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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~  作者: 溝上 良
第2章 5人の勇者たち編

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第48話 それでも一発は殴るけど

 










「あ、愛……?」


 アランがこんなにも間抜けな表情をさらすのは、生まれて初めてかもしれない。

 まったく想定していなかった言葉がメリアの口から飛び出してきた。


 しかも、大っぴらに言うには羞恥を感じるような言葉を、平然と当たり前のように。

 凄い目で見てきているアランのことなど目に入らないメリアは、ウキウキと話し続ける。


「ええ、愛。この世の中で、最も尊くて素晴らしいものです!」


 目をグルグルと回して言う彼女の姿は、狂信者のようだった。

 この世界では、宗教というのはなかなか強い力を持っているので、アランもそういった者を見たことがある。


 だいたい、今のメリアは彼らと同じ感じだった。


「愛があるからこそ、世界はこうして発展してきました。人は愛し合うことによって生まれ、愛を与えることで成長を促し、そして愛を与える側になる。この世界のすべての中心には、愛があるのです!」

「え、ああ……ううん……」


 メリアの言った言葉を咀嚼し飲み込んで、アランは結論を出す。


「なに、お前? キモイんだけど……」

「……あなたは分かってくれないと思っていました。どうにも自分勝手ですから。しかし、あなたも女性を多く囲っているから、一縷の望みをかけていたのですが」

「いや、俺は愛がほしいとかそんなので囲っているわけじゃないし……」


 もっと短絡的な欲望のためにしていることを、愛だの恋だの聞き触りのいい言葉に変えられるのは困ってしまう。

 メリアって、こんなタイプなんだ……。


 今まで性格が一切合わないからとほとんど交流していなかったが、それが正解だったと改めて認識させられる。

 こんな貧乏くじを引くのは、ルルのはずなのに……。


 脳裏でイメージ上のルルがブチ切れているが、それをかき消してメリアを見る。


「あー……まさか、勇者がハニトラに引っかかるとはなあ。まあ、俺みたいにちゃんと人生を楽しんでいないと、そうなるのか」


 がっつりハニトラである。

 ターゲットが女の場合は違う言い方をするかもしれないが、いちいちそんなことを考えたくもないアランであった。


 前線の街で爆弾なんて仕掛けているとなると、相手は魔族……魔王軍だろう。

 勇者の一人がハニトラでやられるなんて、人類の偉いさんたちにはどう説明すればいいのか。


 まあ、そこらへんはルルの仕事だ、と押し付ける。

 そこまで面倒を見てやるつもりはない。


 むしろ、聖剣だけでも取り返してやろうとしている今の自分は、とても勇者をしている。


「ハニトラなんかではありません! 私は……私たちは、真実の愛を……!」

「ああ、もういいから。とりあえず、殺すのは勘弁してやるよ。聖剣の適合者って、珍しいしな。まあ、ボコボコにして牢獄にぶち込んでやるから、覚悟しろ」


 怒りを爆発させるメリアに対し、アランはこれ以上話すことはないと断言する。

 さっさと終わらせよう。やばい奴と話すのは、しんどいのだ。


 だから、アンタレスとは距離を置いているというのに……。

 それを受けて、メリアは殺意に満ちた目をアランに向けた。


「愛を知らないあなた程度に、私が負けるはずがありません。邪魔をする者は、殺します」









 ◆



 建物を破壊しながら繰り広げられるアランとメリアの戦闘は、苛烈で壮絶なものだった。

 お互いが勇者として聖剣を振るう。


 その力はまさに絶大なもので、彼らはそれらを行使することに微塵も躊躇を見せなかった。

 聖剣の能力を使わずに相手を打ち負かすことができると考えるほど、彼らの頭はお花畑ではなかったからだ。


 幸いなのは、アルバラードが引き起こした騒音でほとんどの住人が姿を消していたことだろう。

 これがなければ、二人の勇者の戦闘の余波だけで、数百の犠牲者が出ていたに違いない。


「ちっ! ちょこまかと動き回られると、なかなかしんどいな……」


 激しく剣戟が繰り広げられている、というわけではない。

 ほとんど聖剣同士がぶつかり合うことはない。


 いや、アランがメリアの攻撃を防ぐときのみ、そういった事象が発生していた。

 事実、彼の方から攻撃を仕掛けることはあっても、メリアを捉えられそうになることは一切なかった。


「マジで鬱陶しいな! 正々堂々戦えや!」

「正々堂々なんて言葉、あなたが一番似合わない言葉ですよ」


 思わず苦笑いを見せるメリア。

