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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~  作者: 溝上 良
第1章 自称勇者と自称聖剣編

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第12話 どうでもいいことだ

 










 スタスタと歩いてさっさと出て行こうとするルードリックの腕にへばりつくターリス。

 魔族としての身体能力と、大して鍛えていないターリスの膂力により、一方的に引きずられる形になっていた。


 力で止められないので、必死に言葉でとめようとターリスは声を張り上げる。


「魔王軍四天王ともあろう者が何を言ってるんだ!? 名前を聞いただけでビビりすぎだろう!!」

「ふざけんなバカ! その名前を聞いてなんで平然とできるんだよ! 頭おかしいのか!?」

「はあ!? 何を言っているか全然分からないんだが!?」

「ちっ!!」

「舌打ちでっか……」


 今まで見たことのないルードリックの姿に、ターリスは全力で引く。

 しかし、幸い出て行くことはいったん諦めてくれたようで、立ち止まる。


 男に抱き着く趣味もないので、ターリスもすぐに離れた。

 そんな彼を忌々しそうに見ながら、ボソリと呟くように言った。


「本当に知らないのかよ? アルバラードだぞ、アルバラード」

「だから、知らん。そんなに有名なのか?」


 どれだけ頭をひねっても、その名前が出てくることはない。

 まあ、その人物の分野というものもある。


 たとえば、ターリスは同じ貴族や取引のある商人、主だった部下の名前は把握しているが、王都で活躍している冒険者の名前などは知らない。

 アルバラードという男がどういった場所で名をはせているのか。


 そんなターリスをじっと見たルードリックは、ポツリと呟いた。


「――――――『頭のおかしい正義狂い』」

「あ?」

「『血みどろバーサーカー』。『生まれてくる世界が間違っていてほしかった奴』。『話が通じないやばい奴』。『諦めろ、通り過ぎるまで』。『絶望』」


 次から次へと飛び出してくる、耳障りにすら感じる悍ましい単語。

 ターリスは酷く混乱してしまう。


「お、おい、さっきから何を……」

「魔族の間で知られている、アルバラードの異名だよ」

「はあ?」


 ポカンと口を開けてしまう。

 ターリスがこんなにも間抜けな顔を見せるのは、子供の時からなかったかもしれない。


 何だそれは。

 一つだけでもおかしいのに、おかしいのが何個もついている。


「なんだそれは。化け物みたいじゃないか」

「化け物みたいなことを仕出かしているんだよ。人間らしいが、俺は信じていないぞ。こんな異名を持つ人間がいてたまるか」


 ルードリックは冷や汗を垂らしながら言葉を続ける。


「正直、俺も会ったことはないから分からん。顔も知らないし、そもそも顔を見た奴は大体殺されるから知れ渡りもしない」

「顔を見ただけで殺すってどういうことだ……?」


 ターリスは激しく混乱する。

 そんなの、通り魔みたいなものではないか。


 アルバラードという男は、魔族にも恐れられる通り魔なのか?


「だが、これだけ異名がついていることから、そういう奴だってことは分かっている。だから、俺は降りるって言ったんだよ」


 そう言うと、話は終わりだと切り上げ、ルードリックは扉に向かって歩く。

 だが、今彼に出て行ってもらうと困るのだ。


 ターリスの目論見に、四天王の力は非常に役立つのだから。


「……待て」

「なんだよ?」


 怪訝そうにルードリックが振り返る。

 彼が足を止めたのは、少なからず付き合いがあったからだろう。


 そして、これに二度目はない。

 ターリスは、この一度きりのチャンスを活かすことにした。


「そもそも、今回の賊を討伐した男が、貴様の言うアルバラードなのか?」

「……名前が一緒だけの別人ってことか? いや、それは……」


 少し逡巡するルードリック。

 確かに、その可能性もあるだろう。


 人間なんて、害虫と同じくらい多くいるのだから。

 だが、賊を全滅させ、戦闘に特化した魔族も打ち滅ぼしている。


 魔族の中で悪名高い、あのアルバラードである可能性は高いだろう。


「その可能性もあるが、あるいはアルバラードの名を騙っているだけかもしれん。魔王軍四天王のお前でも恐怖を覚えるような相手だ。その名を騙れば、余計な火の粉を払うことができる。まあ、お前の部下のように知らない者もいるようだが、より強者から絡まれなくなるとすると、旅人からするとこれ以上のものはないだろう」


 ターリスはさらに仮説を立てる。

 魔王軍四天王でさえも退かせるほどの悪名だ。


 危険を遠ざけるために、その名を騙る者もいて不思議ではない。

 普通に暮らすよりも危険な目にあいやすい旅人ならば、なおさらだ。


 それは、論理としては破綻していなかった。


「しかも、面相も知られていないのだろう? 名前を言うだけでいいんだ。手間もかからず、非常に簡単だ」

「……確かに、お前の言うことも理解できるな。だが、俺の部下も……」


 そこがどうにも引っかかる。

 名を騙るような弱者ならば、部下の魔族は殺されることはないだろう。


「お前も言っていたように、重傷を負っている可能性が高い。そもそも、実際アルバラードのことを、お前は直接目にしたことはないだろう? 噂は尾ひれがつくものだ。実際、どの程度の男なのかは分からんだろう」

「…………」


 ルードリックは、遂に黙り込んだ。

 ターリスの言葉に、信ぴょう性を感じてしまった。


 部下を圧倒した……とは考えづらい。

 一進一退の激闘を繰り広げ、相討ちに近い形で決着がついたと考えるのが妥当だ。


 それならば、まだギリギリ納得できる。

 また、アルバラードを直接自分の眼で見ていないというのも事実だ。


 ルードリックが思案しているのを見て、ターリスはとどめの一言を発する。


「そもそも、魔王軍四天王が、人間一人に怯えて戦いもせず逃げるなど……程度が知れる」

「なんだと? 今、ここでお前を始末してやってもいいんだぞ。契約があるから協力しているだけだということを忘れるなよ」


 ギロリと、ルードリックがターリスを睨みつける。

 その殺意は、暴風が吹き荒れたのかと錯覚させるほどの、恐ろしいものだった。


 ターリスも、無様に尻もちをつかなかったことが奇跡だと、自分で思うほどだった。


「……言ってくれるな」


 しかし、ルードリックは殺意を消して、息を吐く。

 確かに、今までの自分は、何とも情けなかった。


「いいだろう、お前に従ってやる。だから、この人類圏で俺たち魔族の活動の後ろ盾、今まで以上にしっかりしてもらうぞ」

「ああ、構わない」


 今度こそ、出て行くルードリックを止めることはなかった。

 ギリギリで首をつなぐことができたターリスは、安堵の息を漏らしながら、深く椅子に腰かける。


「どうでもいいことだ。あの女……ハンナを捕らえられるのであれば、何を失おうがな」



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