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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~  作者: 溝上 良
第3章 2つの宗教編

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第68話 アン、ブラボー

 










「あー……こうなっちゃったかあ……」


 私は頭を抱えて空を見上げた。

 ……もし空を飛べたら、こいつから逃げることができるのかしら?


 できないだろうなあ、できないでしょうねえ。

 だって、空飛ぶ魔族も平気でぶっ殺していたし。


「な、何だテメエは! 俺たちがアリアス教だと知ってやってんのか!?」

「あ、アリアス教に逆らって、タダで済むと思ってんのか? テメエはもちろん、テメエの家族や大切な人まで、全員ズタズタに引き裂かれるぜ?」


 突然仲間をぶっ飛ばされたアリアス教の信者たちは、アルを見てそう怒鳴る。

 ……何というか、言っていることも風貌も完全にチンピラね。


 別に宗教とか関係なく、アルと出会っていたらぶっ飛ばされていたんじゃないかしら。


「大丈夫だ、問題ない」


 言われたら躊躇してしまいそうなほどの暴言を受けても、アルの表情は微塵も変わらない。

 メンタルお化けだから、そいつ。


 ……というか、こいつに家族とかいるのかしら?

 人間には当然親がいるものだけど、アルにそんなものがいたとは思えない。


 いきなり無から生まれたんじゃない、この特異点。


「その前に、貴様ら全員ぶちのめす」

「ですわー!」

「ぐぺっ!?」

「あ、いった」


 アルの言葉に呼応したアンタレスが、とりあえず近場にいたアリアス教信者をぶっ飛ばした。

 おかしいわね……。豪奢なお嬢様のように見えるアンタレスが、チンピラ同然の大男をぶっ飛ばしている光景は、目がバグるわ。


「な、何だテメエは!? も、もしかして、このシャノン教の信者か!?」

「マスターはそうですが、わたくしはまったく違いますわ。あまり好きではないので」


 堂々とアルの前で好きではないと言っているが、これにはアルは無反応である。

 好き嫌いを言うくらいはセーフで、侮辱は一発アウト死刑となるのか。


 アンタレスだから許している……ということはないでしょうね。

 こいつ、気に食わなかったら長年連れ添った恋人も平気で殺しそうだし。


「だ、だったら、どうして俺の仲間を……!」

「え、だって……」


 問われたアンタレスは、キョトンとしながら答えた。


「マスターの敵は、わたくしの敵ですわ。マスターが攻撃を仕掛けたということは、百パーセントあなたたちが何か悪いことをしたということですもの。だから、正義の使者たるわたくしも、当然そのお手伝いをするわけですわー!」

「ブラボー。アン、ブラボー」


 パチパチと拍手をするアル。

 何がブラボーだ、このバカ。


 というか、アンタレスの善悪の基準が、アルがすべてってやばくない?

 アルが黒と言ったら、アンタレスも平気で黒というだろう。


 そして、こいつが王族でさえ悪と言えば、王族殺しを実行するに違いない。

 ……この世代の勇者って、マジでロクな奴いないのね。


「ふ、ふざけんな! 意味わからねえことを言ってんじゃねえ!」

「意味わからないのは貴様らだ」

「ぎゃっ!?」


 騒いでいたアリアス教信者がアルにぶっ飛ばされた。

 あ、腕が曲がっちゃいけない方に……。


「さて、神敵を皆殺しにするか。そして、血と臓物をささげよう」

「やっぱり邪教よね、シャノン教って」


 血と臓物を求める神って、ロクな奴じゃないと思うの。

 これを言ったらアルが怖いから言わないけど。


「ひっ、ひいいいいいいいいいいっ!!」


 じりじりとにじり寄ってくるバカ二人に、恐怖の悲鳴を上げるアリアス教のチンピラたち。

 まあ、怖いわよね。ドラゴンににじり寄られるより怖い。


「マサドさん、こっちです!」

「あぁ?」


 チンピラに同情していると、逃げていた男が戻ってきた。

 どうしてわざわざ地獄に戻って……。


 まあ、逃げたところで追いかけられて捕まえられるんだけど。

 その男は、一人の大きな男――――マサドとやらを連れていた。


「今になってアリアス教に逆らう奴がいるって?」

「はい、そうなんです! あいつらです!」

「あー……」


 チンピラの言葉を聞いて、マサドは目を動かす。

 倒れ伏す複数のアリアス教信者。


 そして、数少ない生き残りの信者たちに、今にも襲い掛かろうとしているバカ二人。


「ぎゃっ!?」


 あ、今アンタレスが我慢できずに一人ぶっ飛ばした。


「やられてんじゃねえか」

「そ、そうなんです。俺たちの仲間が……あいつら、アリアス教に喧嘩売ってきているんです! このままだと終われませんよ!」

「ははっ、お前ら終わりだ! マサドさんが来たんだからなあ!」


 マサドとやらはどうにも信頼されているようで、今まで震える子犬のようになっていた信者たちが、ウキウキで煽ってくる。

 でも、実情を知っている私としては、かわいそうとしか思えない。


 だって、このバカ二人、それこそ魔王が相手でも嬉々として襲い掛かるような二人だし……。

 仮にマサドが魔王以上に強かったとしても、決してあきらめることなく殺しにかかるだろう。


 ぶっちゃけ、この二人に目をつけられた時点で、人生を謳歌することはできないのだ。


「お前らさあ……」


 ため息をつくマサド。

 それは、アルたちに向けられたもの……ではなく、自分を引き連れてきたアリアス教信者に向けられたものだった。


「他人の力で威張ってんじゃねえよ、だっせえな」

「ぎゃっ!?」


 殴り飛ばされるアリアス教信者。

 鼻から血を噴き出して地面に倒れるのを、冷たく見下ろすマサド。


 仲間割れである。

 躊躇なく仲間に暴力を振るう男を見て、私は……。


「うわ、こういうタイプの悪人か。……今までいっぱい見てきたわね」


 あるある、そういう悪人。

 悪だからこそ、何かそういう仲間割れとか好きよね。


 鉄拳制裁というか、暴力は思っている以上に簡単に行使される。

 まあ、相手をビビらせるには一番簡単な手段だものね。分かるわ。


 残念ながら、バカ二人はビビるどころか交戦意欲をにじませているけど。


「で、アリアス教に逆らったっていうのはマジか? だとしたら、殺さねえといけねえんだが」

「安心しろ。殺されるのは貴様らだ」


 うーん、この宣戦布告。

 私は案の定な展開になってしまったことを、激しく嘆くのであった。




過去作『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』のコミカライズ最新話が、期間限定でニコニコ漫画で公開されています。

下記の表紙から飛べるので、ぜひご覧ください!

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殺戮皇の悪しき統治 ~リョナグロ鬱ゲーの極悪中ボスさん、変なのを頭の中に飼う~


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― 新着の感想 ―
「さて、神敵を皆殺しにするか。そして、血と臓物をささげよう」 キター!待ち望んでたセリフー!キター! 教義が気になりすぎるな あと、囲まれてたシャノン教徒は、調理担当なのかな?
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