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序章 1-2



 元々一族の人数が少なかったサイレン大公家が、ここまで少人数となってしまった裏には大きな事件が関連していた。

 サイレンという国の屋台骨が、折れてしまいかねないほどの出来事が起きたのだ。


 サイレン家には三つの家系があった。

 カーラム家、ウェッディン家、リム家である。


 現大公のフランクはリム家出身で、ウェッディン家の当主がルノー、そしてもう一つのカーラム家は、いまは滅亡してしまっている。

 カーラム家はサイレン大公家の中でも、最大の力と格式を持った家系であった。

 サイレン家といえば、このカーラム家を指すほどに権勢を誇っていた時期もある。


 そのカーラム・サイレン家が滅亡する原因となった大事件が、いまから七十年近く前に起こったトールン大乱と呼ばれる大政争であった。

 結果として最大規模を誇ったカーラム家はこの世から消え去り、ウェッディン家は細々と残ったものの凋落してしまい、唯一リム家のみが大公家としての体裁を保っているのが、いまのサイレン家の現状である。


 この大乱により、サイレンという名を冠する者の数が極端に減ってしまった。

 いつ血筋が絶えてしまっても、一向不思議ではないのだ。

 それ故大公家の血を引くものの存在は、なによりも最優先されるようになって行った。


 なにはともあれこの大事件を知らずして、現在のサイレン公国を語ることは出来ない。

 しばらくは、サイレン公国の歴史の中で最大の内乱『トールン大乱』のあらましを語って行こう。



 当時のサイレン大公国は、四代六十数年に渡りカーラム家出身の大公が政権を独占していた。

 権力の座に胡坐をかき、他国との戦に明け暮れ、良民からは重税を搾り取るという時代が二十年以上続いており、国は疲弊し民の心は大公家からすでに離れてしまっていた。


 トールン宮廷は名ばかりのものとなっており、宰相や各大臣・長官たちもみなただの飾りに過ぎず、実権は大公側近がすべてを握り政を自由に操っていた。

 そんな時、当時の大公が臣下の館に滞在している際に、暗殺されてしまうという一大事が発生してしまった。


 カーラム家とその側近たちによる恐怖政治に対する不満が頂点にまで達し、とうとう爆発してしまった事件であった。

 これがトールン大乱と呼ばれた、約一年弱に渡る熾烈な政争の幕開けとなった。



 その臣下とは、ネルバ方爵家と肩を並べる大貴族バラン侯爵一族である。

 いまはサイレン五名家と言われているが、元々はサイレン六名家であり、バラン侯爵家はサイレン大公家から分家臣籍降下した一族で、他の五家が元からの家臣なのに対して、血筋から言えばサイレン家に連なる名門中の名門である。


 当主のクローネ・フォン=バランは文武に優れ、心が広く温厚な性格で民からの信任も厚い人物であった。

 戦では常に陣頭に立って敵に当たり、文にあっては宰相に次ぐ大公政務顧問を務めるほどの人格者でもある。


 いままでになん度も大公に対して政の改革建白書を提出していたが、一切を無視され続けていた。

 それでも大公家に次ぐ三家ある親族貴族の筆頭として、ことある毎に他の諸侯並びに民の代弁者となり独裁的な政に口を挟み、大公とその側近たちの暴走の歯止めとなっていた。


 そのクローネ侯爵がこともあろうに主君である大公を、酒宴の席にて暗殺してしまったのである。

 この大事件でトールンは、上を下への大騒動となってしまった。


 この事件の直後からバラン家はその広大な敷地を持つ館に立てこもり、押し寄せて来る聖龍騎士団と近衛騎士団を迎え撃った。



 館の門上に大公の首を晒し、


『この者国事を忘れ、民の苦しみを顧みず私欲に走りし国賊であるが故に、ここに成敗した。

 なんのわが命は惜しくはなけれど、この赤心を公にするために自死を選ばず、ここにて一戦ご覧に入れようと存ずる。

 寄せ手の方々には見知った者もおられようが、ご遠慮召さるな。存分に掛かって参られよ。

 われ醜き首を世に晒そうとも、一族を滅ぼそうとも一片の悔いはなし。

 たれかわが意気に感ずるものあらば、国の行く末をお頼み申し上げたい。

 たとえ此の身は滅びようとも、わが心は永遠(とわ)にサイレンの地にとどまり護国の鬼とならん。

 重ねて申す、これは私事にあらず。憂国の心による国事である。

 わがバラン家の心意は、最期までサイレンに尽くすもの成り』


 という立札が建てられた。


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