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第14話 アルバラードってやつ、いる?

 










 アルはなんだかよくわからないといった顔をしている。

 全然人の心を理解していないわね、こいつ。


 人の心が分からない怪物。

 それなのに、私を強烈に引き付けた正義と善の心を持っている。


 ……色々とおかしくない?


「まあ、ともかくだ。私は決して揺るがない。ただ、この世にはびこる悪を全滅させるまで戦い続ける。ひいては、それがラーシャのような無辜の民を救うことにつながると信じている」

「…………」


 ラーシャの顔が……。

 ああ、もうこの子はダメね。


 明らかに手遅れ。確定的に明らか。


「あー! もうやめやめ! 余計な事言わんといてやほんまー! というか、うちは!?」


 ぎゃーぎゃーと騒ぐハンナ。

 この子ってこんな面白い性格だったかしら?


 別にラーシャに恋愛的だとか性欲的な感情は向けていないように見えるけど、他人とは異なる特別な想いは持っているみたいね。

 そんな彼女が他の男に興味を持つのが許しがたいと。


 ハンナはかわいいですね……。


「お前からは、微妙に悪っぽい匂いがする」

「また凄いことを言うわね、本人の前で。そんなわけ――――――」


 アルの直球すぎる言葉に、思わず眉をひそめてしまう。

 別に人間が傷つこうが死のうが私はまったく関係ないしお好きにどうぞという感じなのだが、アルが恨みを買えば私が嫌々戦う可能性が膨れ上がるものだから、何とか防ぎたい。


 それに、悪って……。

 面白爆乳クソ女がそんなことできるはずが……。


「な、なななななななな何を言うとるんや。ほんま意味分からんでっでででで。変なこと言わんといてほしいわぶっ殺すぞ」

「…………」


 わー、すっごい。

 目がグルグル回っているし冷や汗は滝のようだし身体が不規則に震えているし……。


 え、マジ? ハンナ、マジ?


「は、犯罪者がいるわ。アル、逃げましょう。危ないわ」

「そ、そこまでのことはしてへんわ! ……多分」


 そこまで以下のことはしているし、客観的に見たらそこまで以上のことをしている可能性もあると。

 何だこいつ。何しでかしたのよ。


「まあ、ハンナは後だ」

「え? 後で殺すん? 止めてほしいんやけど」

「とりあえず、貴族だ」

「ああ、あの殺害予告していた……。とんでもない重犯罪者になるんだけど、理解しているの?」


 ハンナを無視して、貴族……この村を治めている領主に殺意を向けるアル。

 貴族の殺害なんて、未遂であっても処刑待ったなしの重罪だろうに。


 まあ、そんな抑止力で止まる男じゃないのよね。

 私はげっそりとする。


 戦うの嫌なんだけど……。


「何か事情があって救援に来られなかったのかもしれん。だとしたら、殺すのはダメだ。やりすぎだろう。腕一本くらいだ」


 それもやりすぎでは……?

 私は訝しんだ。


「だが、理由もなく、あってもあくどいものだとしたら……」


 そこまで言うと言葉を止め、にっこりと笑うアル。


「その時は、その時だ」

「あれ、絶対殺す時の顔よ」

「えぐいわあ……」


 コソコソと私とハンナは震えた。

 ラーシャには何も言わなかった。


 どうせ、何も聞こえないだろうから。











 ◆



 ハンナは村の人々が暮らす場所より、少し離れた場所にある自分の工房の前で、ブツブツと呟いていた。

 ちなみに、決してラーシャ以外とはそんな良好な関係が築けていないことが原因で離れた場所に暮らしているとか、そういうわけではない。きっと。


 彼女は、村で生まれ育ったのではなく、村の外から移住してきたのだ。

 生まれた時から顔見知りが多い村で疎外感を感じるのは当然だった。


 まあ、別に自分から馴染もうともしていないので、特にダメージはないのだが。


「ほんまラーシャの男の趣味は何なんや……。あれだけは理解できひんわ」


 プンプンと怒るハンナ。

 一番大切……というか、唯一大切な友人であるラーシャの気持ちが、最近はもっぱらアルバラードに向けられている。


 それが不満だった。

 もっと自分と遊んでくれたり、構ってくれたりしてもいいのに……。


「いや、そらうちだってあの男には感謝してるで? 助けてもらわれへんかったら、うちも殺されてたやろうし」


 当然だが、アルバラードのことを不当に嫌っているわけではない。

 魔族と戦っていた自分のことを助けてくれたし、もっと言えば、そのままなら最低なことをされて命を落としていたラーシャのことも助けてくれた。


 正直、嫌いになる要素はどこにもない。

 ラーシャがアルバラードに目を奪われてばかりでなければ、だが。


「だからと言って、あんな簡単に惚れるんは違うやろ!」


 惚れている、とラーシャが口に出したわけではない。

 だが、傍から見ていたら明らかである。


 どうしてあのかわいいラーシャが、倫理観度外視のクレイジー自称勇者に惚れてしまうのか。

 これが分からない。


「ああ、うちのラーシャがうちのものだけじゃなくなってまう……。うちの唯一の友達やのにぃ……」


 ハンナは嘆く。

 自分の唯一の友人を取られてしまうと。


 そんな彼女は、顔を上げてスッと視線を向けた。


「で、おたくは誰や? 人の慟哭を聞くなんて、ええ趣味してるやん。変態か?」

「変態って呼ばれるようなことはしていないなあ」


 ハンナの言葉にあっさりと答えて出てきたのは、魔族の男。

 四天王の一人、ルードリックであった。


「また魔族か……。ええ思い出ないねんけど……。しかも、あんた前の魔族よりも強そうやし……」

「ああ、あれは俺の部下だよ。確かに、戦ったら俺の方が強いだろうな」

「最悪や……。報復か? 面倒くさいわ……」


 がっくりと肩を落とすハンナ。

 自分は戦闘タイプではないのである。


 素早く動くことも、相手を昏倒させるほどの力もない。

 ましてや、人体に致命的なダメージを与えるであろう雷撃を何度も受けても、ケロッとして剣という名の鈍器を振り回すこともできないのである。


 ただ、まあここは自分の工房の近くであり、色々と手立てはある。

 前回のように、ここから離れた場所ならば人形を持ってくることしかできなかったが。


「まあ、できるなら敵討ちくらいはしてやってもいいかと思っているが、それだけじゃねえよ。俺もそういうのは面倒だって思うタイプでな」


 なんとなく、相対しているルードリックもそれを察知していた。

 ハンナに怯えの色がないからである。


 別に、しょせんは人間。無理やり力で押しつぶすこともできようが……。


「じゃあ、その面倒くさがりが何の用や?」

「取引相手からの要望でな。あと、個人的なこともある」

「なんや?」


 ハンナの言葉に、強者の雰囲気を醸し出していたルードリックが崩れる。

 冷や汗を垂らし、顔色を青くしながら、コソコソと小さい声で囁いてきた。


「――――――アルバラードってやつ、いる?」

「うん、おるで」

「いやああ……」


 非常にか弱い小動物のような悲鳴を上げるルードリックであった。




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