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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~  作者: 溝上 良
第1章 自称勇者と自称聖剣編

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第24話 うちよりひどいやないか!!

 










「で、だ。言い訳を聞こうか、犯罪者よ」


 仁王立ちするアル。

 その前に、小鹿のように震えているハンナ。


 ……弱い生き物が怯えて震えているのって、ちょっと面白いわよね。

 私、好き。


「ちょっと待ってや! もう処刑する気満々やん! 嫌やぁ! こんな死に方嫌やあ!」


 大泣きしながらジタバタと暴れるハンナ。

 恥とかは感じないの……?


 だいたい、そんな意地汚い姿を見せて、アルが諦めてくれるとでも?

 だったら、私だって大泣きして解放してくれるよう懇願しているわ。


 ……うわ、涙とか鼻水とかでめっちゃブサイクになっているわ。


「あの悪名高い『快楽人体実験錬金術師』が、こんな若い女の子とは思わなかったなあ」

「手配書は出回っていなかったの?」

「顔をうまく隠して逃げていたみたいだよぉ。だから、調査と言っても空振りに終わるかと思っていたけどぉ……」


 スピカによれば、ハンナは指名手配犯らしいが、それほど重要度の高い犯罪者ではなかったようだ。

 だから、そんな大した悪行はしていないようだけれど……アルにそんな区別なんてつかないだろう。


「まあ、見つかってよかった。あの方も喜んでくれるしぃ。じゃ、行こうか」

「え、どこに?」

「王都だよぉ?」

「嫌や! 絶対殺されるもん! それか、うちの研究目当てに拷問されるもん!」

「抱き着くな、犯罪者」


 アルの中では完全にハンナは犯罪者扱いのようだった。

 証拠さえそろったら全力で殺しにかかるんだろうな。


 しかし、王都って……。

 処刑台って、王都とかにしかないのかしら?


「というか、別に自分の快楽のために人体実験なんかしてないわ! モルモットもちゃんと選んでたし、セーフやろ!」

「どういうこと?」


 人のことをモルモットと言っている時点で、ハンナの倫理観も相当ぶっ壊れていると思うのだけれど……。

 まあ、この子が死のうがどうしようがどうでもいいので、暇つぶしに聞いてみる。


「技術の発展や発明に、人体実験は絶対必要や。やらんより、やった方がはるかに進む。これは言い訳でもなく、間違いない事実や」


 それは……まあ、確かにそうかもしれない。

 文明の発展の速度は、その方が早いかもしれないわね。


 別に人間社会が発展しようが衰退しようがどうでもいいけれど。


「それに、モルモットも一般市民とかちゃうで? ちゃんと犯罪者を調達してやってたんや! だれかれ構わず、自分のために人体実験してたんとちゃうからな!」


 ピクリと、アルの身体が動く。

 まあ、悪人を相手に人体実験をしていたとしても実際どうなのだろうと思うのだけれど、彼には意外と刺さる言葉だろう。


 うーんと悩む様子を見せるアル。

 そんな彼の様子を、固唾をのんで見守るハンナ。


 そして、答えが出た。


「……セーフ」

「よっっっっっっしゃあ!!」


 渾身のガッツポーズを披露するハンナ。

 膝をつき、天を仰ぐそのしぐさは大げさと言えるだろうが、彼女からすればそれほど切羽詰まったものだった。


 まさか、アルからセーフ判定をもぎ取るとは……。

 私は驚愕していた。


 人の話を聞かない暴走機関車である彼を、よくぞ……。

 まあ、悪人を人体実験にしているというところがよかったのだろう。


 ……アルも倫理観おかしいわ。


「まさかの逆転セーフ。よくあの状態にまでなったアルを翻意させられたわね」

「自分で言うのもなんやけど、うちの研究って結構人のためになってるしな」


 それを聞いたアルは、ハンナにビシッと指さす。


「アルバラードポイント、10ポインツ」

「よっしゃ! ……アルバラードポイントってなんや?」


 一瞬喜んだハンナであったが、困惑したように私を見る。

 知らん。私を見るな。


「んー、でも困っちゃうなあ。私の命令は、連れてこいっていうものだしぃ」


 この結末に納得がいっていないのが、スピカである。

 彼女は明白にハンナが目的でやってきていたからだ。


 ちなみに、ルルはその命令には関係ないらしく、どこかで日向ぼっこしている。

 気ままな猫の獣人ね。


「嫌や。うちはてこでも動かんで」

「これは確実じゃないんだけど、別にあの方は処罰するために呼んでいるんじゃないと思うよ? 協力してほしいとかじゃないかなぁ?」

「だとしても、あの方っていうのが知らん奴やのにほいほいついていくわけないやん」


 さすが指名手配犯。警戒心が強い。

 スピカは困ったように笑う。


「うーん……すっごい偉い人だよ!」

「行くわけないやろ」

「えー、すっごい困るぅ」


 のんびりとした話し方を聞いているとそんなに困っていなさそうに見えるが……。

 スピカはうつむいて、ポツリと呟く。


「……拉致」

「なあ! すっごいやばいこと言うてんねんけど! うちのこと守ったってや!」


 アルにへばりつくハンナ。

 ……なんか近くないかしら?


 私は全然いいけど、ラーシャがちょくちょく怖いのよ。

 怒っているのに、なぜか興奮しているような……。


 人間って分からないわ。キモイ。


「確かに、人の意思に反して無理やり移動させることは、良くないな」

「よっしゃ!」


 アルの中で、すでにハンナは無罪放免。

 守るべき対象となっているようだった。


 これにはハンナもにっこり。


「……うーん?」

「どうしたの?」


 スピカがジーッとアルを見る。

 まさか、惚れたとかではないだろう。


 大して接点とかもないし。

 ラーシャやハンナみたいなちょろい女が、そうそう転がっているとも思えない。


 え? ハンナは違うって?

 ……いやぁ。


「いや、何か見覚えがあると思ってぇ……」

「ナンパ? ま、まさかアルに? 死にたいの……?」

「違うよぉ」


 スピカがあっさり否定したので、私はホッとする。

 アルに逆ナンはマズイ。


 ……いや、面白いか。傍から見ているだけだし。


「しかし、私には記憶がないな」

「うーん……どっかで見たと思うんだけど……」


 私もスピカと既知であるという記憶はない。

 誰かと間違えたか、他人の空似か……。


 ……アルみたいなのが複数いるとか、地獄ね。

 そんなことを思っていると、スピカが声を上げた。


「あっ、思い出した! 手配書で見たんだった!」

「…………うん?」


 全員がキョトンとしていた。

 ……手配書?


「国際指名手配犯、『殺人鬼』アルバラード!」

「うちよりひどいやないか!!」


 ハンナの拳が、アルのみぞおちに突き刺さったのであった。

 なお、手首を痛めて悶絶するのはハンナの方だった。




第1章終わりです!

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殺戮皇の悪しき統治 ~リョナグロ鬱ゲーの極悪中ボスさん、変なのを頭の中に飼う~


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