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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~  作者: 溝上 良
第1章 自称勇者と自称聖剣編

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第16話 悪人の匂いがするぞ?

 










「うっわ、すっご。目の前で何が起きてんのかさっぱり分からんわ。てか、二人の姿見えへんねんけど」


 ガチガチに防備を固めた安全な工房の窓から、ハンナはこっそりと外を覗き込む。

 ガキン、ガキンと鈍い金属音が断続的に鳴り響いている。


 その音が強く鳴るときだけ、二人の姿がつばぜり合いという形で見ることができる。

 あとは、目にもとまらぬ速さで両者ともに駆け回り、一瞬の隙を伺っている。


 そのかすかな活路が見えた瞬間、この勝負は決着がつくだろう。

 どちらかの死という形で。


 激しい剣戟。

 大地は削れ、木々は斬り倒される。


「これが、魔王軍の四天王と、勇者かあ。そら強いわなあ。世界という広い視野で見た時でも、上から数えた方がはるかに早いやろうなあ」


 ハンナは自分が戦うタイプではないから、人を見てパッとどれほど強いか判断するのは難しい。

 だが、目の前で激闘を繰り広げる二人が強いということだけは、彼女でなくとも分かることだった。


「さて、ここであの子に戦いを押し付けて隠れてても、あの魔族が勝ったら次はうちやしな。助けてもらってる立場やし、うちもやらな」


 そう言って、動き始めるハンナ。

 ちなみにだが、確実に逃げ切ることができるのであれば、ルルを置いて逃げていたのは余談である。









 ◆



「ああああああ! キッツイにゃあああああ!!」

「ちっ、攻め切れねえなあ……!」


 怒声を上げながら激しい戦闘を繰り広げるルルとルードリック。

 両者ともに決め手に欠けるという状況だった。


 四天王と勇者。

 今まで、彼らは敵対する相手を容易く打ちのめしてきた。


 それほどの力を持っていたからだ。

 だが、今こうしてほぼ互角の戦いを繰り広げられる強敵が現れている。


 ルードリックはともかく、ルルは決して強者と戦いたいタイプではない。

 もうめちゃくちゃ嫌だった。


 気まぐれに困っていそうな人を助けようとしたのが間違いだった。

 ガン! と大きな音を立てて、お互い剣を振り払う。


 同時に距離を取ってにらみ合う。


「どうだ? お互い、このままだとなかなか決着がつかないだろう。俺のやることを見逃してくれたら、俺はお前を殺さないぞ? お前を見捨てて逃げている奴を庇う理由なんて、ないだろ」

「お前のやることは何よ?」

「……村人の皆殺し」


 そっと目を反らして言うルードリック。

 分かっている。この答え、絶対にダメだということを。


 だが、契約内容がそれなのだから、仕方ないではないか。

 そんな彼を、ルルが呆れたように見る。


「それ聞いて、勇者として見逃すことができると思っているの?」

「気まぐれそうな感じなのに、意外と責任感が強いんだな」

「じゃないと、聖剣なんて持てないにゃ」


 ブンブンと聖剣を振り回すルル。

 聖剣を扱うには、聖剣から好かれなければならない。


 そして、往々にして好かれるのは、善と正義の心を持つ者である。

 ルルはかなり気まぐれな性格ではあるが、聖剣の担い手になっていることから、そういう人間であることは保証されていた。


 しかし、そんな彼女でも、本当に助けた人間が速攻逃げ出していれば、やる気を失っていたかもしれない。

 そうならなかったのは、助けた人間であるハンナが、かなり打算的に逃走を判断しなかったからである。


「それに、どうやらただ逃げただけじゃないようよ?」


 ルルの言葉の通り、ルードリックの背後に現れる影があった。

 それは、巨大な人形だった。


 無機質で、明らかに人の手によってつくられたことが分かる、非生命体。

 しかし、それは自律して駆動していた。


「ちっ」


 生物ではないから、気配を感じることができなかった。

 とっさに振り返って粉々にしようとするルードリックであったが、生物では決してできない動きで、振るわれた剣を避ける人形。


 そのまま、ゴキゴキと嫌な音を立てながら身体を変形させ、6対ある腕を鳥かごのように広げる。

 そして、ルードリックの身体に巻き付かせると、強靭な力で完全に固定してしまった。


「とっておきの人形やで。燃費悪いからあまり遠出させられへんけど」


 窓からその様子を覗き見るハンナ。

 拘束してしまえば、あとはルルの聖剣でどうとでもなる。


 実際、拘束する力は強く、たいていの魔族なら身動き一つできないレベルだった。


「うざってえ!!」


 だが、その拘束は魔王軍四天王を止めるには、あまりにも非力だった。

 剣を振るうことはできなかった。


 人形にガチガチに拘束されていたからだ。

 だから、ルードリックは彼自身の力を使うことにした。


 人形を黒く鋭利なものが貫く。

 それは、ルードリックの影から現れ、形作られていた。


「なっ……!?」


 ハンナは愕然とする。

 今まで見たことがないような力であること。


 そして、自分でも強度には自信のあった人形を、一撃で粉々に破壊されてしまったことが原因である。

 ハンナは戦士ではなく、技術者である。


 自慢の人形をあっけなく壊されてしまい、うろたえてしまう。


「その隙で十分にゃ」


 だが、バリバリの戦闘職であるルルは、すでに構えを取っていた。

 それは、彼女の力を使うための構え。


 勇者が勇者として認められるが故の力。

 すなわち、聖剣の力を使おうとしていた。


「お前もな」


 だが、そんなことはルードリックは百も承知だった。

 ハンナ自慢の人形をあっけなく破壊した力を使おうとしていた。


 勇者と魔王軍四天王の本気の力のぶつかり合い。

 どちらが倒れても不思議ではない、そんな力と力のぶつかり合いとなる。


 世界で上から数えた方が早い者同士の激しい衝突が行われようとして……。


「――――――くんくん、くんくん」


 そんなへんてこな声がした。

 匂いを嗅ぐ様子を、言葉にしていた。


 馬鹿馬鹿しい言動であるはずだが、なぜかルルもルードリックも笑うことができなかった。

 ルルはしっぽをブワッと膨れ上がらせてピンと立たせ。


 ルードリックは吹き上がる冷や汗をそのままにしていた。

 何もされていないのに、ただその雰囲気だけでそうなってしまった。


 強者にしか分からない感覚。

 その強者をも飲み込んでしまえるほどの、暴力的なまでの圧倒的存在感におののいた。


 ガサガサと草木をかき分けてやってきたのは、獰猛な笑みを浮かべるやばい奴――――アルバラードであった。


「悪人の匂いがするぞ?」

「うわぁ……」


 もちろん、隣にそんなアルバラードの言動に引いている精霊を添えて。




過去作『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』の第3話が公開されました。

下記URLから、ぜひご覧ください!

https://www.comic-valkyrie.com/jinruiuragiri/

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殺戮皇の悪しき統治 ~リョナグロ鬱ゲーの極悪中ボスさん、変なのを頭の中に飼う~


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