第67話 『シャノン教』とかいう雑魚宗教は捨てちまえよ
私はウッキウキになって、スキップまでしていた。
手には、先日アルたちがぶっ殺した賊たちの確認が取れてギルドからもらえた報奨金の入った袋が。
揺すってみれば、じゃらじゃらと重厚な音を鳴らしてくれる。
むふーっと鼻息を吐く。
やっぱり、お金って最高だわ!
後ろからついてくるバカ二人に声をかける。
「いやー、儲けたわね! あいつら、結構悪事を働いていたみたいだから、賞金もでかいでかい。最高ね! 死んでからも私の役に立てて、あいつらも地獄で誇らしいでしょう!」
「悪をこの世界から消すことができたのは何よりだな」
「ですわね!」
……アンタレスがですわねしか言わないようになっている気がするわ。
どんだけアルが好きなのよ。
こんなバイオレンス予想外男の、何がいいのやら……。
人間って分からないわねぇ……。
「それに、この街でも何も起こらなかったし。このまま穏やかな旅をしたいところだけれど、絶対無理だしね……」
上機嫌な理由はそれもあった。
報奨金を手に入れた今、この街に用はない。
宗教戦争とかいうやべーことをしている場所からは、一刻も早く離れたい。
せめて、ここだけでも綺麗に去りたい。
そう思っていると、アルが不思議そうに聞いてくる。
「どうしてだ?」
「自分の胸に聞いてみたら?」
お前らのせいだろうが、ふざけんなよマジで。
ギロリと睨みながら皮肉を言っていれば、二人そろって馬鹿正直に胸に手を当てて……。
「「…………?」」
「どうして二人とも分からないのよ!!」
キョトンと首をかしげるバカ二人に怒声を浴びせる。
なお、この二人はノーダメの模様。
メンタルお化けの狂人ってクソ強すぎない?
どうやって倒すの? 誰か倒してよ。
そんなことを考えていると……。
「うわっ!?」
ズドン! と大きな音がした。
しかも、それはかなり近場である。
野次馬というほどではないが、複数の人も出てきていた。
しかし、やはり活気がないためか、それとも巻き込まれないためか、隠れている人も多いようだ。
そして、その中心には複数の人影。
一人の女を、複数の男が囲んでいるところだった。
うわぁ、最悪。面倒事じゃないのよ……。
何もなく街を出られるという思惑は、あっさりと潰されてしまった。
当然のように、バカ二人が近づいて行っているし……。
私は心の底からしぶしぶ、彼らについていくのであった。
「何があった?」
「ああ、またアリアス教の強制棄教活動だよ。大きな声では言えないけど、もういい加減にしてほしいね」
「そうか」
野次馬の一人に聞けば、宗教戦争絡みのことだった。
これには、私もほっこり。
アルはどうにもこういったことにはできる限り口を出さない方針らしいし、うまくいけば戦闘とかを避けて街を出られるからだ。
「どうするの? まさか、首は突っ込まないでしょうね?」
「宗教同士だからな。正義と正義のぶつかり合いに、私が首を突っ込むことはない。が、このままでは一般市民に被害が及ぶだろう。警告はしてやるか」
「警告……」
念のために確認すれば、アルはそう返事をした。
警告……って、どのレベルの?
とりあえずぶちのめしてから止めとけって言う感じじゃないでしょうね?
のしのしと、ゆっくりと歩いていくアルの背中を見送る。
男の人ー! 気づいてー! 後ろを見てー!
あんたにとっての死神が近づいて行っているわよー!
「ほらほら、逃げんなよ! 棄教のついでに、ちょっと俺らと遊んでくれたらいいだけだって!」
「…………」
追い詰められている女は、かなり人相の悪い男たち複数に囲まれても、怯えた様子は見せなかった。
というか、折れる様子も見せない。
めっちゃ強い。
そんな相手が珍しく面白いのか、男たちはアルの接近に気づかずに嗜虐的に言葉を浴びせている。
あーあ。
「さっさとそんな小さな宗教を捨てて、勝ち馬に乗っておけよ! こういうのは、見極めが大事だぜ?」
「おい、貴様ら。潰し合うのは勝手だが、これ以上被害を広げるようであれば……」
アルにしては優しい言葉をかけようとした、その時であった。
「そんな、『シャノン教』とかいう雑魚宗教は捨てちまえよ!!」
「――――――」
空気が、凍った。
もちろん、誰かが凍結の魔法を使って物理的に温度を下げたとか、そんなわけではない。
アルの動きが、完全に止まっていた。
そして、あいつの身体から猛然とあふれ出てきた、暴力的なまでの殺意。
吹き荒れるそれは、直接向けられていない周りの人間たちの意識を容易く奪った。
それは、本能的な防衛機能だったのだろう。
このまま意識があれば、死んでからも怯えるほどの絶対的な恐怖を与えられると悟ったのだ。
つまり、本能は生きることよりも、楽に死ねることを選んだのだろう。
……なんだそれ。言っていて馬鹿馬鹿しくなるような状況なんだけど。
そして、残念ながらそれをぶつけられているであろう男たちは、ノーダメである。
それは、あいつらが強いとかメンタルが強靭だとかではなく、あまりにも強大すぎる殺意なので、気づくことができないのだ。
巨大な台風の中心にいる者は、それがどれほど驚異的なことなのかは知る由もない。
「あ……」
「おいおい、死んだわ、あいつ」
あの男たちの悲惨な結末は、アンタレスと私にしか分からなかっただろう。
「んあ? なんで影が……」
自分に影が差していることに、怪訝そうに顔を歪める男。
何が後ろに立っているのかと振り返り……そこには、すでに瓦礫付きの私を振り上げているアルがいた。
「ふぅん!!」
「ぎぇぴっ!?」
とんでもない音と共に振り下ろされるそれで、男は紙切れのように吹き飛ばされた。
というか余波ぁ! 周りのことを考えて攻撃しなさいよ!
あっけなく仲間を一人屠られたアリアス教の信者たちは、唖然としている。
一方で、助けられた女は、どこか平然としているように見えた。
そんな全員の熱い視線を集めたアルは、ゆっくりと聖剣を振り上げて肩に担ぐ。
「アン、そして聖剣よ」
ゆっくりと振り返るアル。
え、こわっ。こっち見ないでくれる?
そんな私の気持ちなんて届くわけもなく、アルは絶望の宣言をするのであった。
「アリアス教、潰すぞ」
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