた。


 別に聖剣の加護とかは一切なく、素の身体で雷撃を受けてこれである。

 この中では一番アルバラードと付き合いの長い彼女であるが、いまだにこれが何なのかよくわからなかった。


「く、クソが! 近づいてくんな!!」


 ジャリジャリと地面を踏みしめて近づいてくるアルバラードに、容赦なく苛烈な雷撃を与え続ける。

 いくつもの雷が光り、目にもとまらぬ速さで彼に迫る。


「ふぅん! ふぅん! ふぅん? ふぅん!」

「なんで一回疑問形挟んだの?」


 しかし、それはすべて力業で聖剣を振り回すことで無効化される。

 全部雷撃はアルバラードの身体に通っているのだが、全然効いていなかった。


 巨大な瓦礫のついた聖剣をブンブン振り回し、大暴れしている。


「ば、馬鹿な……」


 愕然とするキース。

 こんな相手が現れたことなんて、もちろん一度もなかった。


 雷撃を弾かれるなんて……。

 いや、それだけならまだ理解できる。


 試したことはないが、おそらく自分の上司もそれができてしまうだろう。

 だが、この男は弾いているように見えてもろに攻撃を受けている。


 それなのに、平然としているのだ。

 やせ我慢でないことは明白だ。


 それなら、慌てて勝負を決めに来ていたはずだからだ。

 それもなく、ただ恐怖をあおるかのように、ゆっくりと歩いてくる姿は……。


「ま、魔王……!?」

「貴様、善と正義の象徴であり具現化した存在である私に対して、よくもそんな下劣な言葉を吐けるものだな」

「いや、あながち間違っていなさそう」


 魔の頂点である存在を想起させる男。

 絶対的悪の象徴であり、この世に災厄を齎す最悪の存在、魔王。


 目の前の男が、それに類似して仕方なかった。

 それが、アルバラードであった。


 そう言われた本人は、非常に不服そうであったが。


「しかし、そうか。あれだけ威勢のいいことを言っておいて、強者であるかのようにふるまっておいて……」


 やれやれとアルバラードは首を横に振る。


「この程度か? 魔族というものは」

「…………ッ!!」


 カッとキースの頭に血が上る。

 それは、その言葉に嘲りが一切含まれていないというのが大きかった。


 だとしたら、つまらない挑発だと切り捨てることができただろう。

 しかし、アルバラードはこれ以上ないほどの憐憫の表情を浮かべていた。


 心の底から、キースを憐れんでいたのだ。

 馬鹿にされるよりも、みじめに思われる方がプライドは許さない。


「しょせんは悪人。正義の前では無力ということだ」


 そんなキースの心情を気にもせず、アルバラードはそう告げる。

 絶対的正義。


 彼の中の信念は、確固として存在し続けている。


「安心しろ。悪は私が滅ぼす。すぐにお前以外も殺してやる」

「凄い殺害予告……」


 隣の精霊が白い眼を向けてくることなんて、まったく意に介していない。

 本当に本心から言っているのがやばかった。


「――――――舐めるなああああああああ!!」


 キースの身体から魔力が吹き荒れる。

 アルバラードが本気で言っていることは、彼にも伝わってきていた。


 だから、なおさら負けるわけにはいかなくなった。


「人間風情が! 他の魔族には、手出しはさせねえ!」

「どっちが正義か分からなくなってきたんだけど……」


 大量殺戮を計画するラスボスを止めるために立ち向かう主人公。

 精霊の眼からは、そんな風に見えてしまっていた。


「無論、私だ」

「『無論』の要素はどこ……?」


 だが、やはりアルバラードは自分を信じていた。

 正義とは俺であり、俺とは正義である。


 本気でそう思っていた。


「おおおおおおおおおおおおおおお!!」


 すべての魔力を吐き出す。

 出し惜しみなんてしないし、できない。


 すべての魔力を、頭上にある雷の塊に注ぎ込む。

 すると、コントロールができなくなり、暴走気味になる。


 これこそが、キースの奥の手。

 大量の魔力を注ぎ込むことで、これまで以上の破壊力と速度、手数を生み出すことができる。


 問題は、制御ができないこと。それに尽きる。

 うまくいかなければ、自爆しかねない。


 だから、決して使うことのなかった奥の手だった。

 しかし、目の前の男を……魔族を大量殺戮すると宣言した男を止めるためには、これしかない。


「勝負だ、人間!!」

「ふっ……」

「……本当、どっちが悪役なんだろう」


 激突の前に、精霊が心底微妙な顔をしていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別作品書籍発売予定です!
書影はこちら
挿絵(By みてみん)
過去作のコミカライズです!
コミカライズ7巻まで発売中!
挿絵(By みてみん)
期間限定無料公開中です!
書影はこちら
挿絵(By みてみん)
挿絵(By みてみん)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