 そんな彼女の隙だと、猛然と襲い掛かるアラン。


 卑怯? 知らんがな。

 その速度は目を見張るべきもので、多くの者は何もできずに切り捨てられるだろう。


 しかし、メリアは慌てることなく虚空に剣を振るう。

 すると、まるで柔らかいものを斬ったかのように亀裂が入り、メリアはそこに飛び込む。


 そうすれば、最初からそこには誰もいなかったようになってしまう。


「ぐぉっ!?」


 死角から襲い来る聖剣を、何とか防ぐアラン。

 先程から、これの繰り返しであった。


「いって……」


 致命的な一撃を防ぐことはできても、薄皮が切れるような軽傷は防ぎきることはできなかった。

 ダメージが蓄積していっているのは、アランのほうだった。


「本当厄介だな、お前の聖剣の力」

「努力と鍛錬を積まなければ、割と使いづらい能力ではあるんですよ?」


 苦笑いしながら、メリアは言う。

 彼女の聖剣の力は、空間を切り裂き、その中に入り込むことができる。


 亜空間を作り出し、その中にいれば、当然ながら攻撃を受けることはない。

 まさしく、次元が違う場所にいるのだから。


 無論、上手く扱うことができなければ、その空間の中に閉じ込められて二度と戻ってこられない、危険な力でもある。

 過去、聖剣の担い手の中には、そのように行方不明になってしまい、聖剣だけが戻ってきたものが何人もいるのだから。


「あなたの聖剣の能力も凄いじゃないですか。じり貧ですけど」

「言ってくれるじゃねえか……。逃げるしか能のないガキがよぉ」


 苛立ちを露わにしながらも笑うアラン。

 彼の身体には、無数の傷がついていた。


 そう、『ついていた』、だ。

 その傷はありえないほど高速に治癒していった。


 みるみるうちに回復し、そこには最初から傷があったとは思えないほどだった。

 これが、アランの聖剣の力、超回復。


 この程度の軽傷ならば、十秒も経たないうちに回復してしまう。

 つまり、彼にとっては致命傷以外……いや、致命傷でさえも、動きを阻害させるには至らないのである。


「ただ、お前の言っていることもあながち間違いじゃねえ。持久戦だな。で、こうなると有利になるのは俺なんだよ。分かるか? 馬鹿」

「…………」


 ニヤニヤと笑うアラン。

 一方で、苦い顔のメリア。


 彼の言っていることは、その通りだった。

 アランの聖剣の力は、傷という物理的なものを回復させるだけではない。


 体力といった、本来なら魔法でもどうにもできないものでさえも、回復してみせる。

 だからこそ、魔王軍から恐れられる勇者の一人なのだが。


「お前にとって、ここはもう敵の本拠地だ。お前以外の勇者も勢ぞろいしているタイミングでなあ。ロイスは分からねえが、ルルは状況に気づいたら駆けつけるだろうし、その前に絶対正義野郎のアンタレスが来る。複数の勇者とやり合って勝つつもりかあ?」


 何も、アランは自分の力だけでこの女を倒さなければならないわけではない。

 勇者と勇者のぶつかり合い。


 それは、遠くにいる彼女らにも当然伝わるほどの衝撃がある。

 異変を感じて駆け寄ってきた彼女らの助力があれば、メリアもどうすることもできないだろう。


 ……日ごろの行いで自分に攻撃が来そうなのは無視することにした。

 さすがに、彼女らはそこまでバカではないだろう。


 ……多分……きっと……。


「……そこまで私は思いあがっていませんよ」

「お、どうする? 大人しく捕まってくれると助かるんだが。まあ、それでも一発は殴るけど」

「女を平然と殴ると言えるのが、あなたらしいですね……」


 男女平等主義者である。

 こんなクソ面倒くさいことに巻き込みやがったメリアには、相応の報いを受けさせなければ、気が済まなかった。


 彼女が諦めたのかと思ったアランは、上機嫌になる。

 しかし、メリアはそれを失笑した。


「いいんですよ。特記戦力の勇者を散らばらせることができたので、それで充分です。私にとっては、今回はこれくらいでいいんです。きっかけが大切なので」

「はあ? お前、何を言って――――――」


 アランの言葉を遮るように、大きな爆発音が響き渡る。

 同時に、街中から複数の黒煙が立ち上り始めるのであった。




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殺戮皇の悪しき統治 ~リョナグロ鬱ゲーの極悪中ボスさん、変なのを頭の中に飼う~


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― 新着の感想 ―
まさかルルポジになるのが嫌で避けてたのか。でも、もう、アランもルルと同じポジに就職だ
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