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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~  作者: 溝上 良
第2章 5人の勇者たち編

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第43話 ご安心くださいませ!

 










 アルバラード。

 魔王軍の中では知る人ぞ知る悍ましい名。


 知る者が限られている理由は、だいたい遭遇した魔族が抹殺されているからである。

 そのため、なかなか噂が広がりにくい。


 また、顔を見た者も大体死ぬため、どういった風貌の男であるかも知られていない。


「アルバラードって、あのアルバラードですか!? あんな化物、実際にいるなんておかしいです! 世界がバグっています! 修正しろクソ運営!!」


 訳の分からないことを言うほどにブチ切れているレイフィア。

 無表情であるがとても美しく整った美女が、その影もない。


 怒りを爆発させているし、風貌はボロボロである。

 あの攻撃、別に技とかは何もなかった。


 ただ、その気になって聖剣を振り下ろしただけである。

 それだけで、このダメージ。


 ルードリックが半死半生の状態で逃げ帰るのがやっとであった理由がよく分かった。

 あんな化物が人類側にいて、そしてこの街にもいるなんて知る由もなかった。


 まあ、人類側ではあるのだが、頻繁に人間も殺しているので、人間魔族どちらにとってもやばい奴には変わりないのだが。


「と、とにかく、さっさと逃げましょう。仕込みは終わっていますし、後は部下を突っ込ませるだけでいいですね。あいつらが死ぬのは知らん」


 ブツブツと呟きながら、大切な部下の命を燃やすことに決めるレイフィア。

 大丈夫大丈夫。誰か生き残れるはず。知らんけど。


 魔王軍四天王を二人も戦意喪失させるレベルの化物に突っ込ませるつもり満々の女。

 自分だけは逃げ切れると、何やら勘違いをしているようで、この世界はそんなに甘くはなかった。


「――――――あら? あらあらあらあらあら?」


 ガリガリガリと、耳を塞ぎたくなるような金属音。

 鋭いレイピアの切っ先で、地面の石畳を削っている音である。


 武器が痛んで使い物にならなくなるような扱いだが、彼女の持っている武器は聖剣。

 生半可な武器ではないので、無問題である。


 そのドロリとした甘い声を聴いて、レイフィアはビクッと肩を震わせた。


「ひぃっ……」


 恐る恐る振り返れば、光を宿さず悍ましく濁り切った目を向けてくる女勇者、アンタレスの姿があった。


「こんなところにゴミが落ちていますわ。まったく、ゴミ掃除はしっかりしておかないと、街が汚れるというのに。ダメですわね、この街は」


 やれやれと首を横に振るアンタレス。


「代わりに、わたくしがお掃除をして差し上げましょう」


 殺意の暴風が吹き荒れる。

 魔王軍四天王として、いくつもの修羅場を潜り抜けてきたレイフィア。


 しかし、これ以上のものがあっただろうかと、大量の汗を流しながら思う。

 ……いや、ないわ。こんなのあったら、とっくに死んでるわ。


「待ってください」


 とりあえず、話をして時間稼ぎをすることにした。

 逃げる隙などが見つかるかもしれない。


 しかし、アンタレスは無情にも首を横に振る。


「聞く価値ありませんわ。死んでから話しかけてくださいまし」

「いや、だとしたら話せないから! いいから聞いてください! この街の住人にも関わることですよ!」


 その言葉を聞いて、ピタリと動きを止めるアンタレス。

 やはり、勇者。無辜の民が傷つくと聞けば、話をせざるを得ない。


 ならば、そこをついて、自分が生き残れるように持っていく……!


「いいですか? 私は強いです。そして、あなたも強い。私たちが戦えば、どのような決着になるにせよ、戦いの余波は非常に大きなものとなります」

「決着は分かり切っていますわ。あなたの死です」

「そ、そこまで断言するのはもう分かりましたけど。ですが、これは嘘でも何でもないですよ。街の大部分は破壊され、多くの人々が命を落とすでしょう。勇者であるあなたが、それを許容できますか?」


 四天王として絶対に勝てない、お前は死ぬと言われるのはプライドが傷つくものがあったが、あながち間違いでもなさそうなので否定はしない。

 ともかく、精神面の攻撃である。


 これで攻撃をためらってくれれば、言うことはない。

 その隙に倒してやろうとかは思わない。


 とにかく、逃げである。逃げの一手を……。


「できますわ」

「そう、できません。それが、勇者を勇者たらしめ――――――えぇっ!?」


 即答である。

 即答で、周りの人間を犠牲にしてでも戦うという宣言。


 なんだこいつ……。


「で、できるんですか!? 何も悪くない、罪のない人が戦いに巻き込まれて命を落とすかもしれないのに!?」

「できますわ」

「悩みもしない!!」


 レイフィアですら罪悪感をほんの少し覚えるというのに、目の前のアンタレスはそれが微塵もなさそうだ。

 ニコニコと穏やかな笑顔を浮かべたままである。


 それがなおさら不気味であった。


「確かに、あなたのせいで多くの人が命を落とすことになるかもしれません。それは、とても悲しいことですわ」

「あれ、私だけのせいにされようとしています?」


 戦いって二人でやるものですよね? あなたが見逃すと言えばそれで済む話ですよね?

 そう言いたいが、それよりも先にアンタレスが言葉を紡ぐ。


「ですが、それを踏まえても、あなたをここで殺すことの方が、将来の多くの人を助けることになりますわ! 命を天秤にかけた結果、これが得策だと思いますの!」

「勇者が命を天秤にかけるとか言わない方がいいと思うんです」


 命の価値を語りだすのはマズイ。

 しかも、重さ軽さを言い出したら、勇者とは言えないだろう。


 そんなレイフィアの懸念を吹き飛ばすように、アンタレスはレイピアをブンッと振るう。


「あなたに殺される人々の代わりに、あなたを必ず殺しますわ! ご安心くださいませ!」

「安心できませんが!?」


 猛然と襲い掛かってくるアンタレスを相手に、レイフィアはついにがっつり泣いてしまうのであった。




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殺戮皇の悪しき統治 ~リョナグロ鬱ゲーの極悪中ボスさん、変なのを頭の中に飼う~


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― 新着の感想 ―
本物の勇者にもきっちりヤバい人いるのか…
特別な勇者(褒めてない)は剣を引きずる癖でもあるのかな(笑) そしてゴミ掃除に熱心過ぎる所もそっくり。
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