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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~  作者: 溝上 良
第2章 5人の勇者たち編

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第25話 勝ち誇った笑み

 










 領地を治める貴族のターリス。

 かつては魔王軍四天王の一人であるルードリックとつながっていた彼だが、先日【ちょっとした事故】があったため、現在は明確に口に出してはいないものの、契約解除の状態になっていた。


 ターリスはそれに困っている。

 ルードリックは、彼にとって強力な実力行使の駒だった。


 荒事や汚れ仕事を一手に引き受けていた彼がいなくなったことは、非常に痛い。

 とはいえ、さすがに魔族領に戻った彼と連絡を取る手段は持ち合わせていない。


 だから、ターリスはルードリックに代わる強大な力を持つ手駒を欲した。

 しかし、そんな貴重な人材は、ゴロゴロ在野に転がっているはずもない。


 そのため、彼は邪道に手を出した。

 まあ、魔族とつながっていたという時点で邪道なので、今更気にしないが。


「よくぞ私の元にたどり着けたな」


 そんなターリスの前に立っている男。

 声から男と判断したが、顔はローブで覆われていて窺うことができない。


 貴族である彼にかなり不敬な言葉遣いだが、気にしない。

 領民ではないし、そもそも堅気ではないのだから。


「お前も知っているだろうが、紹介だよ。私一人の力では、当然君たちにたどり着くことはできなかっただろう。汚いことはするが、基本的にやらせる立場だしな」


 ターリスの貴族の伝手で、この男と接触することができた。

 でなければ、一生顔を合わせることはなかっただろう。


 それを聞いて、ローブの男はほくそ笑む。


「汚いこと、ね。それを今から我々にやらせようというのに、随分な言い草だ」

「汚いということを自覚し、それを生業にしている生粋の暗殺集団だと思っていたが……違ったかな?」


 ローブの男は、ターリスの言った通り暗殺者だった。

 もちろん、裏社会で名をはせている、実力屈指の男である。


 でなければ、こんなにも不敬な言動をターリスが許すはずもなかった。

 とはいえ、少し苛立ちを覚えていたのも事実。


 少しばかりの反撃で、嫌味を言えば……。


「…………?」


 目の前にいたはずのフードの男が、瞬きする間に姿を消していた。

 どこに行ったのかと視線を巡らせ……自分の首元にナイフが添えられていることに気づき、ゾッと背筋を凍らせた。


「貴族様は口が達者だ。だが、あまり舌を動かさない方がいい。あまりにうるさいと、切り落としてしまいそうだ」

「す、すまない。だから、剣をどけてくれ」


 ぼそぼそと耳元でささやかれ、ターリスは生きた心地がしなかった。

 貴族であり、普段の生活では尊重され気遣いされるのが当たり前である彼。


 当然命の危険を感じるようなこともないので、なおさら恐怖は大きかった。

 男もちょっとした脅しのつもりもあったようで、すぐにナイフを懐に戻した。


 荒くなった息を整えながら、ターリスが言う。


「……見えなかったぞ、今の動き」

「素人に認識されるような動きしかできなければ、私たちのいる社会ではすぐに淘汰され殺されているよ」

「なるほど。やはり、お前たちに頼むことが最良のようだ」


 馬鹿にするように鼻で笑う男に、ターリスは言い返すことができなかった。

 彼の言う通り、裏社会は表よりもはるかに厳しい世界だろう。


 そんなところで無能が長生きできるはずもない。

 確固とした実力があるからこそ生き延び、そして決して表には出せないような依頼を信頼して任せられるのだ。


「で、標的は?」

「この女だ」


 ターリスは準備していたハンナの姿が収められた水晶を渡す。

 空間に浮かび上がる彼女を見て、男は品定めをするように観察する。


「ふむ……強いのか?」

「いや、強くはない。それに、今回お前たちに依頼したいのは、殺しではなく誘拐だ」


 ハンナを殺されてはかなわない。

 あれは、とても有能な錬金術師なのだ。


 手元に置いて、自分に巨万の富をもたらす、金のなる木なのである。

 暗殺者に誘拐を頼むというのも一見するとおかしな話だが、こういった依頼が舞い込んでくることはよくある。


 男は特別そういう仕事が好きではないが、依頼ならば仕方ない。

 ため息をつきながら口を開く。


「そうか。まあ、珍しくない。ただ、殺さないのも結構大変なんだ。報酬は、殺しよりも高くなるが」

「構わん。金に糸目はつけん」

「金払いのいい顧客は好きだ。では、安心して待っておけ。すぐにお前のめあてのものをとどけてやろう」


 男はすでに依頼が達成すると信じていた。

 これは、油断ではない。


 今までの実績と自分の能力の高さからくる、確固とした自信である。

 戦う能力も高くないという情報から、簡単な仕事だと笑った。


「ああ、頼む。……それと、一つだけ依頼主からの忠告だ」

「忠告?」


 ターリスの言葉に、深いローブの下で眉を顰める男。

 荒事なんて一切しないような貴族のボンボンが、自分に忠告だと?


 一瞬沸騰しそうになるが、大切な金払いのいい客を殺すわけにもいかない。

 依頼主を殺す暗殺者など、誰からも信頼されなくなる。


 そして、こういった汚い仕事は、内容と異なって信頼が大切なのだ。

 命を狙われて反撃するならまだしも、ただ腹が立ったから殺しました、ではこの先を生きていくことはできない。


 そんな葛藤があったとは知りもしないターリスは、純粋に善意で忠告する。


「その女の近くに、かなりの腕を持つ男がいるはずだ。私の以前持っていたとっておきの駒でも、おそらくは倒せなかった。まあ、重傷は負わせているようだが」

「不要だな、その忠告は」


 そんなターリスの好意を、一瞬で切り捨てる男。


「手負いの人間に敗北するなんてありえるはずがない。それに……」


 男は馬鹿にするように笑った。


「私を打ち倒せる者など、存在しない。それこそ勇者でも連れてこない限り、な」

「ふっ、頼もしいな」


 ターリスは笑う。

 当たり前のことだが、彼の言っていた腕の立つ男とは、魔王軍四天王の一人であるルードリックのことである。


 だが、それを馬鹿正直に話すわけにはいかない。

 人類に対する明確な裏切りである。


 それも、心の底から信用できるはずもない暗殺者風情に、口を割るわけにはいかない。

 もし、この情報が男に伝わっていたら。


 そもそもの前提条件が崩れるので、彼はそもそも依頼を受けなかったか、もっと準備を整えてから臨んでいたことだろう。

 魔王軍四天王は、それこそ勇者と匹敵するほどの強者なのだから。


 この情報が伝わっていたら、男が依頼を失敗することはなかったかもしれない。


「では、ハンナを私の元に連れてこい」


 そんな未来なんて知る由もなく、ターリスは勝ち誇った笑みを浮かべるのであった。




第2章スタートです。

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殺戮皇の悪しき統治 ~リョナグロ鬱ゲーの極悪中ボスさん、変なのを頭の中に飼う~


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勇者でも連れてこないと →勇者2人いる 終わった
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