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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~  作者: 溝上 良
第2章 5人の勇者たち編

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第29話 臭い、臭いぞ

 










 吹き飛ばされた暗殺者たち。

 宿から飛び出し、地面を転がり姿勢を立て直す。


 彼らの実力を示すように、スピカの一撃を受けても、誰も命を落としていなかった。

 とはいえ、さすがに無傷とはいかなかったようで、何人かは負傷している。


 だが、大丈夫だ。任務の達成に支障はない。

 動けなくなれば、自分を犠牲にしてスピカたちの隙を作り、自分事味方に殺してもらえばいいのだから。


「かなり手練れの……本物の暗殺集団みたいだねぇ。嫌だなぁ」


 そんな暗殺者たちの前に、ズドン! と重たい音と共にスピカが降ってくる。

 巨大な鉄槌は、まともに当たれば人間を一瞬で粉々にしてしまいそうである。


 ただ、それを振るえる彼女の力に、暗殺者たちも目を見張っていた。


「…………っ!」


 背後から鋭い剣閃。

 暗殺者たちはとっさに飛びずさって、そこから逃れる。


 ゆらりと幽鬼のように佇んでいるのは、ルルであった。


「私の一番嫌いなことを教えてやる。眠りを邪魔されることにゃ」

「真面目な顔してバカみたいなこと言ってるぅ」


 ブンブンと聖剣を振るいながら、怒りを露わにしているルル。

 寝ることこそが楽しいのに、それを邪魔するなんて許さん。


 ぶち殺してやる。


「で、何であんな本職に命を狙われなきゃいけないのよ。何かしたの?」

「どうかなぁ。あの方はともかく、私が狙われる要因ってほとんどないと思うんだけどぉ。ルルは?」

「私は勇者だから、一応恨みとかは買っているだろうけど……。人間より、魔族の方が多い気がするにゃ」


 かなり手練れの暗殺者たちである。

 こういった有能な組織に依頼するのは、かなり権力と財力がないと不可能だ。


 そんな相手に恨みを買っていたかと問われると、心当たりがないではないが、腑に落ちないところもあった。


「目的とか名前とか聞いても、教えてくれないよねぇ?」

「…………」


 スピカの問いに答えることなく、彼らは剣を抜き、襲い掛かってきた。


「あー、だるいにゃ!」










 ◆



 ルルとスピカ、そして暗殺者たちの戦いは、まさに一進一退の攻防となっていた。

 聖剣を振るう勇者と、強靭な力を持つ騎士。


 世界でも上から数えた方が早い彼女たちを相手に、いまだ誰も戦線を離脱しないで戦えている暗殺者たちの能力の高さは、目を見張るべきものがあった。

 理由としては、いくつかある。


 今は深夜で、ルルとスピカは夜半の戦闘をそれほど経験していないから、目が慣れていない。

 寝起きということもあるから、なおさらだ。


 一方で、暗殺者たちは闇夜に紛れて任務を達成するため、むしろ主戦場である。

 また、暗殺者たちの方が数が多いということと、連携がしっかりとれているということもあった。


 彼らは一つのチームとなって、対象の命を狙う。

 誰かが足止めしていれば、誰かが近接戦闘を仕掛け、離れた場所から武器を投擲する。


 流れるような連携に、隙は一分もなかった。

 逆に、スピカは騎士であるから多少の連携訓練は受けているものの、ルルとは初めて。


 また、気ままに行動するルルに連携なんて言われてもうまくできるはずもなく、苦戦を強いられているのであった。


「ちっ。面倒くさいにゃあ」


 ついそんな声を漏らしてしまうルル。

 それほど殺意の高くない勇者である彼女だが、目の前の彼らは自分の安眠を邪魔したということもあって、非常に鬱陶しい存在だった。


 つまり、とてつもなくぶっ殺したかった。


「じゃあ、ここはひとつ取引をするのはどうだ? 強き勇者と騎士様」


 暗殺者たちからの攻撃がピタリと止まる。

 彼らを率いるような立ち位置に突如として現れた、一人の男。


「どちら様ぁ?」

「私はルドー。暗殺ギルド『渦』のマスターをしている。まあ、支部の一つだがな」


 仰々しく頭を下げる男……ルドー。

 あっさりと情報を開示したことに、ルルは眉を顰める。


