第38話 勇者たち
ニコニコと微笑む女。
銀色でウェーブのかかった豊かな髪が特徴的な美人だ。
……おかしいわね。勇者って鉄火場が多いから、基本的に鍛えられた男ばかりだと思っていたのだけれど。
ルルもこの子も女だわ。時代は変わったのね。
「あー、メリア。久しぶりね」
ルルは頬を引きつらせた笑顔を見せていた。
あまり仲良くない相手とばったり会ってしまったかのよう。
……いや、そのままね。
何だか他人がちょっと嫌そうにしていると幸せになれるのはどうしてなのかしら……。
「ええ、本当に。私が出した手紙、ちゃんと読んでくれています? 全然お返事がなくて寂しいです……」
「あ、あー、もちろんちゃんと読んでるにゃ。うん、本当本当。ほら、勇者の仕事で色々な場所に行くことが多いから、なかなか時間が取れなくてね。ごめんにゃさい」
嘘じゃん。
ろくにルルと交流のない私でも分かるような、取って付けたような嘘。
そもそも、この子って勇者の仕事をそんな熱心にやっているような性格でもないだろうし。
しかし、やはり聖剣に選ばれるほどの勇者であるメリア。
疑いもせずに、すぐに納得していた。
「まあ、そういうことだったんですね! 多くの人を助けるために行動できるルルさんは素晴らしいと思います! 是非、これからも世界がよりよくなるように頑張りましょう! 何なら、一緒に行動しますか? 私たちなら、上手くできると思うんです!」
「い、いや、それはいいかにゃ……。別れて行動していた方が、色々な人を助けられるでしょうし……」
「残念です……。でも、ルルさんの言う通りですね! これからも一緒に頑張りましょう! えい、えい、おー!」
「お、おー……」
よろよろと拳を突き上げるルル。
うわー。メリアとのテンションの差が凄い……。
というか、メリアがキラキラと輝きすぎていて怖い。
ぜ、善人は好きだけど、このレベルのキラキラは無理……。溶ける……。
「めちゃくちゃ勇者らしい子ね」
「そうなのよ……。この子と合わないのは、この強烈すぎる善性で……。私が汚れた女だって突きつけられているようで、一緒にいるとただただつらいにゃ……」
別にルルが悪人というわけではなく、むしろ善人である。
それでも、勝手に後ろめたさを覚えてしまうほど、メリアが完璧なのだろう。
まあ、ルルは不遇の星に生まれているというか、自分は好き勝手生きたいのに外的要因のせいでまったくそれがうまくいかない感じがする。
その不憫な感じが面白くて好きよ。おもちゃみたいで。
「でも、ちゃんとルルさんが来られてよかったです。もう皆さん、首を長くして待っていますよ」
「え!? もしかして、私が最後!?」
「はい」
「うわぁ、最悪にゃあ……。絶対嫌味とか言われるにゃあ……」
「大丈夫ですよ! 別に遅れたわけじゃないんですから。いじめてくる人がいたら、私が守ります!」
ルル以外の勇者が全員集まっているらしい。
他の聖剣とは会いたくないのだが、今代の勇者がどんな感じなのかは興味がある。
私が知っているのは、本当にずっと昔だから、あれから全部何代も代替わりしているし。
「ところで……そちらの男性は?」
「えーと、こいつは……」
メリアに視線を向けられるアル。
単独行動を好むルルが、誰かを連れてきたというのが疑問なのだろう。
それも、今回は重要(?)な勇者会議の場なのだから。
なんと説明すればいいのかと悩むルル。
ストーカーが引っ付いてきたとか言えばいいんじゃない?
そんなことを考えていると、ルルが答える前にアルが答えてしまった。
「パートナーだ」
「なんでその言葉を選んだ! 言え!」
アルの首を絞めにかかるルル。
いけ! そこだ! やれ! やってしまえ!
