第37話 滅ぼすぞ、ヒューマン!
ズン、と重たい音が響く。
それは、アルが瓦礫付きの私を地面に叩きつけた音だった。
……瓦礫付きの私って何よ。頭おかしいんじゃないの?
でも、現実としてそうなっているんだから仕方ないわよね。キツイ。
「ふう、ひと段落だな」
「……う、うん」
アルがやり遂げたように言うと、ルルは目をそらす。
素直に頷きたくない気持ちは、重々わかる。
なにせ……死体がいくつも散らばっている状況で、一仕事した感じを出すことなんて、普通勇者はしないだろうから。
「……あのさ。前から思っていたけど、捕まえて国に突き出すようなことはしないの? いくら相手が悪人でも、殺人は殺人になると思うんだけど」
「何を言っている? 悪人を殺すのは正義だ。つまり、無罪。私は完全無欠なのだ」
「お前が何を言っているにゃ?」
ルルは私を見る。何見てんねん。
だから、私を見るなあ! 私は知らん!
「それに、勇者は一定の殺人が認められているだろう。マーダーライセンスが」
へー、そうなんだ。
勇者は人を殺しても罪に問われないということか。
まあ、勇者なんて言うくらいだしね。
聖剣を扱うことができる時点で、基本的には善人だろうし。
じゃないと、聖剣が使用者として認めないから。
……私は認めていないから。
「いや、まあそうなんだけどね……。あんた、勇者じゃにゃいし……」
「…………?」
「私が訳の分からないことを言っているみたいな目を止めてくれる!? おかしいわ!」
聖剣を扱うことができれば勇者。
それが、勇者の定義である。
となると、アルはそうではない。
だって、私は認めていないのだから。
無理やり地面事引っこ抜いている。
「というか、いくら何でもこんな頻繁に人殺ししていたら、勇者でも怒られるわよ!」
マーダーライセンスがあったとしても、そんな気軽に行使できる権利ではないのは、ルルの反応を見ていたら分かる。
なお、アルは鼻をかむ鼻紙を捨てるくらいの頻度で行使する模様。
今も転がっているしね、被害者。
これを受けて、アルは驚愕する。
「なん、だと……? 悪人に情を向ける愚か者がいるのか……? 殺さなきゃ……」
「とりあえず殺して解決みたいな考え止めなさいよ!!」
殺さないと死ぬ病気でもかかっているのかしら、アルは。
しかし、今まで強制的に連れてこられてからというものの、二人で行動してきた。
当然、アルの非常識な言動に振り回されるのも私だけだったけど、こうして一人の道連れができた。
ああ、今までと全然違う……。
「あー。私以外にツッコミ役がいると楽だわぁ……」
「あんたの産んだ化け物でしょ! ちゃんと世話しなさい!」
「違うわ! 勝手なことを言うな、人間!!」
滅ぼすぞ、ヒューマン!
◆
夜を明かすため、焚火を囲む私たち。
もちろん、アルがぶっ殺しまくった場所からは離れている。
血と臓物の匂いを嗅ぎながらのんびり過ごすことは、アル以外できないのだ。
すでに、食事も終えてお腹も満たされている。
聖剣なのにご飯を食べるの? なんてゴミみたいな質問をしてくる奴はアルが殺すわ。
生命維持に必要ないけれど、娯楽としては食事は楽しいのよ。
そんなことを考えながら、私はふと気になっていたことをルルに尋ねた。
「勇者は、他にどんな人がいるの?」
「他の勇者ねぇ……。言っておくけど、顔も名前も表面的な性格も知っているけど、詳しくは知らないわよ?」
「そうなの? 同じ勇者という立場で、この世界で五人しかいないのに?」
私は少々驚いていた。
五人しかいなくて、しかも自分と同じ境遇の存在である。
必然的に距離も近くなるものだとばかり思っていた。
同じ環境と、同じ目的。聖剣に選ばれるからには、どいつもこいつも『良い奴』であることには変わりない。
似たような人が集まれば、基本的には仲良くなりそうなものだけれど……。
ちなみに、聖剣の私たちは割と仲悪かったりするけどね。
人間と違うからセーフ。
「なんかもう一人急に現れたけどね……」
アルをげんなりとした表情で見るルル。
まあ、定義としては、聖剣の持ち主が勇者となるので、性格とか人相とかは関係ないから……。
無論、アルは勇者ではない。私が認めていないからである。
「だけど、実際そうなのよ。だって……」
ルルはそう言って、遠い目をする。
「――――――基本的に、誰とも性格が合わないにゃ」
「えぇ……?」
何言ってんの、この子……。
勇者なんて、同じような性格の者ばかりでしょう。
聖剣にも色々と性格はあるけれど、結局根っこは善人を選ぶのだから。
性格が似ていたら、大体仲良くなりそうなものだけれど……。
同族嫌悪というものがあるけど、それなのかしらね。
「なんだか知らないけど、私以外の勇者って全員我が強い変人の集まりなのよ。一般的で常識人の私には、理解できない世界にゃ」
全然同族嫌悪とかじゃなかった。単純に仲が悪いだけだった。
……自分のことを常識人と思っている奴ほど、意外と頭おかしかったりするのよね。
まあ、ルルには苦労人の星が見えているから、一般人タイプだろう。
ざまあ。
「まあ、あんたが無理やりにでも勇者会議に参加するんだったら、嫌でも顔を合わせることになるわ。私から聞くよりも、直接会って自分の目で確かめたらいいのよ。私が紹介すると、どうしても悪口ばかりになっちゃうから」
「……何というか、猫の獣人とかいう自由気ままで周りを振り回すような感じかと思っていたけれど……」
私はルルを見て、にっこりと笑った。
「あなた、苦労人ね?」
「…………ッ!?」
直後、飛び掛かってくるルル。
や、止めろぉ! 私は武器としての性能は世界一でも、身体の強さはそれほどでもないのよ!
そんな夜を過ごして、私たちはついに、今代の勇者が一堂に会する場にたどり着くのであった。
「ああ、ルルさん。お久しぶりです」
そこで、一人の柔らかい笑みを浮かべる女が、近づいてきた。
強い力の気配を感じ取った私は、ああと納得した。
この子が、今代の勇者の一人なのだと。
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