第60話 引きずり出してやるわ……!
魔王軍とのどうたらこうたらがあってから、数日が過ぎた。
さすがに、いきなり全面戦争になることはなかった。
まあ、そうなったら本当にどっちかが滅びるまでやる可能性もあるし、そうでなくとも甚大な被害は出るだろう。
被害を受けた側の人類も、いきなり踏み込むことはできないようだった。
魔王軍は攻撃を仕掛けた側だから乗り気だったのだろうが、アルの活躍というか暴走で、主戦力の四天王二人と裏切りの勇者一人がボコボコにされるという緊急事態。
魔王軍側としても、このまま戦争に踏み切っていいものか悩みどころだったんでしょうね。
「……あれ? これって、マジでアルが間接的に人類救ったりしている?」
アルがボコボコに魔王軍四天王と勇者をしていなければ、もうすでに魔王軍の侵攻が始まっていても不思議ではないだろう。
……あんなエセ勇者が、世界を救ったと言うの?
認めない! そんなの、認められないわ!
だとしたら、いつまで経っても認めない私が聖剣なのかという存在意義の問題になってくる!
それはまずいわ! ただでさえ聖剣としての務めを果たさずに引きこもりをしていたのに!
さて、今私たちが何をしているのかというと、以前と同じような目的地のないぶらり旅である。
もちろん、その過程で悪人(アル認定)がぶっ殺されていくバイオレンス旅だが。
アルのことだから、むしろ先制攻撃とばかりに魔族領に侵攻しに行くのかと思ったけれど……。
「魔族だからと言ってむやみやたらに殺すことはしない。人にも善人と悪人がいるように、魔族にも善人と悪人がいるからな」
「ほへー。急に常識人みたいなことを言うのね」
……あれ? 前は魔族だからって無条件に悪認定して襲い掛からなかったっけ?
それで、レイフィアとかボコボコにされていなかったっけ?
ダブルスタンダード、発言の撤回はアルの特権。好き勝手やりたい放題である。
こうしていると、今までと同じような感じだと思われる。
いちいち気にしていたら本当に禿げそうになるから、もう気にしないけど。
こういうことが無視できないルルとかは、見ていたら面白いんだけどね。
ちなみに、彼女はもうここにはいない。
事件について調べに来ていたスピカと一緒に、王都に行った。
「にゃははははは! これで私は自由よ! 二度とストレスに苦しめられることはないんだわ! 自由気まま、猫の獣人らしく生きてくのよ!」
アルから離れるとき、そう言って満面の笑みを浮かべて去っていったルル。
……それ、フラグじゃない?
近々、アルと遭遇して絶望している様が簡単に想像できる。
間違いなく、その未来は待っている。
私は確信していたからこそ、かわいそうなものを見る目をして見送ってあげた。
それを見てにゃあにゃあ騒いでいたけど。
そんなわけで、しばらくアルに連れ回されていたルルがいなくなった。
では、今は私たちはどういう構成で旅をしているかというと、私とアル。
そして……。
「あら、わたくしを見てどうかされましたか?」
「……ううん」
アルと同じように、ドロドロに濁った眼を持つ女。
勇者の中で一番危険でやべー奴と評判の勇者、アンタレスであった。
満面の笑みを浮かべて私の顔を覗き込んでくるが、ぶっちゃけ怖い。
「何か気になることがありましたら、遠慮なく言ってくださってよろしいんですのよ? だって、わたくしたちは仲間なのですから!」
え、なにその素敵な言葉。
普通の人が言ったらほっこりする言葉なのに、アンタレスが言うと『隠し事するなやぶっ殺すぞ』に聞こえるのはどうしてだろう?
そのドロドロに濁った眼を止めろ。
そして、同類はニッコリと笑みを浮かべている。
「ふっ、その通りだ。さすがはアン。素晴らしい考え方だな」
「マスターのご指導のおかげですわ! こうして、わたくしも立派な人間になることができましたの」
立派な……人間……?
いや、確かに凄いのよ。
力も強いし、こんなぶっ飛んだことをやり抜けているのは、それだけの力があるということだし。
いくら聖剣が使えるからと言っても、ここまで強くなるには、相当な努力が必要だっただろうから。
でも、何だろう……。立派か……?
「……嘘でしょ? これ、私がツッコミ役するの? つらすぎるんだけど。ルルを連れ戻したいんだけど」
私の負担が半端ないじゃないの……。
それを今までルルに全部押し付けていたんだけど。
だって、私が楽なんだもの。押し付けるに決まっているじゃない。
「というか、何であなたがついてきているの……?」
私はアンタレスに問いかける。
これがいなかったら、まだアルだけで済んだのに……。
アルと一緒のレベルの狂人がついてくるとか、悪夢以外のなにものでもないわ。
「わたくしは、今までマスターに顔向けできるような人間になろうと、一生懸命悪人をぶっ殺してきましたわ。そして、こうして約束もせずに再会することができました。これは、まさしく運命!」
「ああ、うん……」
「二人で行動していれば、効率的に悪人を皆殺しにすることができますわ! だから、ご一緒させていただきますの」
運命とか言う奴にロクな奴はいない。
これ、私の長い聖剣人生の教訓ね。
効率的に人を殺すとか、悪魔のようなことを言っているアンタレス。
これ、今代の勇者です。よろしくお願いします。
「えー、そー? バラバラに行動していた方が、広範囲の悪人を殺せるんじゃないのぉ?」
「……それは確かにそうかもしれませんが」
しかし、私はあきらめない!
何とかアルと別々に行動してくれないかと、駄々をこねてみる。
それが意外と効果があったようで、アンタレスにしては珍しく口ごもる。
お? いけるか? いけるのか?
ウキウキで言葉を待つと、アンタレスは少し恥ずかしそうに頬を染め、そっぽを向いてぼそぼそと呟いた。
「できれば、ずっと離れ離れだったマスターと一緒に行動したいんですの……」
「…………」
私は愕然とした。
可愛いことを言うな、やべー奴!
脳がバグるじゃないの!
「ふっ、私の手が二つ増えたような感覚だ。よりクソみたいな悪人どもを精力的に殺すことができるな」
ご満悦といった様子のアル。
で、こいつはアンタレスの秋波をガンスルーと。
アルは人の心が分からない……。
「む?」
「あら?」
「え、なに? 何なの?」
すると、急に二人して立ち止まる。
キョロキョロと周りを見渡すものだから、何か怖い。
私には見えていない何かが見えているとか、そういうしょうもないホラーは止めてよ?
「いや、悪人の匂いがする」
クンクンと匂いを嗅ぎながら言うアル。
犬かな?
「ええ、こちらですわね。行きましょう、マスター!」
「うむ!」
アルと同じ技能をアンタレスも身に着けているらしく、意気揚々と二人して走り出す。
……え? なにその当たり前だよねみたいな感じ。
「……悪人の匂いって、結局何なの!?」
物理的な匂いじゃないわよね? 第六感? キモイ!
どうしてアンタレスも同じような感じなのかと戦慄していたけど、アルが教えたから分かるのね!
彼女に使われている聖剣も大変ね。笑ってやるわ。
「……私みたいに擬人化できるのに誰もしていなかった理由って、勇者の個性が強すぎるから表に出ていないとか?」
ふと思ったことを口に出す。
勇者会議に行きたくなかった理由は、既知の聖剣と会いたくなかったという理由も大きいけれど、結局誰も出てこなかった。
……あれ、自分の持ち主たちと関わりたくないからだったりする?
引きずり出してやるわ……!
そんなことを考えながら、爆速で走って行った二人に、私は強制的に引きずられるのであった。




