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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~  作者: 溝上 良
第2章 5人の勇者たち編

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第34話 うげぇ……

 










「(速いッ!)」


 女の動きを見てルドーが思ったのは、まずそんな感想だった。

 目にもとまらぬ速さ、というほどではない。


 特別大柄というわけではないが、人体という重たく大きなものが動くと、どれほど鍛えていても視認することはできるだろう。

 しかし、対応することが難しいほどの速さ。


 身軽なその動きは、暗殺者としては理想的なものだった。

 まあ、相手は勇者を自称しているのだから、そんなものとは違うはずだが。


「ふっ……!」


 懐に入り込んできた女は、ピッと見事に剣を振るう。

 剣閃がいくつも光る。


 その速度は、彼女が移動するものよりも当然速い。

 つまり、ルドーの目でも追いきることができない、見事なものだった。


「あら?」


 女は怪訝そうに首をかしげる。

 確実に捉えたはずなのに、手に人体を切り裂く感触が伝わってこない。


 ルドーの煙化。

 身体を気化させることで、物理攻撃を一切受け付けなくする強力な能力。


 これによって、たとえ見なくとも攻撃を受けることはなかった。


「人殺しに躊躇がなさすぎるだろ! 勇者というより、こっち側だろ!」


 斬られた場所は首、そして心臓。

 確実に人を殺しにかかっている恐ろしい太刀筋に、ルドーは冷や汗を流しながら距離を取る。


 ついでとばかりに、追撃を逃れるために投げナイフを投擲する。

 見事な投擲術で複数のそれはすべて女の身体を捉えていたが、当然とばかりに切り捨てられる。


「ふむ……珍しい力ですわね。わたくしも見たことがありませんわ。うーん、困りましたわ。わたくしの力だと、あなたを殺すのが難しく思えますわね」

「じゃあ、ここは痛み分けというところで手を打たないか?」

「笑止ですわ。殺すべき存在が目の前にいるのに、殺さないで見逃すなんてありえませんもの。勇者として、ここであなたを殺しますわ」

「勇者って皆こんな感じなの……?」


 愕然とするルドー。

 勇者なんて光の世界で輝くような人物と今まで触れ合ったことがなかったが、今日だけで三人。


 少なくとも、その内二人はやばい。

 ちなみに、この間もスパスパ身体を切り裂かれている。


 一切ダメージがないとはいえ、やはり気分がいいものではない。

 某自称勇者も同じようなことをして聖剣……聖剣? を振るってきていた。


 ふふ……何だこいつら、こわっ……。


「もう付き合っていられるか! 私は帰らせてもらおう!」


 というか、そろそろ本気で腕の怪我がやばい。

 血も流れているし、顔は真っ青だ。


 ルドーはそう言って逃げようとして……。


「あ、待ってくださいまし」

「……ッ!?」


 離れた場所から一気に距離を詰めてきた女に、唖然とする。


「(は、速すぎるっ! 先ほどまでとは、比べものに……!)」


 確かに、女の身のこなしは素晴らしいものだった。

 身軽に行動できる暗殺者の自分よりも、素早かった。


 だが、しっかりと目で追うことはできていた。

 なのに、今は一度も彼女から目を離していなかったにもかかわらず、その姿を捉えることができなかった。


 身体がぶれたと思えば、すでに自分の目の前に。

 今まで本気を出して動いていなかった?


「(いや、それは違う!)」


 本気でないとかのレベルではなかった。

 何か、特別な力が働いていた。


 だが、今はその疑問を考えることなんてできない。

 端整に整った美しい女に迫られれば男として嬉しく思っても不思議ではないのだが、今はただひたすらに恐怖である。


「(だが、無意味だ!)」


 ルドーには、身体を煙にする能力がある。

 そして、これは当然に発動している。


 今、たとえ致命的な隙をさらしていたとしても、自分にダメージを与えることは決してできない。


「がぁっ!?」


 だが、そのルドーの目論見は否定される。

 激痛が彼を襲った。


 もともと痛みを感じていた、奪われた腕である。

 その傷口に、女の手が被せられていた。


 配慮もなくギュッと握っているため、恐ろしいほどの痛みが襲ってくる。


「なるほどなるほど」


 他人に強烈な痛みを与えているにもかかわらず、女はにこやかに笑っていた。

 やっぱり頭おかしい。


 ルドーは脂汗を浮かび上がらせながら思った。


「まったく攻撃が効かないということはないのでしょう。わたくしの前に、あなたにけがを負わせているようですから。万全の状態のあなたにどうやって傷を負わせたのかは分かりませんが。興味ありますわ!」


 そんなのどうでもいいからさっさと手を離せブス!

 しかし、口を開けば悲鳴しか出てこない気がしたので、ルドーはグッと歯を噛む。


「先ほどから見ていたら、怪我をしている場所は煙にできないのでしょうか? ここにわたくしの剣が近づいたら、受けようとせず逃げていましたものね」


 いだだだだだだだ! マジで痛い!

 泣き叫びそうになるのを必死に抑えるルドー。


 こんなことになったのも、全部アルバラードのせいだ。死ね、クソ!


「そして、一部でも煙にできなければ、わたくしから逃げることはできませんわ。実体化しているところを掴まれると、他の場所も煙には変えられないのでしょうか? それとも、激痛などで集中しなければ、能力を使えない? まあ、どちらでも構いませんわ」


 女はそう言うと、にっこりと無機質な笑顔を浮かべるのであった。


「今ここで、また一つ悪が消え去るのですから」









 ◆



「うげぇ……」


 私は思わずそんな声を漏らしていた。

 アルが『とりあえず逃げた男を捕まえて八つ裂きにしよう』と発言。


 どうやら、私の力を受けても、ルドーは死ななかったらしい。

 な、なかなかやるじゃない。


 で、貴族もぶっ殺すらしいけど、優先順位的に明確な悪判定されたルドーを追いかけて殺すと。

 ……一度逃げ切ったと思ったら、どこまでも追いかけてくる勇者。


 こわっ……。

 だけれども、その恐怖を感じることは、ルドーはなかった。


「……えぐっ」


 追いかけていった先にあったのは、ルドー含め領主の男さえも血だらけで倒れている現場だったからだ。




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殺戮皇の悪しき統治 ~リョナグロ鬱ゲーの極悪中ボスさん、変なのを頭の中に飼う~


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