「まさか、そんなあっさり教えてくれるなんてね。私たちを生かしておくつもりがないから、名乗ってくれたのかしら?」

「いや、そうじゃない。むしろ、逆だ。取引をするために、誠意を見せたと思ってくれ」

「逆?」


 取引という言葉に、ルルは怪訝そうな表情を浮かべる。

 いきなり殺しにかかってきておいて何を言ってんだこのハゲ、と思わないでもなかった。


「それが、さっき言っていた取引だ。私たちはお前たちを殺さず、手を引く。だから、これから起こることにも、お前たちは首を突っ込まないでもらいたい」

「何をするつもりかなぁ?」

「誘拐だ。ハンナと呼ばれる人間のな」


 ルドーは隠すことなく言った。

 今更隠す必要もないからだ。


 手を引いてもらうために、誠意を見せたのだ。


「今回のことを起こすにあたり、お前たちが邪魔になると考え、排除することにした。本当なら、お前たちが去ってから行動を起こしたかったんだが……依頼主はどうにもせっかちでな」


 勇者も騎士もここに常駐するわけではなく、ハンナは逆にこの村を生活の場としている。

 彼女らが去った後に襲撃すれば、あっさりと誘拐することに成功していただろう。


 しかし、どうやら依頼主のターリスは我慢できないようだった。

 彼からすれば、すでに魔王軍四天王のルードリックが失敗していることから、随分前からハンナに手が届きそうで届かない、歯がゆい思いをしていた。


 今も目の前にニンジンが垂らされている状況なのだ。

 これ以上我慢なんてできるはずもなかった。


「このまま戦っても、お互いにいいことはないだろう。両方決定打を欠いている。いつまで経っても結果が出ない戦いなんて、何の意味もない」

「それは確かにぃ」

「おい、騎士。なんであっさり取引に応じようとしてんのよ」


 あっさりと一般市民を売ろうとしている騎士を、ジトッとした目で睨みつけるルル。

 確かに膠着状態で、命の危険と隣り合わせの戦いをしている。


 だからと言って、ハンナを誘拐しようとしているのを、はいそうですかと見逃せるはずもなかった。


「一応、私も勇者だからね。人を害しようと宣言されているのに、それを見過ごすことなんてできないにゃ」

「……そうか、残念だ」


 本当に残念だと思いつつも、すぐに切り替えたルドー。

 正直、どちらでもよかったのだ。


 彼女らを殺せないのは分かった。

 だから、時間稼ぎの足止めをする。


 数の利は、こちらにあるのだ。


「お前ら、こいつらの足止めをしていろ。私が攫ってくる」

「行かせないわ!」


 猫の獣人の脚力で、一気に距離を詰めるルル。

 暗殺者たちはもちろん、ルドーですら反応できないほどの早業。


 聖剣が彼の身体を捉え……すり抜けた。


「はっ!?」


 ありえない事象に、目を丸くするルル。

 聖剣をその身に受けたはずのルドーは、余裕の笑みだ。


 むかつく。ぶっ飛ばしたい。

 ルルは強く思った。


「行かせてもらうさ。じゃあな」


 攻撃が通らない相手を止められるはずもない。

 勇者と騎士。


 その二人がいながら、ハンナを誘拐されそうになり……。


「――――――臭い、臭いぞ。こんな夜中に、ゴミの匂いを嗅がせられるとはな」


 静かな夜に、悍ましい声が聞こえてきた。

 それは、ルドーの部下、暗殺者の一人の背後から聞こえてきた。


 誰も気づかなかった接近。

 慌てて振り返ろうとするが、もう遅い。


「ふぅん!!」


 すでに瓦礫付きの聖剣を振り上げていたアルバラードは、それを思いきり振り下ろした。

 グチャッ、である。


 これ以上の描写は控えなければならないほどの、グチャッである。


「うわぁ……」

「……なんだ、お前は?」


 ルルはドン引きである。

 こいつ、やりやがった。


 暗殺者を撲殺する勇者がどこにいるというのか。

 ルドーが警戒心を露わに問いかけると、アルバラードは誇らしげに言った。


「絶対正義の象徴だ」

「違うわ」


 眠いのにたたき起こされた聖剣の精霊は、半分意識を飛ばしながらもそう答えるのであった。




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殺戮皇の悪しき統治 ~リョナグロ鬱ゲーの極悪中ボスさん、変なのを頭の中に飼う~


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