「わぁ! ルルさんのこれですね!」
「違う! というか、その指のジェスチャーの意味も違う! 止めろ!」
ニコニコ純真な笑顔でとんでもない指の絡め方をして見せるメリア。
ルルは顔を真っ青にしている中、私も空を見上げた。
「はあ……私も憂鬱だわ……」
他の聖剣と会いたくないわぁ……。
◆
豪奢な装いの広い会議場。
円卓に座っているのは、今代の勇者たち。
それぞれが聖剣を保有し、その強大な力を振るうことができる、まさに絶対強者。
勇者会議という場を設けられているのは、勇者たちに相互監視をさせる意味合いもある。
なにせ、一人でもおかしなことを考えれば、世界に甚大な被害がもたらされることになるからだ。
勇者を止められるのは勇者だけ。それは、この世界では当たり前の常識であった。
「(だから、これが好きじゃないのよね……)」
ルルはげんなりとする。
そもそも、誰かに何かを強制されること自体が好きではないのに、この会議の目的が『お前たちのことなんか微塵も信頼できないから、自分たちでしっかりとお互いを管理しろ』というものなのだから、好きになれるはずもない。
加えて、ここに集まる勇者たちが、誰一人として仲良くなることができないというのが大きい。
嫌々行かされる会議に待っているのは、全員気の合わない連中。
誰が好きになれるというのか。
「随分な重役出勤だなあ、ルルぅ。うらやましいねぇ。俺ももっとゆっくり来たらよかったよ」
ニヤニヤと笑ってチクチクとルルを刺してくる男。
この場では、まさに黒一点。
唯一の男である。
ワイルドな雰囲気を醸し出す端整に整った顔立ちの男。
両脇にどこからか連れてきた美女を侍らせて、ご満悦の様子。
「……だから、わざわざ謝ってあげたでしょうが、アラン」
名を、アラン。
今代の勇者の一人である。
性格が合わないルルは、勇者の中では二番目に会いたくない男である。
「謝って済んだら、勇者なんていらねえだろ?」
「というか、その部外者を大量に連れ込むの止めるにゃ。鬱陶しい」
「お? 嫉妬か? 悪いな、お前は趣味じゃねえ」
「殺されてえのか、クソ雄」
ドスの利いた声。
自分でもこんなに低くおどろおどろしい声が出るのかと驚いたくらいだ。
とりあえず、目の前の勇者を騙るクソを殺さなきゃ……。
聖剣を取り出して一気に仕掛けようとするが、冷や汗を垂らすアランが止める。
「止めてくれ。俺は自分が絶対に勝てない戦いはやりたくねえんだ」
「全然格好よくないことを言っているのに、なんでどや顔なの……?」
アランの近くにいた取り巻きたちは、泡を吹いて気絶していた。
それはそれで面白かったのでヨシ!
溜飲を下げることに成功した。
そして、ルルは一切話さず椅子に座っている彼女に声をかける。
「あー……ロイスもごめんね」
「気にしないでください。此方にとって、何ら問題ありません」
「う、うん……」
今代の勇者の一人、ロイス。
顔は薄い垂れ布で隠されているため、見ることはできない。
というか、同じく勇者となってから一度も素顔を見たことがない。怖い。
肌は褐色なので南方の出身ではないかと思われる。
ただ、身体にぴっちりと密着した服のせいで、豊満な肢体が浮かび上がっているのが厭らしい。
ルルも決して貧しいわけではないが、顔を隠していることや褐色肌ということもあってか、色気が凄まじい。許せん。
彼女は、ほとんど感情を見せない無機質な言動をするため、ルルはちょっと苦手だった。
アランよりははるかにマシだが。
ルル、メリア、アラン、ロイス。
今代の勇者である五人のうち、四人がこの場に集っていた。
ルルが最後にやってきたとメリアが言っていたため、もう一人も到着しているのだろう。
彼女にとって、アラン以上に、一番勇者の中で反りが合わない女が。
「で、あの子は?」
「来ているんですけど、ちょっと席を外しているみたいで……」
「いいえ、もう戻ってきましたわよ」
メリアの言葉を遮るようにして現れる女。
ニコニコと柔らかい笑みを浮かべながら、優雅に歩いてくる姿は、まるで高貴な令嬢のよう。
ただ、ルルが最も恐れているのは、彼女の光を浮かばせないドロリと濁った目であった。
「アンタレス……」
今代の勇者の一人、アンタレスが現れた。
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