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第18話 死霊の嘆き

 










 聖剣には、それぞれ特別な力がある。

 それは、ルルの持つ聖剣も、またそうだった。


 先程のルードリックとの戦闘で、切り札として使おうとしていた能力。

 ルルも他の聖剣に詳しいわけではないのだが、自分の持つ聖剣の力は非常に強力なものだと認識していた。


 そのため、同じく他の聖剣も強大な力があるのだろう。

 すでに5人の勇者が確認されているため、アルバラードのことは偽者の勇者であると判断していた。


 では、勇者が勇者たり得るための聖剣(としている武器)の力は何なのか。

 ルルは非常に興味があった。


「何をしようが、その前に殺せる」


 ルードリックはそう確信していた。

 今から攻撃を仕掛けようとしていたならまだしも、すでに攻撃をし終えている。


 しかも、速度のある影の攻撃だ。

 ルードリックが魔王軍四天王に選ばれたのは、ひとえにこの能力があるからである。


 彼は、影を操ることができる。

 太陽が、光さえあれば、影はどこにでもできる。


 つまり、色々と準備をしなくとも、どこでも武器を調達して振るうことができる。

 しかも、どこにでもあるものなので、敵は四方八方を警戒しなければならない。


 汎用性の高い能力であり、殺傷能力もある。

 四天王に相応しい力である。


 そして、そんな影で槍を作り、それらはすでにアルバラードの身体めがけて突き進んでいた。

 何なら、アルバラードの影から作り出した武器である。


 完全に死角からの攻撃もあり、鍛え上げられた強者であっても命を落としかねない。


「(今までどのような強者でも、この不意打ちを初見で対応できたのは、魔王様と四天王の同僚しかいねえ。残念だったな、偽勇者)」


 ニヤリと笑うルードリック。

 奇襲、不意打ちとなっている攻撃。


 まさか、自分の影から槍が飛び出してきて身体に突き刺さるなんて、誰が想像できるだろうか。

 攻撃が届くと確信していた。


 それは、ルードリックだけでなく、勇者として能力が高いルルでさえも、そう思っていた。


「ふっ、効かんな」


 だから、その影の槍がアルバラードに触れる直前、あっさりと掻き消えたのを見て、愕然とした。


「攻撃が消えた……? いや、相殺されたのか?」


 ルードリックの眼には、アルバラードの身体を纏うように展開されてある、黒々とした靄が移っていた。

 それは、不定形で流れるように動いているが、しかし光を反射しないほどにどす黒かった。


「なんだ、それは……?」

「これこそが、俺と愛剣の絆の力だ」

「絆なんてないわ」


 どや顔で披露するアルバラード。

 真顔で否定する精霊。


「影、ね。なかなか使い勝手がいいじゃない。なるほど、強力な能力だわ。魔王軍の四天王に選ばれるにふさわしい力よね」


 うんうんと精霊は頷く。

 ちなみに、彼女が純粋に人を褒めることはない。


 基本的に相手を持ち上げるときは、その直後に落とすためである。

 落差があった方がダメージを負わせられやすい。


 ニヤリと彼女はほくそ笑む。


「でも、その影は、【闇】の中では無力そのものよ」

「闇、だと……!?」


 ぞわりとアルバラードの持つ聖剣からにじみ出る漆黒。

 それは、ルードリックの操る影よりも、はるかに暗く黒いものだった。


 光のない場所では、影は強さを失う。

 闇に影は勝てないのだ。


「たとえ、お前がこれからどれほど素晴らしい攻撃をしてこようとも、それが影を使ったものであるならば、私に届くことはないだろう」


 聖剣からあふれる闇をまとわりつかせながら、アルバラードは自信に満ち溢れた笑みを浮かべる。


「お前の努力は、すべてが無駄だ」

「こんなこと言う勇者なんて知らない」


 他人の努力を無駄だという勇者である。

 それは、勇者と言えるのだろうか?


 精霊は激しく困惑した。

 しかし、困惑していたのは、彼女だけではなかった。


「というか、闇を操る聖剣ってなに!? そんな聖剣あるわけないにゃ!」


 ルルが声を張り上げる。

 聖剣とは、善と正義の心を持つ者にしか使用できない。


 しかし、それは使用者だけでなく、聖剣自体がそういった善と正義の象徴ともいえる存在だからである。

 そんな聖剣が使う力が、【闇】。


 絶対聖剣じゃないじゃん……。


「ここにいるでしょう。ふざけないでくれるかしら。私よりも聖剣らしい聖剣なんて存在しないわ」

「光とかそういうものじゃないの!? 闇って真逆じゃん! むしろ、魔剣の類じゃん!」

「私を捕まえて魔剣とか舐めたことを言ってくれるわね。ぶっ殺すわよ……!」

「私の聖剣の精霊も、他の勇者の聖剣の精霊も見たことあるけど、こんな殺意マシマシな精霊見たことないわ……。絶対偽者だわ……」


 自分のことを聖剣と信じて止まない精霊。

 自分のことを勇者と信じて止まないアルバラードと、大して変わっていなかった。


 ルルが唖然としている中、精霊はアルバラードを囃し立てる。


「さあ、行きなさいアル! この世で最も美しい聖剣の私を使ってね!」

「【死霊の嘆き】」

「なにその邪悪な技名!?」


 アルバラードは精霊の言葉に従うままに、初めて聖剣の力を使った。

 ……そう、初めてである。


 ずっと今まで敵は撲殺してきたのだ。

 ぶっちゃけ、そこら辺の賊と何ら変わりない。


 だが、アルバラードはここに至り、初めて勇者としての力を振るった。

 そして、その力は、あまりにも強大だった。


 聖剣にまとわりつくようにほとばしっていた黒々とした闇。

 剣を振りかざし、そして振り下ろした。


「うおおおおおおおおっ!?」


 迫りくる闇の斬撃に、ルードリックは四天王としての矜持もプライドもすべて投げ捨て、命を救うために飛びずさった。

 その後先考えない行動が、彼の命をつなげた。


 ギリギリで闇の斬撃を避けることに成功した。

 だが、聖剣の力の恐ろしいところは、まだこれに続きがあったからである。


 いや、これからが本番だった。


「斬撃が止まったにゃ……?」


 闇の斬撃は、ターゲットであるルードリックを仕留められなかった。

 そのまま突き進み、何かに衝突して霧散する。


 それが普通であるはずなのに、その斬撃はなぜか宙で留まっている。

 轟々とうなりを上げて、悍ましいほどの存在感を放っている。


 そして、闇が牙をむいた。




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禍々しすぎるぞこいつら…いいコンビだ
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