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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~  作者: 溝上 良
第1章 自称勇者と自称聖剣編

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第20話 結構偉い騎士

 










「はあ。やっぱり、力を出すのって疲れるわ……」


 私は肩こりをほぐすように腕を回す。

 自分が身体を動かしていないが、何か疲れるような気がするのだ。


 久々に力を使ったから、なおさらかもしれない。

 今まで、アルに聖剣の力を使わせてあげたことがなかったし。


 ……だというのに、今まで平然と戦い抜いてきたこいつって本当やばいわ。


「助かったぞ、愛剣。さすが、私と心が通じ合った間柄だ」

「なんでそんな的確に気持ち悪いことが言えるの……?」


 顔がよくなかったら最悪だ。

 やっぱり、人間って見た目がすべてね。


 ただ、聖剣は中身を見る。

 善と正義の心を持つ者にしか惹かれないのだ。


 私は惹かれないけど。


「もう使わせてあげないけどね」

「聞こえんなあ……」


 こいつ……っ。

 自分に都合の悪い時だけ聞こえなくなる耳なんて存在しないのよ!


 ……いや、私は使うけどね。

 知らんぷり、聞かなかったふり、見なかったふり。


 これ、面倒事から逃げる際には重要。

 覚えておくように。


「ところで、私以外の勇者よ。どうしてお前はここに?」

「まずは殺しかけたことに対する謝罪が先じゃないかしら……?」


 ピキピキと額に青筋を浮かべる猫の獣人。

 え? ルルって言うの?


 ……最近、覚える名前が多くて困っちゃうわ。

 アルに引きずり出される前は、静かな所で一人引きこもっているだけでよかったから……。


 ああ、戻りたい、ニート生活。

 引きこもり万歳。


「別に、気まぐれよ。私はどっかの軍に所属しているわけでもないし、気ままに旅をしているのよ。だから、たまたま立ち寄っただけ」


 ふうっとため息をつくルル。

 たまたま立ち寄った場所にアルみたいなのがいたら最悪だものね。分かるわ。


 そんな彼女に、アルはうんうんと頷いていた。


「私と同じか」

「へー、そうなの? じゃあ、結構気が合う……わけでもないにゃ。殺されかかっているし。ただ、他の勇者は割といい子ちゃんが多いから、堅苦しいのよね。そう考えると、楽というか……」


 うーんと悩むルル。

 全然この子のことは知らないけれども、結構気ままというか、自分をしっかりと持っている子だと思う。


 聖剣を扱えている以上、善や正義の心は持っているのは分かるが、やはり濃淡というものもある。

 他の勇者と比べて、そこまで熱心な方ではないのだろう。


「聖剣を使える人間はたいていいい子ちゃんよ。アルを除いて」

「私もいい子ちゃんだ」

「う、うん……」


 何も分かっていない様子のアルに説明してやれば、自信満々におかしな答えが返ってくる。

 いい子ちゃんは瓦礫で人を撲殺したり圧殺したりしないと思うのよ……。


「あ、でも、今回は行きたい方角が一緒だったから、国の人間と一緒にゃ」

「え!? こっちに国の犬が来るんか!?」


 今まで黙り込んでいたハンナが、ギョッとした様子で大声を出した。

 言い方が……。


 明らかに国に勤めている人間に対して嫌な印象を持っている人間の反応だった。


「そうよ。えーと……目的は何て言っていたかしら? 私はあまり興味がないからちゃんと聞いていなかったんだけど……」

「賊に襲撃された村の救援に来たとかじゃないの?」

「それはないんちゃう? そういうことをするのは、基本的に国じゃなくて領主やし。まあ、それも国と言われたらそうかもしれんけど、わざわざ別の領地から救援が来ることはないで。管轄を超えてるし、そっちの方がやばい」


 私の推察を、ハンナが否定する。

 なるほど、貴族というのはかなり権力を与えられているものなのね。


 まあ、領地持ちとそうでない違いもあるだろうし、領主となる貴族はかなり上澄みなのだろう。

 だというのにろくに管理していないとか、この辺りの領主ってやばくね?


「村の救援とかは言っていなかったわね。なんだか、人を捕まえるとか言っていたわ」

「む? 悪人か? 手を貸そう」


 聖剣を扱えてウキウキのアルが進言する。

 言っておくけど、もう手は貸さないからね?


 あの時はちょっとむかついたから力を貸してあげただけだから。

 ……そんな捨てられた子犬みたいな目で見てもダメよ、アル。


 だ、ダメ……。


「あんたはそいつを捕まえるんじゃなくてぶっ殺しそうだからダメにゃ。というか、あんたは魔王軍四天王をぶっ飛ばしたんだから、まずはそれを報告した方がいいかもね。かなりの偉業だし」


 ……そう言えばそうかもしれない。

 アルだから何とも思っていなかったが、魔王軍四天王を木っ端みじんに吹き飛ばしたのは、とんでもないことだろう。


 人類よりも個の能力が高い魔族。

 その中でも選ばれし者にしかなれない四天王。


 時代が時代なら、人類に甚大な被害をもたらすような強者である。

 それを倒したとすると、かなり誉れ高いことで……。


 ……あれ? 勇者っぽくない?

 ま、マズイわ! 私は勇者だなんて一ミリも認めていないのに、認めたことになっちゃう!


 しかし、それはアル自身が否定した。


「私は誰かから称賛されるためにしているのではないから、不要だ」

「……なんでちょっと勇者っぽいの?」


 ぐっ……! ここでも聖剣心に突き刺さるようなことを言う……!

 私はアルの本性を知っていてもこれである。


 ルルの持っているあいつなんて、もうウッキウキでアルを勇者だと信じ切っている。

 最悪よ……。


「ところで、さっきからなんでコソコソしているのよ?」

「え? なにが? 何もわからんでー」


 自分の持っていかれそうになる意識を引き戻すためにも、私はこっそり隠れようとしているハンナを見る。

 乳がでかすぎて隠れられていないわよ、乳牛女。ぺっ。


 彼女の怪訝な動きに首をかしげていると、足音が聞こえてきた。


「ルル~。勝手に行動したらダメって言ってるじゃんかぁ」

「あ、ごめんにゃ、スピカ」


 ひょっこりと現れたのは、柔らかそうな雰囲気を醸し出している女。

 ……また女。女だらけね。アルのハーレムかしら?


 まあ、全然そんなことないんだけどね。

 マジで女っけゼロだから。


 気の毒になるくらい、ひたすらに悪人をぶっ殺しまくっているから、そんな暇がまったくない。

 大丈夫かしら、こいつ……。


 私がそんな心配をしていると、ルルが新しく現れた女を紹介する。


「こちら、スピカ。結構偉い騎士にゃ」

「結構偉い騎士でーす」


 ニコニコと何も考えていないバカみたいな笑顔を見せてくる、自称結構偉い騎士。

 紹介の仕方もバカだし、された本人もバカみたいだし。


 ……また濃いのが来たわね。




過去作『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』のコミカライズ最新話が公開されました!

下記URLから飛べるので、ぜひご覧ください。

https://www.comic-valkyrie.com/jinruiuragiri/

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殺戮皇の悪しき統治 ~リョナグロ鬱ゲーの極悪中ボスさん、変なのを頭の中に飼う~


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